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2020.03.25

――大塚さんがやりたいことと、監督や音響監督が求めるものが違う場合というのも少なからずあるのかと思います。その場合はどうバランスをとるんですか?

大塚:オーディションでは、言われた通りにやりますよ。そうすることで自分が想像もしていなかった役の姿を掴めることもあるので。あと、最初から自分のイメージを押し付けていいものになるとはかぎらないじゃないですか? やっぱり、皆と一緒にいい作品にしたいんですよね。オーディションを通って、一緒に演じる人たちが揃って本番になった時、やりながら変わっていくことも多々とあります。

――なるほど。オーディションは役の方向性を掴むための場でもあるんですね。ちなみに、オーディションでアドリブをされることはありますか?

大塚:まずないですね。ただ、練習の時はアドリブをすることはけっこうあります。キャラクターを掴むためにはとてもいいと思います。本番前のテストの時もアドリブをすることはよくありますね。

――『俳優のためのオーディションハンドブック』でも、オーディション中はアドリブを極力するべきではないが、練習時は積極的にやるべきだと書かれています。ちなみにご自宅で練習する場合は、かなりつくり込まれるのでしょうか?

大塚:先輩たちの中には何パターンも用意されている方がいらっしゃいましたが、僕はつくり込み過ぎないようにしています。本番になると相手の役者さんと一緒に演技をすることになるので、つくり込み過ぎると、相手の言葉をうまく受けられなくなってしまう可能性があるので。だからオーディション前は、軸だけをつくっていく感じですかね。強固なイメージを用意するのではなく、ファジーなイメージをもっていくことが多いです。役をつくり込みすぎると周りの人と合わなかった時に大変なので。

――この本の著者シャロン・ビアリーは、今まで大塚さんが述べられてきたように、台本を読み取り全体を把握することが大切であると述べています。そのうえで、オーディションでは「シグネチャー(その人を表す特徴)」が重要だと書かれています。

大塚:この「シグネチャー」というものと、その人がイメージする「自分らしさ」というのは多分違うものなんだと思うんです。
『声優塾』の中で若い人たちに「オーディションでは、上手いか下手か以上に可能性を感じさせられるかが重要」と語っているんですが、そこで言う可能性というものと新人の子が思い描く「自分らしさ」というのが重なっていることなんてほとんどないと思うんです。しかも可能性を感じるか否かは相手次第なのでよけい難しい。
ただ、「自分らしさ」なんて考えず、作為的に演じないことで出てきてしまうもの、つまり音の中ににじむ人間性(=「シグネチャア」)は重要だと思います。それがどうやったら自分でもわかって、意識的に出せるようになるかは、その人次第でしょうし、説明することはできないのですが。

――「音ににじむ人間性」は、どうしたら生まれてくると思われますか?

大塚:企んで出てくるものではないと思うんですよね。僕の場合は、優れた先輩たちと一緒に演じた経験、その方々との芝居から多くを学んでいるはずです。でも、その人たちに「シグネチャー」を教えてもらったわけではない。教わってできるようになるものではないと思う。ただ、優れた人とともに演じる環境は極めて重要だと思いますね。

――この本には「だらだらとした環境で十ページ演じるよりも、優れた俳優と二行のセリフを演じる方を選ぶのです」と書かれています。

大塚:僕もそう思います。若い時に、あるプロダクションの社長さんが「役者を育てるのは環境なんだぞ」とおっしゃっていたんです。その通りですよね。優れた俳優さんやスタッフさんがいる環境で演じたほうが面白いんです。周りのレベルが高いと、こちらが要求されるレベルも当然高くなりますよね。それに答えようとする努力そのものが、自らをブラッシュアップしていくことになると思います。
もちろん僕も若い時はそんなことを思う余裕もなく、わけもわからずがむしゃらになっていましたが。

――やはり演じる環境は重要なのですね。少し話は変わりますが、この本の中ではオーディション時の演技だけでなく、演じていない時の態度も重要だと書かれています。

大塚:その通りですよね。過剰に不安そうにしている人がいたとすると、現場がその雰囲気に飲まれてしまう可能性もありますからね。
例えば今、僕は収録の現場では、空気づくりに専念しています(笑)。皆が緊張したりしないように。とにかく僕はいい作品がつくりたいだけで、威張りたいとか尊敬されたいなんて思っていない。現場の空気をよくしたほうが、いい作品の誕生につながると思うんです。だから、演じていない時の態度というのも大切ですよね。
あと、生き残っている人たちってやっぱりみんな明るいですよ(笑)。

――なるほど(笑)。ちなみに、大塚さんの中で印象深いオーディションはありますか?

