『物語を書く人のための推敲入門』 | かみのたね
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2019.11.08

『物語を書く人のための推敲入門』

ためし読み / ラリー・ブルックス

物語創作をするうえで欠かせない「推敲」の技術を体系的にまとめた『物語を書く人のための推敲入門』。
今回のためし読みでは、著者のラリー・ブルックスが実際の原稿をもとに書き手とどのようなやり取りをしたのかというケーススタディを掲載いたします。
「最も豊かな学習経験は、新人の書き手の作品や『未刊行・未出版』のストーリーを読むことにある。まだハードルを越えられていないストーリー、とりわけ書き手本人にも見えていないわかっていない、自分で深く掘った穴に言葉が落ちてしまっている、そんなつまずき方をしているようなストーリーまでも読むのだ。」(本書より抜粋)
過去数十年にわたってストーリー作りの指導をしてきた著者のアドバイスに注目してください。

 

ケーススタディ1
コンセプトが消えてしまった場合

ここからの分析は、ストーリーを練るに当たってのコンセプト/前提の面だけに焦点を当てている。当該コンセプトには可能性があるものの(「求引力」の基準にも迫っているものがあるが)、実際に要注意なのは、そのコンセプトも消えそうで、消えかかっているところでぱっと現れて、とりあえず前提が説明される点だ。コンセプトのおかげで、前提にぐっと惹きつける力が生まれるのだが、ここではそうなっていない。

その前提がしっかり求引力あるものになっていない点にも注目してほしい。どこかふわふわしていてちょっとぼんやりしている。もしかすると勢いで書いたためにエピソードが多くて、あとで前提についての質問を無理に答えたせいかもしれない。とはいえ確かなのは、前提が曖昧すぎるとエージェントも編集者も契約しなくちゃとは思ってくれないことだ。

前提は、成功させる必要がある。それは話の心臓部だ。うまくいけば、ぱっと輝くような短い文章で表現できる。だらだら説明が必要な場合は、まだ十分に焦点が絞れていない可能性がある。ドラマというのは、そこからうまく出発できないといけないのだから、危機や守るべきものもはっきりさせておく必要がある。

読み進めながら、これから掲げる質問に応じて、意図通りのストーリーをしっかり思い描いてみよう。自分の読みたい小説に感じられるだろうか?

ジャンル:スリラー
自作ストーリーでドラマ性の高いコンセプトは何か?(注:ストーリーの種やアイデアは、ストーリーの「コンセプト」とふつう同じものでは「ない」。またここでは、テーマが答えに入ってくることはほとんどない)。コンセプトを一文で定義してみよう。

暴力の悪評が高いとある現代の都市では毎日、ある市民たちが共感とそれに続く連帯を通じて、腐敗・人種差別・暴力と戦う手段としての集合意識と集合記憶を見つけている。この力を活用して自分自身とコミュニティを強化し癒す人もいれば、この知識を利用して利益を得ようとする人もいるだろう。

ラリーのコメント:何かの異能力(パラノーマル)や超常現象(スーパーナチュラル)の話なら、必殺のコンセプトになる。その場合あなたの小説はただの「スリラー」ではなく、「パラノーマル・スリラー」になってくる。

ただ文字通り受け取るなら、スリラー映画に期待されるものとあなたがしている説明のあいだには、いきなり乖離がある。つまりこれが問題意識の高い超常現象の話でないのなら、今読んでいるのは、人々が一つのコミュニティとして集まって闇と戦うという話だ。これはコンセプトというよりもテーマに近くて、(ぱっと見て)ぐっとくるコンセプト性の高いストーリーが始まるとは思えない。

「○○だったらどうなる?」(What if?)という問いのかたちで、自作のコンセプトを言い直そう(たとえば、ある大きな宗教が秘密の暗殺セクトを使って、そのどこまでも後ろめたい秘密を守ろうとするものだったらどうなる? この質問はテーマを聞いているものではないことに注意。コンセプトの役割であるプロットとドラマ上の緊張感についてだ)

ある種の集団意識のおかげで、共有された集団的記憶にアクセス可能になったらどうなる? この能力が、腐敗・人種差別・暴力と戦う方向性になるとしたらどうか? この種の結束が、善をなすため/悪をなすための社会集団を作るのに使われたらどうだろう?

