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2020.03.25

俳優のためのオーディションハンドブック──ハリウッドの名キャスティング・ディレクターが教える「本番に強くなる」心構え

ためし読み / 奈良橋陽子, シャロン・ビアリー, シカ・マッケンジー

オーディションは、日本国内において毎日のように開催されている一方で、そのオーディションに対する技術や心構えを説いた本は多くはありません。

本書『俳優のためのオーディションハンドブック──ハリウッドの名キャスティング・ディレクターが教える「本番に強くなる」心構え』では、『ウォーキング・デッド』や『ブレイキング・バッド』といった海外ドラマのキャスティングに携わり、ハリウッド映画やブロードウェイ・ミュージカルの配役にも関わる著者が、悩める俳優からの28の質問に回答。俳優への敬意を示しながら情熱的かつ実践的に答えていきます。

今回の試し読みでは、著者のシャロン・ビアリーによる「イントロダクション」を公開します。

 

 

イントロダクション

 

私はハリウッドで29年間以上キャスティング・ディレクターをしてきました。映像作品向けのオーディションについての質問をいつも頂きますが、新人もベテランも、間違った噂や昔の本の古い情報に惑わされているケースが多いことに気づきます。「誤った知識に注意せよ。無知でいるより危険である」と劇作家のジョージ・バーナード・ショーは言っています。オーディションについての誤解を解くため、私はこのガイドブックを書くことにしました。俳優の皆さんに役立つ情報を簡潔にまとめています。特に映像作品向けのオーディションの技法について、キャスティング・ディレクターの視点から書いています。キャスティング・ディレクターはオーディションに立ち会い、プロデューサーや監督と一緒に配役の最終決定をする立場にいます。本書の内容をすぐに生かし、成功を目指して頂けたらと願っています。

映像作品への出演を志すなら、オーディションの受け方は必ずマスターしておきましょう。2012年の情報誌バラエティによると、GoogleはYouTubeに合計100個のチャンネルを新設し、マーケティングに2億ドルを費やすと発表したそうです。テレビや映画に次ぐ「第二のスクリーン」は今後もどんどん発展していくでしょう。これまでになかった新しいメディアによって、俳優の出演の機会が激増するのです。そこで仕事を獲得していくには、やはり、カメラの前で演技をするオーディションの形態をよく知ることが必要です。撮影に慣れるにつれて、仕事は自然に増えていくでしょう。

私はオーディションについて、決まった哲学や理想を信じているわけではありません。優れた俳優はいろいろな先生や方法論からヒントを得て、自分に合うアドバイスを自分なりにまとめているのだと思います。ただ、私は仕事に対する姿勢には強いこだわりをもっています。言い訳にはほとんど耳を貸しません。私がキャスティング・ディレクターとしてあなたに望むのは、宿題をきちんとしてくること。台本をよく読んでシーンを思い描き、具体的ではっきりした選択をして演技のリハーサルをすることです。特にリハーサルは何度も何度もくり返して下さい。それがプロというものです。

練習を重ねておけば、オーディションでのびのび演技できます。自宅にカメラを用意して自分の演技を撮影し、その映像を見てみましょう。友だちや学校のクラスの人たちと一緒に練習してもいいでしょう。一人ぼっちでカメラに向かって演技をするのだとしても、毎日練習を重ねましょう。セリフが五行以下の小さな役や短いシーン、たくさんの人物が登場するシーンや5ページ程度の長いシーンなど、あらゆる題材を練習して下さい。あなたの演技を上達させるためです。どんなことでも、練習しなければうまくなりません。本当は、小さな役というのも存在はしません。ただ出演料が少ない役があるだけです。ほんの短いセリフでも、そこに誰も思いつかないような何かを付け加えられるかが大事です。セリフが何行あろうと出演料や再使用料は一定です。ボクシングのヘビー級世界チャンピオンに4度輝いたエヴァンダー・ホリフィールドは「チャンピオンは試練の時に何をするかに本質が表れる。立ち上がって『まだやれる』と言うなら、その人はチャンピオンだ」と言っています。

成功している俳優はあらゆるシチュエーションを想定して準備をします。予行演習をしておけば、いざオーディションという時に緊張しないで済むからです。キャスティング・ディレクターの前で演技する時も、普段と同じ感覚で演技ができるようになって下さい。これは、ミュージシャンが毎日同じメロディーを練習するのと同じ。俳優にとっては自分の身体が楽器のようなものです。「トップに立つ人はただ頑張っているのではない。他の人々より頑張っている、というのとも違う。もっと、もっと頑張っているのだ」と、成功法則についての著書があるマルコム・グラッドウェルは述べています。もっと、もっと頑張っているというのはどれぐらいの努力を言うのでしょう? 彼によると「調査の結果、真のエキスパートになるための魔法の数字は1万時間」だそうです。この1万時間の法則には納得できる面があり、「カーネギーホールへの行き方は?」「練習あるのみ」という有名な問答にも似ています。確かに、何事も練習すれば上達します。演技の練習もこつこつやれば、若くして一万時間に到達するでしょう。しかし、そこで練習を終えていいのでしょうか? 本当にエキスパートになれたでしょうか? 同じことを1万時間くり返せば、どんな分野でもエキスパートになれるのでしょうか?

