『俳優の演技訓練映画監督は現場で何を教えるか』 | かみのたね
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2020.07.30

『俳優の演技訓練
映画監督は現場で何を教えるか』

ためし読み / 三谷一夫

最前線で活躍する日本の映画監督たちによる「俳優」指南書として刊行以来多くの方に支持されている『俳優の演技訓練 映画監督は現場で何を教えるか』。
演技のための方法論や訓練法に関する本は数多くありますが、最前線で活躍する日本の映画監督たちが「独自の演出」について詳細まで語ったものは多くありません。
本書では、映画24区におけるワークショップの内容をもとに、映画監督24名の現場での具体的な演技指導法から、俳優業界事情をふまえた成功への道のり、俳優業を続けていくためのライフスタイルの提案まで、1冊に収録。「俳優として生きる」とはどういうことか──演技力を高め、長く活躍するための実践的アドバイスが詰まっています。
今回のためし読みでは、平山秀幸監督の「キャラクターの履歴書を書く」部分の全文を公開いたします。

 

キャラクターの履歴書を書く

平山秀幸

1950年9月18日生まれ。福岡県北九州市出身。日本大学芸術学部放送学科卒業。1990年『マリアの胃袋』で監督デビュー。 主な作品に『ザ・中学教師』(日本映画監督協会新人賞)、『学校の怪談シリーズ』、『愛を乞うひと』(モントリオール世界映画祭国際批評家連盟賞、日本アカデミー賞最優秀監督賞、毎日コンクール監督賞、キネマ旬報監督賞など)、『ターン』、『笑う蛙』(毎日映画コンクール監督賞など)、『OUT』(日本アカデミー監督賞など)、『魔界転生』、『レディ・ジョーカー』、『しゃべれども しゃべれども』、『やじきた道中 てれすこ』、『必死剣 鳥刺し』、『信さん・炭鉱町のセレナーデ』『太平洋の奇跡 -フォックスと呼ばれた男-』。

絶対の正解はない

舞台と映画で、求められている演技はどう変わるのか? これは役者の方からよく聞かれる質問です。作品によっても演出家によっても全く違う答えがあるでしょう。あくまで僕の意見として言わせてもらうと、それは制約の大小だと思います。舞台の演技は、比較的自由です。役者は作品の世界観をはみ出さない範疇で、自由に体を使い、動き回って演技をすることができます。

しかし、映画の演技とは制約だらけです。カメラアングルを気にして役者には演技をしてもらわなければいけませんから、動ける範囲は限られています。ときには地面に線を引き、「この上に立って芝居をしてください」と要求することさえあります。そして、線を踏み越えて芝居をするような役者には「自己主張の強い我侭な役者だ」とレッテルが貼られます。逆に、線の手前で芝居をするような役者は「積極性が足りない」と思われてしまいます。

しかし、ならば線の上で芝居をすれば何も言われないのかというと「言われたことしかできないのか」と怒られることがあり…。つまり、役者がどんなやり方を選択したところで、絶対の正解なんてものはないということです。ベテランの役者さんでもいまだに悩みながら仕事をされています。結局、常に迷いながら、様々な挑戦を繰り返して成長していくしかありません。線の中で自分を見せるのか? あるいは外に出てしまうのか? 答えのない問いに悩み続けてください。

 

キャラクターの履歴書を描く

僕は、映画とはストーリーではなく人間を見せるものだと考えています。だからこそ、役者の人達にはそれぞれの役柄に深みが出るよう、強く表現して欲しいと考えています。仮に「明るく面倒見のいいおばさん」という人物を演じるのならば、心の中で思っているだけではなく、それを具体的に表現して欲しいと思います。

僕は感情の出し方をよくパーセントで指示します。役者の人に「あと20パーセントくらい出せないか」と、こんな風に注文をつけます。上手い役者ほど、自分で思っている感情の出し方と、見ている側の印象に違いがありません。しかし、大抵の役者は、意図しているほど周りに伝わっていないことが多いです。こちらが「あと50パーセント」なんて指示しても、実際には20パーセントくらいしか出ていなかったりします。自分達がたかをくくったら、お客さんには気持ちなんて届いていません。「誰に」「何のために」話している台詞なのか。そのことが曖昧だと、ふわふわした台詞回しになってしまうのです。演出側から要求があったのなら、強く、はっきりと感情表現をするように心掛けてください。

大前提として、キャラクターの「履歴書」をきちんと描けていなければ、演技はできないのではないでしょうか。「なぜここにいるのか」、「どういう気持ちなのか」を理解できている人ならば、作品の意図を理解し、演技で表現しようとしてくれます。そういう人の演技は見ている側からすると印象に残ります。「履歴書」が描けていない人は、やはり演技の印象が弱くなってしまいます。また、演出の変化にも対応できません。台本片手に本読本読みしているときと、実際に動きをつけて演じてもらったときとで、全く台詞回しが変わらない人がいます。そういう人は、表面的な調子でしか台詞を発していないからではないでしょうか。「履歴書」を基にして、リハーサルや打ち合わせを重ねるうちに演技を絞っていく。役作りとしては、それが基本だと思います。