ラリーのコメント:なるほど。問題意識の高い/異能力の方向へ向かっているように思えるが、それ自体は悪くない。求引力としては高めの予告になっているし、求引力が高めのストーリーも見えてくる。「○○だったらどうなる?」の考え方としては、確かに求引力がある(ただしジャンル回答を変える必要がある。スリラーのジャンルは、エージェント・編集者・読者の期待がかなり強固だからだ)

一つリスクになりそうなのは、ドラマの本筋を展開していく物語を構築できずに、社会分析の方向性ばかりに突き進んでしまうことだ。その結果、テーマ主導型のストーリーになって、スリラー・ジャンルのどのバリエーションに当てはめてもリスクになってしまう。社会問題に対するあなたの情熱は輝いている。だからこそ語る必要のある話よりも、その分析を優先させてはいけない。

その現時点のコンセプトから出てくる疑問(つまりここで僕が聞きたいこと)は、この集団意識というのはどのようにして「起こるのか」ということだ。何がきっかけになって、何が起こるのか? そして何よりも(次のパートが「必要」だからこそ)、それはどのようにしてある主人公の旅路(使命・出来事つまりドラマ性の高い道を進ませる何か)を作り出すのか、そしてその主人公の目的に「立ちふさがる」もの(悪役)とは?

それに答えると、現状以上にコンセプト性の高いものになるはずだ。今の予告でも人は惹きつけられるかもしれないが、その「意識」というものがタウンミーティングやポスターで語られるマニフェスト程度のものなら、コンセプト性は全然ないし、スリラーの読者が飛びつくようなものでもない。

前提はこうした答えのポイントをはっきりおさえる必要がある。これでは、「ひとたび顔を合わせたばかりにそのひとたちに起きた出来事の一部始終」のストーリーにしか「ならない」。主人公ひとり、悪役ひとり、そのあいだに一つのゴール――これがあなたの追いかけるべきものだ。

ストーリーの前提を述べよ(注:コンセプトと前提は、石と彫像のように異なるものだ。像は石を含むいろんなものからできあがる。石は物質だが、彫像は形態だ)

オークランド市庁舎の裏面にある政治闘争は、人生を変えようとしている一匹狼の女性ジュヴェナルには何の意味もないものだったが、十六歳の少年との偶然の出会いと新たな友情が、彼女を腐敗した危険な敵一味のなかに引き寄せていく。その過程で、彼女はかつての情熱、隠れた才能、そして恐怖を解き放つ鍵を発見する。彼女には、その若い友人をどん詰まり人生の道から抜け出させ、収入・仕事・評判を守るために何でもする強力な政治屋たちを打ち負かすために、できる限りの助けが必要だ。

ラリーのコメント:次の点をはっきりさせておこう。ジュヴェナルのストーリーの方向性は、「彼女と市役所の対決」であり、つまりそれとそのほかの、かつての情熱や隠れた才能、そしてその探求への「鍵」がつながっていないといけないわけだ。そうでなければ、余興や脇筋になってしまう。核心部分を明確にして、そこにこだわろう。この項目は、登場人物の分析では「ない」(そういうジャンルでもない)ここでは「ドラマ」について考えよう。

1 ジュヴェナル自身の問題/必要
2 彼女が具体的に何をするか
3 彼女が進む上で直面するもの(悪役)
4 どうやって自分の内面の英雄を呼びだして事を成し遂げるか

これだけで全部だ。他を入れるとだらだらしてしまう。このストーリーで彼女が持っている主な目的(自分の若い友人を何かに導くこと、または遠ざけること)について触れてはいるが、「何か」とは何なのか、たとえば市庁舎と関係があるのかそれとも違うのか、はっきりとは言っていない。ここが曖昧だとリスクになる。ここでの質問はその何かに関係することなのに、あなたはストーリーの核心部分を明確化しようとしない。これではまるで、本の裏表紙にある宣伝文に読めてしまう(もちろん宣伝用のあらすじは前提を述べるものではない)。読者(僕)を引っかけて引きずり込み、もっと読ませようというわけだが、結局のところ分析にじゅうぶんなだけのストーリーが見えてこない。どうしてこの友人を救うのか? なぜその友人は危険にさらされているのか?

これでは、『ハンガー・ゲーム』をこんなふうに説明するのと変わらない。「カットニスが家族の元に戻るためには、とてつもない困難を乗り越えなければならない」。確かにそうなんだけど……本の表紙に載せるならまだしも、この項目の目的(ストーリーが採用されるかどうかの分析)としては、プロットやアクション、ドラマにエートスなど核心部分すべてが抜け落ちている。ここでも同じ事をやっているわけで、ストーリーのコア部分にあるコンセプトとしても大事なものを省略してしまっている。自分の回答を読み直そう。荷が何なのか説明せずに荷物を配り回っているようなものだ。

