『キャラクターからつくる物語創作再入門 「キャラクターアーク」で読者の心をつかむ』 | かみのたね
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2020.05.28

『キャラクターからつくる物語創作再入門 「キャラクターアーク」で読者の心をつかむ』

ためし読み / K.M. ワイランド, シカ・マッケンジー

1 人物が信じ込んでいる「噓」

人は変化を嫌います。人生を変えたいと思っていても、いざとなると心が揺れる。そして結局、「このままでいる方が楽だ」と思う自分に気づきます。

それはストーリーの登場人物も同じで、変化に対してかたくなに抵抗します。むしろ、ストーリーにとってはその方が好都合。なぜなら、抵抗はコンフリクト(葛藤、対立)を生むからです。そして、コンフリクトからはプロットが生まれます。このことだけを見てもキャラクターアークとプロットが関連しているのがわかりますね。その関連性がはっきり見えない場合でも、プロットは人物の内面の変化を映し出しているはずです。

プロットは主人公の七転び八起きの軌跡と呼べるでしょう。ほしいものが手に入らず、何度も挑戦する人間の姿を映し出します。

ポジティブなアークは優先順位の変化の軌跡でもあります。プロットが進むにつれて、ほしいものがなぜ手に入らないのかに気づいて変わるのです。何度も失敗する原因は、次の二つのどちらかです。

a それをほしがること自体が間違いだから。
b 自分の考え方や方法がことごとく間違っているから。

『Dramatica: A New Theory of Story(ドラマティカ 物語の新しいセオリー:未邦訳)』の著者メラニー・アン・フィリップスとクリス・ハントリーはこう述べています。

ストーリーと関係のない問題を主人公に与えて失敗する作家はたくさんいます。それは、彼らがストーリーと人物の内面を別々に考えたからというより、おそらく、ストーリーを作った後で人物の掘り下げが足りないと気づいたことが原因です。

人物が信じ込んでいる「噓」

アークは「人物が信じ込んでいる噓」をめぐって展開します。今の生活がどうであれ、どんな人物も自分に「噓」をついています。

何かが欠けていて、変化を必要とする状態。それがポジティブなアークの始まりです。人物にどこか不完全なところがあるのは、生まれた境遇や住む環境のせいではありません。強制収容所にいるから心を病むとは限りませんし、豪邸に住んでいるから幸せとも限りません。逆に、裕福な暮らしの人物が、希望もなくみじめな思いをしているかもしれません。

人物の不完全さとは「内面」の未熟さを指します。自分や世界に対して間違った思い込みがある状態です。次節で詳しく説明しますが、この未熟さが人物を悩ませる障害となってプロットが展開します。最初は心のよりどころにしていたものが、ストーリーが進むにつれて決定的な弱点に変わっていく、という流れです。

第一幕で人物はそれを気にしておらず、自覚もほとんどしていません。インサイティング・イベント(全体の十二パーセント経過地点)やプロットポイント1(全体の二十五パーセント経過地点)で状況が揺らぐまで、自分の欠点に無頓着で、間違った「噓」に固執さえしています。第一幕では主人公の「普通の世界」(詳細は第5節)を描き、主人公の内面がいかに「噓」で固められているかを提示します。

「噓」とは何か

人物の「噓」にはさまざまな形があります。映画や小説の例を挙げましょう。

『マイティ・ソー』…強い者が正しい。
『ジェーン・エア』…相手に服従しなければ愛してもらえない。
『ジュラシック・パーク』…子供は面倒で手がかかる。
『ウォルター少年と、夏の休日』…大好きな人たちは噓をつく。
『トイ・ストーリー』…気に入られなければ価値がない。『スリー・キングス』…人間よりも富が大切だ。
『フーリガン』…弱者は強者のいいなりである。
『おつむて・ん・て・ん・クリニック』…注目してもらうには変人でいなくてはならない。

「噓」とは、ある特定の考え方で、一つの文で表せます。ジェーン・エアのように条件を示す場合もあります。「自分には愛される価値がない」という意識が根底にあり、「自分を犠牲にすれば愛してもらえるはずだ」と信じ込んでいます。

「噓」が引き起こす症状

人物の「噓」を見つけましょう。プロットの中で、人物どうしの意見の相違や摩擦、葛藤に「噓」が表れているかもしれません(次節で「WANT」と「NEED」の違いを取り上げ、さらに詳しく述べます)。また、人物のアクションとリアクションから「噓」が感じ取れるかもしれません。特に、次のようなリアクションは大きなヒントになります。

〇恐怖
〇深く傷つく
〇許せない
〇罪悪感
〇ひどい隠し事
〇過去の行為や、つらかった出来事を恥じる

これらの反応は「噓」から生まれることがよくあります。自分の「噓」に気づいていない人物でも、これらの「症状」は自分で意識しているはずです。不愉快で消したい症状なのに、同じことでくり返し悩んでしまう。それは人物が思い込んでいる「噓」が消えていないからです。