私には、後から唱えられた理論の方が具体的で、しっくりきます。それは『超一流になるのは才能か努力か?』(アンダース・エリクソン/ロバート・プール著、土方奈美訳、文藝春秋、2016年)に書かれている計画的な練習方法です。コンフォートゾーンと呼ばれる、自分が安心できる範囲から常に自分を押し出してフィードバックをもらい、自分の弱点を特定することが成長の鍵だというのです。ただ練習するだけでなく焦点を絞り込み、ゴールを設定した上での練習で弱点をあぶり出す。それによって人は成長するというわけです。映像演技のオーディションは、それ自体が一つの技術。具体的な方法論が存在します。

小説家ユードラ・ウェルティは「作家の仕事は、それが聖人であれ殺人鬼であれ、その人物の内面に住みつくこと」と言っています。俳優もそれと同じだと私は思います。俳優は人物の中に生き、考え方や話し方、動き方や反応の仕方もその人物の内面から生み出すべき。それも俳優の醍醐味に違いありません。演じている間は別人となり、その人物を探求しますから。そして何らかの真実を発見すれば心が躍り、感動します。私たちがオーディションで求めているのも、演技の中に垣間見える真実なのです。それが演技のリズムやジェスチャーに影響を与えるからです。ほどほどの演技で落ち着こうとせず、その道のエキスパートになって楽しんで下さい。そうしてさまざまな人物を極めて下さい。演じることには、他の職業にない魅力や奥深さがあります。

あなたは俳優になることを選びますか? あるいは生まれついての「俳優」そのものでしょうか? 本当に優れた俳優になるために、どれぐらいの犠牲を払う決意がありますか? 「自分にとって何が価値あるものなのか、自分ではっきりわかっていなきゃだめだ」とピューリッツァー賞候補の小説家フィリップ・マイヤーはニューヨーカー誌のインタビューで述べています(彼はAMCのテレビドラマシリーズ『The Son(未)』のクリエイター。私がキャスティングを担当しました)。先の私の質問を「成功」した俳優に尋ねてみるといいでしょう。ここで言う「成功」とは俳優業で生計を立て、年間の大半を出演に費やすことを指します。それを実現させた俳優たちの多くは「何もかも犠牲にしてかまわない」と言うはずです。あなたもそうするべきだと言うわけではありませんが、より高いレベルで成功したいなら、その心づもりでいて下さい。実際、俳優業を目指すのには大きなリスクが伴います。食べていけるかどうかという点では、どんな芸能や芸術の道も厳しいです。演技の準備に手抜きをすれば長期的な成功は望めません。運よく2、3回は出演できても、後が続かないでしょう。成功したいなら、常に準備に全力を注ぐべきです。

オーディションを成功させるには、まず、見る人を引きつけなくてはなりません。それには感情面や知的な面でいろいろな方法があります。役柄やストーリーについて、ぜひ、あなたならではの解釈ができるようになって下さい。
オーディションで見事な演技をすれば、そこにはすでに完全な世界観が組み立てられているものです。それが正しいか間違っているかにかかわらず、俳優が勇気を出してはっきりした選択をして表現した時、オーディションは成功するでしょう。ただし、その俳優の解釈はストーリーをきちんと成立させ、人物の本質をリアルに表現していなければなりません。守るべきところはしっかり守り、冒険するところは思い切って冒険する。そんなバランス感覚が必要です。
私がまだ新人の頃、先輩であるキャスティング・ディレクターのリック・パガーノから「たった一度のオーディションで俳優を見限ってはいけない」と教わりました(「でも三振したらアウト」と冗談を続けますが)。俳優は人生のいろいろなステージで、また、いろいろな環境で才能を開花させます。ですから、私たちの事務所ビアリー/トーマス&アソシエイツでは俳優が成功するための環境づくりに努力しています。オーディションの技術をマスターし、小さな成功体験を重ねて基礎を作って下さい。

覚えておいてほしいことがあります。キャスティング・ディレクターはあなたがベストを尽くしてくれることを望んでいます。優れた候補者をたくさん集めてプロデューサーと監督を困らせるほどになった時、私はキャスティング・ディレクターとしての責務を果たしていると言えるのです。「どの俳優も素晴らしい。誰か一人を選ぶなんて難しいよ」と彼らが嬉しい悲鳴を上げる時、あなたもその候補者の一人であってほしいと思います。
では、始めましょう!