大塚:役を得たオーディションというのはどれも印象に残っていますよ。最近だと『ヴィンランド・サガ』のトルケルです。自分が狙っていたことが全てはまったような手応えがありました。
あと逆に、全然印象に残っていないオーディションというものもあって。それが先ほどもお話した『Fate/Zero』のライダーとかで。「あれ、オーディションやったっけ?」という感じで、全然覚えてなくて。それぐらい自然に演じていたということなのかもしれません。
ただ、オーディションに通ったことが、役者としての自信につながったことはありません。自分の関わった作品が世に出て、外からの反応があって初めて自信が生まれてくるように感じています。オーディションに通って初めてスタートラインに立てる。だからそれを目標にしてはいけないと思います。

――『俳優のためのオーディションハンドブック』の著者も、「ひとつのオーディションに通ることも大事だが、何度も呼んでもらえるようになることの方が重要である」と述べています。

大塚:そうですね。ただ、どうしたら決め打ちで呼ばれたり、何度も声をかけてもらえるようになれるのかは正直に言ってわかりません。それは役者サイドが考えてできることでなく、監督やキャスティング・ディレクターの方に「あいつもう一度呼んでみよう」と思っていただけるか否かなので。先ほど言った通り、重要なのは「可能性」を見せられるかどうかです。
あと、若い人たちに伝えたいのは、オーディションに失敗した時でも肯定的に捉えたほうがいいです。「今回の製作サイドとは、たまたま肌が合わなかったんだ」と考え、自分が否定されたと思わないほうがいいですよ。

――ブラック・ジャック、スネーク(「メタルギアソリッド」シリーズ)、バトー、ライダーと大塚さんは当たり役としか思えないキャラクターをコンスタントに演じられているように見えます。そのような素晴らしい役と出会い続けるためには何をすればいいのでしょうか?

大塚:ありがとうございます。出会い続けられるかは……もう運だと思います。時代や流行というものもありますし、自分ではどうすることもできません。もちろん、チャンスがきた時にちゃんと演じられるよう、基礎的な練習をしておくことは大切だと思います。
養成所に入ると、みんな発声練習などをやらされるんだと思うんです。発声練習をやったところで、芝居が劇的にうまくなるわけではない。でも、うまくなるための近道ではある。だから若い人たちは、基礎的な練習はしっかりと積んだほうがいいですよ。

――運の要素が強いというお話ですが、役を勝ち取るためにやられていることはあるかと思います。オーディションを受ける上で、大塚さんが最も心がけていることはなんですか?

大塚:やっぱり心持ちですかね。言語化や数値化ができないので話にくいんですが、「この人とやりたい」「この人とならうまくいきそうだ」と思ってもらえるよう、訴えかけていくことを一番大切にしています。もちろんセリフを言う時にそのような作為をにじませたりはしませんよ。ある種の肌感覚なのかな?と思うんですけど、演技じゃないところでもにじむ特徴というのが大切だったりするんですよね。