中世を舞台にした私の小説『Behold the Dawn(暁を見よ)』の主人公マーカス・アナンが信じている「噓」は「世の中には絶対に許されないほど重い罪がある」。彼の「噓」は罪悪感や後悔、隠し事、破滅的な生き方といった症状を引き起こします。本当は自分の罪を許して幸せになりたいのですが、「噓」を払拭できすにいます。

アンジェラ・アッカーマンとベッカ・バグリッシ著『性格類語辞典 ネガティブ編』(滝本杏奈訳、フィルムアート社)には「噓」がもたらす症状の例がたくさん載っています(キャラクターアークにも触れています)。いい症状や「噓」が思いつかない時は参考にして下さい。

人物が信じ込んでいる「噓」の例

『クリスマス・キャロル』(チャールズ・ディケンズ作)…「人の値打ちは稼ぎの額で決まる」と信じるエベネーザ・スクルージはクリスマスイブに恐ろしい目に遭う。

『カーズ』(ジョン・ラセター監督)…ピクサーの映画の中で私が個人的に一番好きな作品。レースカーのライトニング・マックィーンは自己中心的で、「人生はワンマンショー」と信じ込んでいる。

クエスチョン

1 主人公は自分や世界に対してどんな誤解をしているか?
2 その誤解のせいで思考や感情、精神に何が欠けているか?
3 内面の「噓」はどんなふうに周囲に表れているか?
4 冒頭で人物は「噓」のせいで困ったり悩んだりしているか? どのように?
5  冒頭で人物が特に困っていなければ、インサイティング・イベントやプロットポイント1で「噓」の影響が見え始めるか?
6 人物の「噓」をもっと具体的にするために、他の物事や人物の同意や裏づけが必要か?
7 人物の「噓」が引き起こす症状は?

人物が信じ込んでいる「噓」はキャラクターアークの基礎であり、主人公の世界が抱える問題点でもあります。これがうまく設定できたら、次はそれをどう正していくかを考えます。

 

2 人物の「WANT」と「NEED」

 

人物が信じ込んでいる「噓」はアークの理由や原因となります。初めから人物の心が「真実」に従っていれば、変化する必要はありません。「噓」は人物の心に巣食う虫歯にたとえられるでしょう。外から見れば白くてピカピカ。でも、中は腐っています。ドリルで掘って治療するべきですが、いそいそと歯医者さんに行く人はいないでしょう。

虫歯の治療を億劫に思う人と同じように、人物も現実を否定します。違和感のある歯をこっそり舌でなぞったりしているのに、解決すべき問題があるのを認めたがりません。「噓」がもたらす痛い現実から目をそらそうとして、人物は矛先を他に向けようとします。メラニー・アン・フィリップスとクリス・ハントリーは次のように述べています。

人物が向かう先は真の解決ではなく、結局は「解決だと自分で思っていること」だと判明します。問題だと思っていたことは単なる症状でしかなく、真の問題とは別物だと気づきます。

「噓」は人物の「NEED」と「WANT」の相違を生み、生き方やストーリーに影響を及ぼします。「NEED」とは人物が本当に必要としている「真実」。「WANT」とは人物が手に入れたがっているもので、表面的な解決のために追い求めているものです。

人物が手に入れたがっているもの

キャラクターアークとプロットの最初の交差点は「主人公のゴール(出したい結果)」です。主人公は何を求めているでしょうか。ストーリーの中で、どんな結果を出したいと思っているでしょうか。世界征服? 結婚? 生き残ること、または死ぬこと? 昇給?

どんな物語もキャラクターが目指すゴールと共に始まります。プロットのことだけを考えるなら、そんなふうにシンプルです。しかし、人物の面では、どう考えればいいのでしょうか。

ここからが面白いところです。さっき挙げたようなゴールはあくまでも表面的なもの。ゴールをキャラクターアークと編み合わせるには、人物が心の奥深くで必要としているものを見つけなくてはなりません。「世界を征服したい」や「婚活を成功させたい」だけなら誰だって同じでしょう。主人公の魂の奥底にある理由が必要です。それは主人公自身も説明できないほど、深層心理に埋もれているかもしれません。

「その深い理由の根底に『噓』が隠れているのかな?」と思った方は、まさに正解です。

主人公は自分の問題にうっすら気づいているかもしれません。貧困(例:チャールズ・ディケンズ作『リトル・ドリット』)や裕福でも心が満たされない(例:ジョン・タートルトーブ監督の映画『キッド』)など、はっきりわかる部分もあるでしょう。主人公が気づけていないのは、真の解決方法―自分にとって本当に必要な「NEED」です。主人公はその価値に気づいていません。自分が思う「WANT」さえ手に入れれば人生はすべてうまくいくと思っています。

人物がほしがっているものは何か

「WANT」はほぼ例外なく、他人から得られるものや物質的なものです。人物は外からそれを手に入れて、自分の心の穴を埋めようとします。手当てが必要なのは心の病なのに、腕にギプスをはめようと奮闘するようなもの。見当違いのゴールを目指し、憧れの仕事や美しい妻、新しいゴルフクラブなどをほしがります。お金持ちになりたい、強くなりたい、愛されたい、尊敬されたい―その夢が叶えば満足できるに違いない、と思っています。

