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2020.04.16

『マスターショット100 低予算映画を大作に変える撮影術』

ためし読み / クリストファー・ケンワーシー, 吉田俊太郎

映像制作における様々なプロセスのうち、最も現場での「即断力」が求められるのがカメラワーク。本書では、実際の映画シーンをサンプルとしながら、100通りものショットの方法や効果を伝授します。掲載された魅力的なショットを会得することで、どんなに切迫した現場でも創造性のある撮影展開が可能です。低予算映画の監督からプロのカメラマンまで、映像で物語表現を生み出す全ての人への戦力となるでしょう。
今回の「ためし読み」では本書の「はじめに」部分を全文公開いたします。

 

はじめに

本書を読めば、あなたの映画がどんな予算であれ、複雑でオリジナリティにあふれたショットを撮ることができるようになるだろう。本書でショットの実例としてとりあげている映画は、そのほとんどが潤沢な製作費がつぎ込まれ、豊富なクルーや機材を駆使して作られたものばかりだ。しかし本書で紹介しているすべてのショットは、低予算でも、手持ちカメラだけでも実現することができる。私はあえてドリーやクレーンを使えという提案をできる限り避けるようにしている。可能な撮影機材だけで間に合わせることを念頭に置いているからだ。過去の偉大な監督たちだって、本来はそうやって素晴らしいショットをものにしてきたのだから。

この数日間、私は長編映画初監督となる作品の撮影プランを立てるため、撮影監督と一緒にロケ地を訪れていた。もちろんラフなプランしか立てることはできないけれど、そういう準備をしておくことで撮影当日によりクリエイティブな発想にたどりつくチャンスが倍増する。それと同じように、本書があなた自身の撮影プランを準備する手助けになるはずだ。これを読んでおくことで、撮影現場で唐突に素晴らしいアイデアが浮かんだ場合にも、それをどう撮るべきか具体的な方法を容易に導き出すことができるだろう。

かれこれ10年ほど、映画やテレビの製作現場で働いているが、今回長編映画を初監督するにあたって、本書が私の撮影プランをここまで多大に支えてくれたことに自分でも驚いているくらいだ。完成した作中にここで紹介しているショットがそっくりそのまま登場することはおそらくないだろうけれど、そこは問題ではない。本書でさまざまなショットを注意深く見つめてアイデアを得ることからすべてが始まっているのだから。どのような形でショットが撮られたのか、他にはどのような選択肢があるのかを知ることで、そこに新たなアイデアを付加することが可能になる。

特にテレビ作品では、いや、最近では多くの映画でも、ただ「テクニックを見せつけたい」という理由だけでカメラを複雑に動かしているケースが多く見られる。または、カメラを動かしたり揺らしたりすればエキサイティングな映像になると信じ切っているケースも少なくないようだ。しかし巧みで刺激的なマスター・ショットや上手なカメラの動きを組み合わせるだけで、小手先のテクニックにとらわれただけの映像ではなく、真に素晴らしい映像をとらえることができる。テクニックを見せつけるためにカメラを動かすべきではないと言ったけれど、だからといって興味深い映像の模索に行き詰まったという理由で、やみくもにカメラを三脚に固定してしまうのも良くない。アイデアに詰まったときには本書をめくってみよう。似たような問題を苦心して解決した前例が必ず見つかるはずだ。あとはその方法論を自分なりに進化させればいい。

ほとんどのチャプターで、私はレンズ選択について言及している。それぞれのショットにおいて、どういったタイブのレンズを使うべきかという提案である。あなたがレンズ選択にあまり興味がないとしても、少なくとも基本だけは会得しておくことを強く勧めたい。機材よりも役者を重視するタイプの監督でも、その役者の演技をベストな形でとらえるすべを知らなければ意味がないだろう。一日だけ、午後を費やして、35mmのデジタル一眼レフを持ちだしてみるとか、またはDVカメラのズームを色々と試してみながら、レンズの選択によってどのような効果の違いが生まれるのかを体感しておこう(ズームの場合は、物理的にレンズを交換しているわけではないけれど、さまざまな距離のズームを使い分けることで、広角レンズから、標準レンズ、そして望遠レンズまで色々なタイプのレンズに変えだのと同じような効果を得ることができる)。

レンズ選択を撮影監督に丸投げしてはいけない。撮影監督の手助けは確かに必要でも、あなた自身がレンズについて理解していなければ、自分なりの綿密な撮影プランを立てること(さらには現場で新たなアイデアに行きつくこと)は不可能だろう。レンズの違いやその効果的な使用法について書かれた本はたくさん出版されているが、カメラを持って街に出て色々と試してみるに勝るものはない。あるチャプターで私がたとえば「望遠レンズがもっとも効果的だ」と提案していたとしたら、ぜひ一度それを試した上で近距離の標準レンズも試し、あなたなりの判断をくだしたらいい。あなた自身がそうやって体験で身につけたものには、私がどんなに言葉をつくしたとしてもかなわないだろう。

本書の目的はレンズについて語ることに置かれているわけではないが、レンズ選択をおざなりにしてしまうと、そのシーンは基本的に意味をなさないだろう。本書はシーンを機能させることのできるカメラ移動やマスター・ショットについて書かれたものだ。どのようなシーンであっても、監督であるあなたは、出演者とカメラが繰り広げるまるでダンスのような動きを設定し、それに最も適したレンズを選択しなければならない。しかもそれは演技の演出について考えるよりも先にやっておかなければならない作業だ。現場では、あなたの頭の中はさまざまな事物でいっぱいになることだろう。だからこそ本書の存在が大きな助けになる。テクニックを知っておけばおくほど、そこから自分なりの新たなショットを生み出すことが容易になるだろう。

本書に書かれているテクニックをすべて修得したからといって、名監督になれるわけではない。しかしこれらを学ぶことで、どうすればショットが機能するのかという洞察力を遂うことができるはずだ。あなたが本書のすべてを学び終えたころには、さらに100種類のショットを自力で生み出せるようになっていることだろう。

 

(ぜひ本編も併せてお楽しみ下さい)
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マスターショット100
低予算映画を大作に変える撮影術

クリストファー・ケンワーシー=著|吉田俊太郎=訳

発売日:2011年05月25日

A5判変形|248頁|本体:2,300円+税|ISBN 978-4-8459-1165-3