これは問いにどう答えるかという単純な話かもしれないし、それがストーリーの中心部分に問題がありそうだという話にもなりうる。好意的に見れば、このストーリーの中心部分を書き忘れたということもありそうだ。ともあれ中核をどう説明しようと、コンセプトとして求引力あるものでないといけない。主人公に何か「具体的なことをさせる」必要がある。問題解決、チャンスをつかむ、悪をただす。以前にも必要だと言っているのに、ここにはその答えがない。まだ。

またここで要注意なのは、前提に関する答えでは、あなたがコンセプトで導入した「つながる心」という発想に「まったく関係性が示されていない」点だ。完全に消えてしまった。これは、自分の書いているストーリーがまだ自分にもはっきりしていない書き手によく見られることだ。まだ「ストーリーを探っている」段階の真っ最中にいるから、最高・最強で求引力の最大のコア・ストーリーに辿り着けていないのかもしれない。

このコンセプトが問う、ドラマ上の課題は何か?(例:カットニスは、自らに突きつけられた死闘を生き延びることができるだろうか?)ドラマ性の高い問いは、その前提そのものの延長であり、ストーリーにつながる。

ジュヴィーはオークランドの政治屋たちを倒し、その若い友人に自らの人生を変える方法を示す過程で、彼女自身も自分の人生を変える方法がわかっていることに気づくだろうか? はい!

ラリーのコメント:いいね。大好きというわけではないけれど……それはストーリーのプランそのものよりも答え方の問題かもしれない。とはいえこの質問でも、やはり「一つに結束する心」というコンセプトには結びついていないようだ。その考え方がストーリー内でどう活用されるのか、主人公の旅路をどう彩るのかが理解しにくい。それに「危機・守るべきもの」は何だろうか。何が危険にさらされて、何に脅威が迫っているのか、刻一刻と迫る時間制限は何なのか(この点はスリラーの本質だ)、どうして彼女なのか。悪者たちが何をしようとしているのか、まだほのめかされてもいない。

あなたの主人公がこのストーリーで「必要」とするもの、「欠けている」ものは何なのか?その人の「ストーリーの旅路」はどんなものか?(注:書き手の多くが悩むところだが、自分のストーリーを理解するために必要な「最重要」のポイントでもある。たとえば、主人公は子どもを誘拐した男を見つける必要があるというコンセプトなら、「彼が最も必要としているのは、父親から息子として否定され続けた幼少期から引きずっている内面の消極性とためらいを克服すること」というふうにこの質問に答えてはいけない。その具体的なコンセプトに対して適切な答えをするなら、「主人公は一刻も早く誘拐犯の居場所を見つける必要がある。なぜなら娘は薬を必要とし、身代金をかき集めるよりも先に死ぬおそれがあるからだ」となる)

ジュヴィーは、この二大勢力が結託して脅威となる彼女を無力化する前に、オークランドの街に逆流している市庁舎の腐敗の証拠を得る「必要」がある。彼女はかつての情熱を再び燃え上がらせ、若い友人が新しい人生の道を始める手助けをし、行き詰まった自分からも抜け出そうとする。

ラリーのコメント:特に市役所の悪役が何をしているかをはっきり示すことが大事。なぜか。そこに注意を向ける必要があるからだ。恐れや嫌悪によって。自分たちの経費をごまかしている? それでは心が動かない。地元企業を脅迫している? その方が強力だ。汚職を隠し、マフィアと共闘し、地方の税金をだまし取り、利益団体を運営している? そいつらが具体的に何をしているのか、そしてジュヴィーがなぜそれを気にかけているのか、読者には知る必要がある。ジュヴィーはただの善良な市民として首を突っ込んでいるのか、それとも汚職のせいで彼女の人生や彼女の知人や愛する人に直接の影響が出ているのか? このストーリーにおける彼女の探求を気にかける前に、そこでの守るべきものや脅威、どうして彼女が行動を起こす気になったのかを理解する必要がある。思わず気になるというのが大事だ。これは感情面の問題で、回答をもっと適切にして、読者を気持ちの面で引き込む必要があるわけだ。

その必要性や目的に対する主な「外的」な対立/障害は何か?

市役所職員と地域犯罪のボス(とその延長線上にある街の関係者たち)が自分たちの内情を守ろうとジュヴィーを買収しようとする。彼女も、もし彼らが追い詰められれば、自分を殺そうとすることを知っている。

ラリーのコメント:ここには対立要素がいくつかあるものの、コンセプトで予告されたような異能力じみた意識は含まれていないようだ。

腐敗した市当局者が本当に「彼女を買収」するだろうか? さらに、十代の少年が論理的にも現実的にも、こうした悪党たちに脅威を与えられるのだろうか? どうして彼女はそのことを知っているのか。十代の若者はふつう地方政治の内幕に通じているわけではないが、ジュヴィーはこのドラマ性の高い導入へとどうやって入っていくのか? これでは薄すぎるのではないかと思う。ここでは知るべきことを何も教えてくれない。こうなってしまうのは、この回答がプロセスに対してどれくらい重要であるかわかっていないからか。それとも、現時点では回答が本当にわかっていないからか。

読者に、このストーリーで何に「のめり込んで」ほしいか?