「WANT」を求めるのは愚かに聞こえるかもしれませんが、望みそのものに価値がないわけではないのです。例を見てみましょう。

『マイティ・ソー』…王になる。
『ジェーン・エア』…愛される。
『ジュラシック・パーク』…安心して恐竜の化石を調査する。『ウォルター少年と、夏の休日』…母親と一緒にきちんとした家庭で暮らす。
『トイ・ストーリー』…アンディ少年のお気に入りのおもちゃになる。
『スリー・キングス』…自由で幸福な暮らしに必要なお金を得る。
『フーリガン』…大学を卒業する。
『おつむて・ん・て・ん・クリニック』…精神の病を治療する。

どれも、きちんとしたゴールです。問題は、人物たちがこれらのゴールを目指して頑張るほど、ますます自分の「噓」に縛られていくことです。「噓」の価値観や世界観をもっている限り、真の幸せや満足を追求することはできません。魂の闇を見つめようともせず、ただ何かをほしがっているだけです。

人物にとって必要なもの

人物にとって必要なものをひとことで表すと「真実」です。「噓」の誤った観念の解毒剤のようなものであり、人生で最も大事なものです。「真実」を見なければ、人として心の成長はできません。同じ失敗をくり返し、さらに悪い状況に転落する可能性もあります(パート3「ネガティブなアーク」で説明します)

プロットの上では、人物は自分がほしいもの(「WANT」)を求めてストーリーの大部分を進みます。しかし、ストーリーが深いレベルで伝えようとすることは人物の成長です。初めのうちは、自分に何が必要か(「NEED」)に気づかず行動しているけれど、徐々にそれを意識するようになり、最終的には本当に必要なものを選びます。

人物に必要なものは何か

「NEED」は形がないものです。でも、具体的なものや目に見える形で表現できますし、そうするのが理想的です。本質的には、人物がただ何かに気づくだけでいいのです。その後、表向きの生活がまったく変わらない場合もありますが、人物は認識のしかたを変え、問題を乗り越える力を得ます。

「NEED」に気づくと、もはや「WANT」を追い求める気にはなれません。「WANT」を捨てなくてはならない時が来るでしょう。心にとって必要なものを選び、ほしかったものをあきらめる、ほろ苦い結末もありえます。逆に「NEED」を選んだためにパワーアップでき、前から目指していたゴールに突き進むストーリーもあります。表面的なレベルの「WANT」と内面の深いレベルの「NEED」が調和してフィナーレへと向かいます。

人物の「NEED」の例を挙げましょう。

『マイティ・ソー』…謙虚さと思いやりを学ぶ。
『ジェーン・エア』…魂の自由を受け入れる。
『ジュラシック・パーク』…過去の遺物の脅威から、生きている者たちの未来を守る。
『ウォルター少年と、夏の休日』…人を信じる。
『トイ・ストーリー』…アンディ少年の愛を分かち合う。
『スリー・キングス』…戦う意義を見出す。
『フーリガン』…自分のために戦う勇気を出す。
『おつむて・ん・て・ん・クリニック』…ありのままの自分として愛される。

これらはみな形のない概念ですが、人物がそれに気づいて受け入れると、必ず行動に表れます。その結果、具体的な形や目に見えるものとして表現されるのです。

人物の「WANT」と「NEED」の例

『クリスマス・キャロル』…守銭奴スクルージの「WANT」はお金で、そのために人々を苦しめても平気。「NEED」は人々への愛こそ真の富だと思い出すこと。
『カーズ』…ライトニング・マックィーンの「WANT」はピストン・カップで優勝してダイナコ石油に移籍すること。「NEED」はみんなと助け合うこと。

クエスチョン

1 人物は「噓」をどうやって隠しているか?
2 「噓」のせいで人物はどのように不幸、あるいは不満か?
3 「噓」を払拭するために必要な「真実」は?
4 どうやってその「真実」を知るか?
5 人物が何よりも一番ほしいもの(「WANT」)は?
6 プロットの結末と人物の「WANT」の関係は?
7 人物は「WANT」さえあれば問題は解決すると思っているか?
8 「WANT」のために「NEED」を見失っているか?
9  「NEED」があるために「WANT」が得られないのか、「NEED」を見出した後でしか「WANT」は得られないのか?
10 「NEED」を受け入れると、人物の人生はどう変わるか?

主人公の内面で「WANT」と「NEED」が衝突するほど周囲との対立も激しくなります。人物の内
面の葛藤をしっかり把握すれば、プロットにもうまく反映できるでしょう。

 

(ぜひ本編も併せてお楽しみ下さい)
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キャラクターからつくる物語創作再入門
「キャラクターアーク」で読者の心をつかむ

K.M.ワイランド=著|シカ・マッケンジー=訳

発売日:2019年03月26日

A5判|248頁|本体:2,200円+税|ISBN 978-4-8459-1822-5