 

「具体的な表現」を考える

1人芝居でもない限り、個人が個人のままシーンを演じていては、それは芝居ではありません。マスターベーションというやつです。集団の中でどう個人が存在しているのか。役者の人には常にそれを考えて欲しいと思います。

そこで、ワークショップではこんな課題脚本をもとにお芝居をしてもらいました。登場人物は4人。A、B、C、Dとしておきます。

A:「だから、今更こんな写真もらったってどうしようもないんだって」
B:「こないよなあ、ここだって言ったはずなんだけど」
C:「僕もこの年になってやっぱり世間体というものがあります」
D:「今やってきたばかりなんだ。いや、わからない。ひょっとしたら死んでいないかもしれないし」
B:「もう待つしかない。じたばたしたって始まらないし」
A:「もう昔のことは忘れたの。蒸し返されるのは迷惑なんだって」
D:「あんな奴死んで当然だよ。ざまあ見やがれ」
C:「そのために結婚して、って言うんじゃないですけど」

これが芝居の出だしですが、おわかりでしょうか。4人の会話は全く噛み合っていません。それもそのはずで、これは僕が思いつきで書いたテキストです。何かの物語を想定していたわけでも、4人の背景を考えていたわけでもありません。4人がバラバラに喋っているだけです。役者に与えられる台本の情報は、4人それぞれの台詞と、彼らが一箇所に集まっているという状況、それだけです。そんなものをワークショップではチーム毎に分かれて演じてもらいました。

登場人物の設定、背景は全て役者側に考えてもらいました。どんな因縁が含まれていても、どんな物語を重ねてもらっても自由です。しかし、それ以上に役者に考えてほしかったのは「何が会話できるのか」と「何が会話できないのか」の検討です。

4人の登場人物は誰とも会話していないように見えますが、同時に、誰かと会話しているようにも見えます。仮にコミュニケーションが取れている人物たちがいるのならば、ちゃんと2人が意思疎通できている様子を表現して欲しいと要求しました。そして、コミュニケーションが取れない人物に関しては、誰が見てもその設定がわかるように表現に落とし込んでもらおうとしました。

ただ単に会話が繋がらないだけの芝居は素人にもできることです。プロの役者なら、あるいはプロを目指すなら、曖昧な部分を残さず、「キャラクターキャラクター同士に接点がない」ことさえもしっかりと伝わるように演じてほしかったのです。

映画ではどんなキャラクターであれ、シーンに登場したからには意味が発生します。仮に、意味が伝わらないキャラクターだったとしても、それは「意味が伝わらないキャラクターがいること」に意味があるのです。だから、観客にはその振り分けが伝わらないといけない。かなり高度な表現力が求められる課題でしたが、あえて役者さんたちに挑戦してもらいました。芝居を見ながら上手くいっている、面白い、と感じられたチームには必ず理由がありました。偶然に歯車が噛み合うのではなく、シーンを成立させるための工夫が設定に感じられ、尚且つ、それを目に見える「具体的な表現」にできていたのです。

役者とは観客の目に映る唯一の表現者です。役者が出ないと映画は成り立ちません。ですが、役者だけがいても映画とは成立しません。背景を考える人がいて、演出をつけてくれる人がいて、それを支えてくれる様々な人達がいて、役者は演技をしています。自分の好きなように振る舞うのではなく、作品の意図を考え、必要な要素を具体として表現できる人になって欲しいと思います。

今は亡き、今村昌平監督が映画に関わる人間についてこんな言葉を残されています。

「普通の人はサラリーマンや公務員になるのに、この世界に来たということはそれだけで何かの才能があるということ」。

無責任な言葉のように聞こえますが真実だと思います。役者の道に足を踏み入れた皆さんには一人一人に相当な覚悟があるはず。自分に自信を持って、やるからには上を目指してください。

 

(ぜひ本編も併せてお楽しみ下さい)
※掲載しているすべてのコンテンツの無断複写・転載を禁じます。

俳優の演技訓練
映画監督は現場で何を教えるか

三谷一夫=編著

発売日:2013年06月26日

四六判|224頁|定価 1,900円+税|ISBN 978-4-8459-1200-1


プロフィール
三谷一夫みたに・かずお

映画24区代表・映画プロデューサー。関西学院大学を卒業後、10年間東京三菱銀行にてエンタメ系企業の支援に従事。2008年『パッチギ!』『フラガール』を生んだ映画会社シネカノンの経営に参画し企業再生を成立。その後2009年に「意欲的な映画づくり」「映画人の育成」を掲げて映画24区を設立。直近のプロデュース参加作品に映画『21世紀の女の子』『ぼくらのレシピ図鑑シリーズ』など。長年、俳優育成スクール「映画24区トレーニング」を運営している。 http://eiga24ku-training.jp/
著書に『俳優の演技訓練』『俳優の教科書』(いずれもフィルムアート社)がある。

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