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2017.09.21

「ヒロインの旅」系シナリオ花盛りの理由

レビュー / ケン・ミヤモト, シカ・マッケンジー

いま、国内外の映画において新たな脚光を浴びる女性キャラクター。女性が登場人物として描かれる作品には、当然ながら男性とは違った奥深さが存在し、観る者を魅了する。

では、その奥深さの正体とは一体何なのか? どうすればそのような女性を描くことができるのか?

2017年公開の映画「ワンダーウーマン」や、物語創作において読み継がれる『英雄の旅』『ヒロインの旅』などを例に、その特徴を解説する。

 

『ハンガー・ゲーム』のカットニスに『モアナと伝説の海』のモアナ。『スター・ウォーズ』シリーズでは『フォースの覚醒』のレイ、『ローグ・ワン』のジン・アーソ。最近では『ワンダーウーマン』の公開と、ヒロイン活躍系の映画が花盛りだ。

大作映画を沸かせてくれる女性キャラといえば、昔はサラ・コナー(『ターミネーター』シリーズ)とエレン・リプリー(『エイリアン』シリーズ)ぐらいしかいなかった。僕らが育った頃とは明らかに流れが違う。

その裏にはハリウッドがずっと下敷きにしてきた「英雄の旅」系ストーリーの飽和状態がある。「英雄の旅」とはジョゼフ・キャンベルが唱えた神話の構造だ。あらゆるストーリーに普遍とされ、クリストファー・ボグラー著『神話の法則―ライターズ・ジャーニー』(岡田勲監訳、講元美香訳、ストーリーアーツ&サイエンス研究所)と共に映画シナリオ構成術の金字塔となってきた。

この構成やコンセプトから多くの名作が生まれてきたし、今後も生まれていくだろう。だが時代は変わりつつある。

実は、キャンベルの「モノミス(あらゆる神話の構造は単一という仮説)」は男性的な性質や価値観にのみ当てはまる。現に『英雄の旅』の本には女性の役割は二つしか出てこない。一つは女性を恋愛対象か聖母のように神聖視する「女神との出会い」。もう一つはヒーローをエロティックに惑わす「誘惑する女」だ。

さすがにいまどき、これだけでは済まないだろう。

 

 

ハリウッドは強いヒロインが描けず、昔から苦労してきた。あのマーベル・シネマティック・ユニバースでさえ人気者のブラック・ウィドウ主役の映画はまだ出していない。

だが、ようやくラブコメ以外のジャンルでヒロイン活躍系の映画が増加傾向にある。社会が変わってきたということだ。

そもそもキャンベルの理論は過去の歴史に視点を置いている。中にはひどい男尊女卑の時代もあったはずだ。男に従属していない女は魔物扱いされていた。女が兵士や旅人になることは禁じられていた。20世紀に入っても「女は男を立てるもの」という風潮があった。特に1950年代がそうだ。

過去をなぞるジョゼフ・キャンベルの視点に加え、今後、変わっていく社会を映す理論が「ヒロインの旅」だ。女性が演じる役割を考えるなら必見のセオリーである。

 

「英雄の旅」と「ヒロインの旅」はどう違う?

「するとキャンベル氏は、そもそも女に旅は不要だと言った。神話の女性はただ『存在』するだけです。女性は人々が目指す行き先、たどり着く場所だ。自分でその価値に気づけば迷わずに済みます」(『ヒロインの旅:女性性から読み解く<本当の自分>と創造的な生き方』モーリーン・マードック著、シカ・マッケンジー訳、フィルムアート社)

ジョゼフ・キャンベル本人に話を聞いたモーリーン・マードックは後に「ヒロインの旅」理論を打ち立てた。キャンベルが未来を予見していなかったのは明らかだ。

マードックは著書『ヒロインの旅』で女性性の成長を10段階に分けて説明している。最近のヒット作『ワンダーウーマン』と照らし合わせて見てみよう。

 