――「受かることや人の評価を気にするよりも、まず自分自身が演じることに喜びを感じて、満足できるようになることが何よりも大切だ」と、この本に書いてあります。

大塚:声優をやっていた僕の親父(大塚周夫)が80歳で、僕がちょうど50歳の時だったんですけど、「こんど芝居やるから時間あったらきてくれ」って言っておいたんです。僕の親父なのでお金をとるつもりなんてまったくなかったんですが、チケット代が封筒に入れてあって。そこに一筆箋が入っていて、「楽しく芝居をやってください」って書いてあったんです。
たかだか10年前の話なんですけど、80歳の役者が50歳の役者に手向ける言葉として「楽しく芝居をやってください」というのはなんだったのかな?と考えることがここ10年の僕のテーマでもあって。自ら楽しめるかどうかということが、結局一番大事なんじゃないかと思うんです。
親父は「ああすればいい」「こうするといい」といったかたちで手取り足取りで芝居を教えてくれなかった。でも、役者として生きていくうえで大切なことは、80年の生涯で掴んだその一言に尽きるんじゃないかな。
演じることに、満足や喜びを感じないと辛くて仕方がないですよね。正直に言って僕は、若い頃は演じることに喜びを感じていなかった。特に声の仕事に関しては。もともと舞台俳優としてデビューしたのに、声の仕事にたまたま呼ばれたら、そっちのほうがうまくまわりだしちゃって、実際は不本意だったんです。でも50歳ぐらいの時に「もういいや、どうせ俺は声優だ。もう舞台の上で評価されなくてもいいや」と思いだして。そうすると、高評価を得たいとか、上手いと思われたいっていう邪念が消えてすごく楽になれて、演技に喜びを感じられるようになったんです。その時に初めて、役者として第一歩を踏み出せたと思っています。

――周夫さんがおっしゃると重みが違いますね。演技の喜びと平行して、オーディションで大事なのは「才能」と「自信」だと、著者のビアリーは言っています。大塚さんは一番大切なものはなんだと考えていらっしゃいますか?

大塚:先ほども言った通り、「この人いいじゃん!」と目の前にいる相手に受け取ってもらうことだと思いますよ。
特に公開オーディションの時はそうで。オーディションをしてくれるスタッフが最初の観客ですよね。しかもビジョンを持った観客。その人が「いいな」と思ってくれなきゃ、まあ駄目だと思うんです。だからやっぱり重要なのは可能性を感じさせるか否かですよね。
もちろん可能性を見せるためには、聞き取れるようにセリフを言ったり、どんな役のオーディションを受けているのかわかっていなくてはいけない。だから、何度も繰り返しますが技術的な側面や台本などを読むことも重要です。それはこの本にも書いてあると思います。
そして、演技というのは突き詰めていくと正解はないものだと思うんです。演じる人や作品、一緒に作る人によって変わってくる。だから若い人が、この本を参考にしながら、各々が必要だと考えるものをしっかりと磨いてもらえたらうれしいです。そんな人たちと一緒に芝居ができたら素晴らしいですね。

――最後にこれからオーディションを受ける若い人たちにひとこと、お願いします。

大塚:楽しんで下さい。
素直に親父の言葉を伝えたいです。楽しくないと続きませんしね。

* * *

2020年2月4日
取材・構成:フィルムアート社編集部

俳優のためのオーディションハンドブック──ハリウッドの名キャスティング・ディレクターが教える「本番に強くなる」心構え

シャロン・ビアリー

2020年3月26日

四六判変形|176頁|定価:1,800+税|ISBN 978-48459-1927-7


プロフィール
大塚明夫おおつか・あきお

東京都生まれ。文学座養成所卒業後、江崎プロダクション(現マウスプロモーション)に所属。海外映画、海外ドラマの吹き替えを多数手がけており、スティーヴン・セガールやニコラス・ケイジ、デンゼル・ワシントンといった俳優に幾度となく声を当てている。アニメーション作品では、『ブラック・ジャック』や『Fate/Zero』、「攻殻機動隊」シリーズなどでメインキャストを担当。ゲームでは「メタルギアソリッド」シリーズの主人公スネークに息を吹き込んだ。著書に『声優魂』『大塚明夫の声優塾』(共に星海社)がある。なお、キャストを務めた『PSYCHO-PASS サイコパス 3 FIRST INSPECTOR』が2020年3月27日より2週間限定で劇場上映されるほか、2020年4月23日よりNetflixにて『攻殻機動隊 SAC_2045』が配信される。
公式サイト:https://mausu.net/talent/otsuka-akio.html

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