 

(ぜひ本編も併せてお楽しみ下さい)
※掲載しているすべてのコンテンツの無断複写・転載を禁じます。

俳優のためのオーディションハンドブック──ハリウッドの名キャスティング・ディレクターが教える「本番に強くなる」心構え

シャロン・ビアリー=著|奈良橋陽子=監修&解説|シカ・マッケンジー=訳

発売日:2020年3月26日

四六判変形|176頁|本体:1,800+税|ISBN 978-4-8459-1927-7


プロフィール
奈良橋陽子ならはし・ようこ

キャスティング・ディレクター、演出家、作詞家。『太陽の帝国』『ラストサムライ』『バベル』といったハリウッド映画のキャスティングに関わり、日米をつなぐ仕事をおこなっている。キャスティング・ディレクターとして活躍する以前から、作詞家および演出家として活動し、ロックバンド・ゴダイゴの楽曲の作詞や、ミュージカル『ヘアー』や『チャーリーとチョコレート工場のひみつ』などの演出を担当。また国際基督教大学(ICU)卒業後、渡米しニューヨークのネイバーフッド・プレイハウスで演劇を学んだ経験を活かし、俳優の育成などをおこなうユナイテッド・パフォーマーズ・スタジオを立ち上げた。全米キャスティング協会の会員でもある。

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プロフィール
シャロン・ビアリーSharon Bialy

1986年にコマーシャルのキャスティング助手として業界に入った後、舞台・映画へと活動の場を移す。デヴィッド・リンチ監督『ブルーベルベット』でキャスティング助手を務め、キャスティング・ディレクターであるリック・パガーノのキャスティング・アソシエイトを経て自らもキャスティング・ディレクターとなる。
芸術監督デス・マカナフと15年来の親交があった経緯から『A Walk in the Woods(未)』『ジャージー・ボーイズ』『The Farnsworth Invention(未)』 といったブロードウェイの舞台公演のキャスティングを担当。またデヴィッド・マメット作の舞台劇『Race(未)』『The Anarchist(未)』『China Doll(未)』の米国西海岸でのキャスティングも務めた。
映画作品でも大作からインディペンデントまで幅広くキャスティングを手がけ、担当した作品に『チャイルド・プレイ』『ドラッグストア・カウボーイ』『ハートブルー』『レッドベルト 傷だらけのファイター』などがある。
テレビドラマでは『ブレイキング・バッド』『ウォーキング・デッド』『GOTHAM/ゴッサム』『The Son(未)』などにパイロット版から関わり作品を成功させた。
2011年、メディアアクセスアワードにてCSA賞を受賞。2015年、『ブレイキング・バッド』で米国キャスティング協会が選ぶアルティオス・アワードに輝く(ノミネートは16度)。『ブレイキング・バッド』ファイナルシーズンで共同事業者シェリー・トーマスと共にエミー賞ノミネート。
全米テレビ芸術科学アカデミーおよび映画芸術科学アカデミー会員。ロサンゼルスで上演された優れた舞台作品を表彰するLAステージ・アライアンス・オベーション・アワードの投票委員を過去に務め、現在では映像作品をとおして国際理解を促進する団体ジャーニーズ・イン・フィルムの諮問委員会に参加。LAファミリーマガジンにコラム「The Kids Casting Corner(未)」を執筆、掲載。また、米国キャスティング協会において2012年から2015年にわたり役員を務める。
新刊『How to Self-Tape Your Audition(with interactive links)(未)』と小説『I Never Had a Couch: Tales from Behind the Door of a Casting Office(未)』の発売が予定されている。

(※画像はTwitterより引用)

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プロフィール
シカ・マッケンジーShika Mackenzie

関西学院大学社会学部卒。「演技の手法は英語教育に取り入れられる」とひらめき、1999年渡米。以後ロサンゼルスと日本を往復しながら、俳優、通訳、翻訳者として活動。教育の現場では、俳優や映画監督の育成にあたる。ウェブサイト英語劇ドットコムを通じ、表現活動のコンサルティングも行なっている。訳書に文化庁日本文学普及事業作品『The Tokyo Zodiac Murders』(英訳、共訳)、『魂の演技レッスン 22 』『“役を生きる” 演技レッスン』、『監督と俳優のコミュニケーション術』、『監督のリーダーシップ術』、『新しい主人公の作り方』、『ストラクチャーから書く小説再入門』、『クリエイターのための占星術』『世界を創る女神の物語』(フィルムアート社)他。

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