読者には、ジュヴィーが市庁舎の腐敗一味を倒し、そこからうまく生還できるかどうかに、のめり込んで応援してほしい。

ラリーのコメント:可――彼女が「どうして」そうする必要があるのか(つまり何が危機感になっているのか)を説明してさえくれれば。

自作ストーリーのプロットポイント1は何か?(注:これは自作ストーリーで最重要の瞬間で、コンセプトとドラマ上の課題に直接つながるはず)

レスターとジュヴィーは驚くべき発見を通じて絆を結ぶ。二人とも、これまで経験したことのないある時間について正確な詳細を思い出すことができ、二人はずっと昔にお互い知りあっていたようだ。ジュヴィーはレスター(十六歳)を助ける決心をすると、時を同じくして犯罪のボスであるカルヴィンを紹介される。カルヴィンはジュヴィーを脅威に感じ始めるが、そこへカルヴィンの妹Qがあいだに入ってくる――彼女こそジュヴィーのかつての情熱。

ラリーのコメント:レスターとジュヴィーのどちらも経験したことのないことを詳細に思い出せると言うが、これは「一つの意識」のことだろうか? それなら安心。結局ここで見つかったので。

このプロットポイント1がうまくいくかどうかはわからない。というのも、ジュヴィーが新しい方向性へ向かうきっかけに「はっきり」とはなっていないからだ。答えるスペースがもっとあれば、その理由もきっと説明できたのかもしれないが、ここでは曖昧だ。カルヴァンとの出会い(または妹の再会)が、ストーリーの扉を大きく開くよう、「すべてを変更する」必要がある。

また、自分が売り込んだコンセプトを覚えているだろうか? 「集合意識」についてのものだ。それがどこへいってしまったのか、そしてここで説明されているストーリーにどんなふうに少しでも影響を与えるのかが気になる。まったく消えたのではないかと恐れている――それはよくない兆候だ。コンセプトが重要だ。読者に予告されたものとして、ストーリーの求引力の源になるからだ。ただ僕は、あなたがその予告をなしにしたのではないかと恐れている。なぜなら、あなたが売り込んだコンセプトは、ここで話している物語とほとんど接点がないからだ。

プロットポイント1はストーリーのどの時点で発生するか?(注:最適な位置は、20パーセントから25パーセントのあたり)

20パーセントが理想的。

ラリーのコメント:そう、確かにそれが理想。でもこのプロットポイント1が機能するまでには、やるべきことがたくさんある。

自作ストーリーについて僕に投げかけておきたい質問はあるか? ただしコンセプトと前提の議論に結びつく簡潔な質問にすること。

私はしばらくこの話を頭の中であたためていて、ちゃんとしっかりとうまくいった下書きを紙に書きたいと思っています。返事をもらってから質問しようと思います。ありがとう、ラリー。

ラリーのコメント:これが、もっと深みのあるストーリーに変えていく助けになることを願っている。作品には十分な可能性があるが、読んでみると、このストーリーが実際は何についての話なのか、混乱する上にぼんやりしていてわかりづらい。こうした答えを書いたのはあなた自身なのだから、結論としては、あなた自身がこのストーリーについて混乱していてよくわかっていないということになる。これは致命的な一発だ。

繰り返しになるが、あなたの回答はあまりにペーパーバック本の裏にある宣伝文のように読めてしまって、求引力のある売り込みにはなっていない。コア・ストーリー、明らかにしなければならないこと、阻止しなければならない悪も、曖昧なままだ。「腐敗」の内容もはっきりしていない。ジュヴィーが証明し立ち向かわなければならない何か具体的なものが必要だ。エージェントはこう言うだろう。「いいですけど、『ドラマ』としてはどんな話なんですか? 誰が何を欲しがっているのか、その理由は何なのか。(あなたは全然書かなかったけれど)そこに反対するものは何か。何が問題なのか、そしてなぜなのか? それから、あなたの主人公はそれについて何を『する』んです?」と。

要再考の点がたくさんある。次のステップがうまくいくことを祈っている。

 

(ぜひ本編も併せてお楽しみ下さい)
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物語を書く人のための推敲入門

ラリー・ブルックス=著|大久保ゆう=訳

発売日:2019年10月29日

A5判|368頁|本体:2,300+税|ISBN 978-4-8459-1906-2