1.女性性からの分離―母親や女として期待される役割を拒否する。王女ダイアナ(ワンダーウーマン)は戦士になることを夢見るが、母に禁じられる。
2. 男性性との自己同一視と仲間集め―決められた役割とは別の道を選ぶ;男性主導の組織や役割に対する戦いを決意する。ダイアナは島に不時着した第一次大戦のパイロットを見つける。彼女にとって初めての男性との出会い。戦争で大量虐殺が行なわれそうだと聞き、共に戦うことを決意する。
3. 試練の道:怪物やドラゴンとの遭遇―ヒロインは試練に遭い、自らの選択に反対する人々や妨害者(怪物やドラゴンなど)と出会う。文明社会にやってきたダイアナは驚きながら「道」を歩んでいく。前線に出たいと言うと、ことごとく反対される。
4. 成功の幻想―ヒロインは障害を乗り越える。「英雄の旅」では通常ここで物語が終わる。 ダイアナは戦いで超人的な能力を見せつける。
5. 精神の乾きを知る:死―この新たな成功は一時的か幻想、見せかけのもの。あるいはいずれ自分を偽らねばならなくなる。ダイアナは戦争を終わらせようとしない人類が理解できない。第一次大戦パイロットのスティーブと仲間たちは秘密の毒ガス計画阻止に的を絞る。ダイアナはアレスに戦争をやめさせたい。
6. 通過儀礼と女神への下降―新たな道が不完全だと知ったヒロインは絶望し、危機に陥る。彼女の「男性的な」戦略は全て失敗に終わる。努力の甲斐なく、ドイツ軍の毒ガスで多くの市民が殺される。ダイアナは傷心する。
7. 女性性を見直す―ヒロインは昔の狭く限定された状態やポジションには後戻りできない。ダイアナはルーデンドルフ将軍を倒すが戦争は終わらない。人間に失望し、アマゾンとして育てられた頃の教えに逆戻りしそうになる。
8. 母/娘の分離の修復―ヒロインは自分の価値観や能力を新たに見直す。アレスの正体に気づいたダイアナは真のパワーを解き放つ。母が知る真の力を行使する。
9. 男性性と女性性の統合―ヒロインは内面で「男性的な」生き方とうまく折り合いをつける。スティーブに別れを告げるダイアナ。人間は弱いが彼らのために戦う価値があると気づく。
10. 傷ついた男性性の修復―ヒロインは自分自身と世界に対して新しい理解をし、前向きになる。二分化のありかを見抜き、広く多様で複雑な世界の一員として生きていく。自らの役割を受け入れたダイアナは正義と人類のために戦う存在へ。以後、『バットマンvsスーパーマン:ジャスティスの誕生』以降へと続く。

 

一方、「英雄の旅」とボグラーの説は……

 

1. 普通の世界―居心地が悪そうな環境、あるいはそれに無自覚でいるヒーローが紹介される。見る者にとって共感できるシチュエーションやジレンマが提示される。ヒーローは二つの価値観の間で揺らぎ、ストレスを感じている。
2. 冒険への誘い―外からの圧力か、内面から沸き起こる何かによってシチュエーションが揺らぎ、ヒーローは変化の兆しに直面させられる。
3. 誘いの拒絶―未知の世界へ踏み出すのを恐れ、ヒーローは一瞬尻込みする。別のキャラクターが不安や危険を口に出すこともある。
4. 師との出会い―ヒーローは旅路の達人と出会い、技術や道具、アドバイスを得る。ヒーローが自身の勇気や知恵に気づく場合もある。
5. 境界線を越える―第一幕の終わりでヒーローは「普通の世界」を離れ、新たな場所やなじみのないルール・価値観の世界へ入っていく。
6. 試練、仲間、敵―ヒーローは「特別な世界」で力を試され、仲間と信頼関係を築く。
7. 接近―ヒーローと仲間たちは「特別な世界」での大きな挑戦に備える。
8. 苦難―ストーリーの中盤あたり。ヒーローは「特別な世界」の核心で生命の危機や自己最大の恐怖に直面。死と対峙することによって新たな生命を得る。
9. 報酬―死と対峙して宝物を手に入れたヒーロー。成果を祝うが、その宝物を再び失う危険もある。
10. 帰路―ストーリー全体の四分の三あたり。ヒーローは宝が故郷にもたらされたことを確認しに「特別な世界」を去り、冒険を終えようとする。この時チェイスシーンが起きてミッションの緊急性や危機感が煽られることも多い。
11. 復活―家路に向かう前のクライマックス。ここでヒーローは再び試練に襲われる。前より難易度が高いレベルで死と再生の時に遭遇し、自らを完全に投げ打つ。ヒーローの行動によって最初にあった対立関係が解決する。
12. 宝物を持って帰還―自分を成長させ、世界をも変える宝を得たヒーロー。彼は故郷に帰還、あるいは旅を続ける。

 

両者に類似点はあるものの、男女二分化の亀裂を橋渡ししようとする「ヒロインの旅」に対し「英雄の旅」では個人の栄光と勝利を重視する。男としてすでに力があるヒーローに対し、ヒロインはストーリー内のバトルに加え、女であることへの偏見とも戦う。

 

「ヒロインの旅」系ヒーロー物は成立するか? その逆は?

ハリウッドがヒロイン活躍系を作ろうとして犯し得る間違いは「英雄の旅」をそのまま使って「女ヒーロー」を描くことだろう。男性的なヒーローズ・ジャーニーを女性に演じさせるだけでは、女性ならではの葛藤が置き去りだ。

「ヒロインの旅」には「英雄の旅」と重複する部分もあるが、女性が抱える疑問や葛藤に対する前向きな答えが必ず入る。ヒーロー物との違いはそこだ。男女共にそれぞれの葛藤があり、それぞれの旅の中で表現が必要である。ヒロイン系の主人公にも英雄的な面はある。逆に「ヒロインの旅」の特徴は男性的なヒーローとは結びつきにくい。

 

「ヒロインの旅」は新たな「英雄の旅」なのか?

とりあえずの答えはイエスだろう。

「英雄の旅」が古いというわけではない。今後もそうしたストーリーは必要だ。ただ、ハリウッドは「ヒロインの旅」系のストーリーが好まれる傾向を認識し始めている。脚本家にとってもパワフルなヒロイン活躍系のシナリオに取り組むのが賢明であり、当然の流れになるだろう。

ハリウッドはヒロイン系の企画を探しているし、そうしたストーリーを語る声を積極的に求めている。書き手は女性でなくてもかまわない。実際、2014年のハリウッド・ライターズ・レポート調べでは全米の脚本家における女性の比率はたった15%。三対一以上の開きで男性が多い。当面は男の書き手が頑張ってハリウッドに女性の声を届けることになる。そのうち女性脚本家の比率も上がるだろう。

「ヒロインの旅」では脇役たちも輝ける。『ローグ・ワン/スター・ウォーズ・ストーリー』のジン・アーソにも『ハンガー・ゲーム』 のカットニスにも仲間や応援者たちがいる。ワンダーウーマンにもスティーブがいるし、仲間たちがいる。

一人のヒーローを中心とする「英雄の旅」に比べ、「ヒロインの旅」のモデルでは多彩なキャラクターを交差させて描くことが可能だ。

 

複合させるのが成功への鍵

いずれにせよ、絶対的な公式などない。素晴らしいキャラクターの旅路が描けるならば、方法論に正解も不正解もない。

取り入れればいい。ただ、それだけだ。

僕は今、ライオンズゲートが採用した企画のキャラクターの性別を変えて構成する作業に関わっている。ヒロイン系が流行しているからではなく、コンセプトと人物設定に深みをもたせるためだ。女性の葛藤は男性より多い。脚本には葛藤が何よりも必要だから、いい方向性だ。葛藤や対立関係がなければ説得力のあるストーリーは描けない。
だから、あなたが脚本家で、新しいコンセプトやストーリー、人物設定を探しているなら、主人公や主要なサブキャラクターの性別に注目してみよう。性別を変えたらどうなる?

『スター・ウォーズ/フォースの覚醒』がいい例だ。ルークに当たる人物は若い女性レイで、色々な面でプラスの効果を出している。フィンは彼女を「守る」態度を見せるが、レイはそのたびに引けを取るまいと頑張る。設定を女性にしたことで葛藤も深みも増している。

レイは古典的な「英雄の旅」をたどりつつ、ずっと「ヒロインの旅」系の新しい考え方を模索しているのだ。

今、新たな脚光を浴びる女性キャラクター。人物設定やコンセプト作りの面で非常に面白い時代が来ている。その兆しはすでに、観客動員数にも表れているのだ。観客が動くなら、ハリウッドも他の業界も見逃すはずはない。

※本記事は、米国のウェブサイト「SCREENCRAFT」からの転載となります。
Why Screenwriters Should Embrace The Heroine’s Journey by Ken Miyamoto (June 18th 2017)
https://screencraft.org/2017/06/18/how-screenwriters-can-embrace-the-heroines-journey/

ヒロインの旅
女性性から読み解く〈本当の自分〉と創造的な生き方

モーリーン・マードック=著|シカ・マッケンジー=訳

発売日:2017年04月25日

四六判・上製|296頁|本体:2,400円+税|ISBN 978-4-8459-1630-6