2017年に刊行され、大きな話題となったThi Bui(ティー・ブイ)著のグラフィックノベル『THE BEST WE COULD DO』の邦訳がついに決定! 日本語版タイトルは『私たちにできたこと 難民になったベトナムの少女とその家族の物語』です!
※原書カバー写真
私たちにできたこと 難民になったベトナムの少女とその家族の物語
ティー・ブイ=著|椎名ゆかり=訳
発売日:2020年12月15日
B5変形版・並製|352頁(予定)|予価 3,800円+税|ISBN 978-4-8459-1926-0
内容紹介
まず、本書の内容を簡単にご紹介します。グラフィックノベルである本書の魅力をお伝えするため、中面画像もいくつか紹介したいと思います。
親になるとはどういうことなのか? 親は子供に何ができるのか?
「家族のかたち」を問いかけるノンフィクション・グラフィックノベル
ひとつの家族の歩みから浮かび上がる戦争が生み出す貧困と混乱、難民が抱く不安、マイノリティが受ける差別、新天地での思い通りにならない現実……
ベトナム系アメリカ人であるティー・ブイさんは、母親になったことをきっかけに、アメリカで新しく家族を築いていくこと、そして子供を育てるという不安の中で、心が離れてしまった両親と向き合う決意を固めます。
フランス、日本、アメリカ……さまざまな国に占領され、貧困と混乱が続いたベトナムを生き抜いてきた両親とその家族。「自分たちの人生を歩んでいきたい」という思いから難民になることを選んだ両親は、新天地アメリカで差別や思い通りにならない現実を前にしながらも、子供たちのために自分たちができる精一杯のことを行なっていきます。
歴史に翻弄された両親の歩みにふれることで、ティー・ブイさんの中に変化が生まれていきます……。
作者のティー・ブイさんが、2002年に制作した自身の家族のオーラル・ヒストリーが出発点となった本作は、5世代にわたるベトナム人家族の歩みを描いたノンフィクション・グラフィックノベルです。
第二次世界大戦や第一次インドシナ戦争、ベトナム戦争といった大きな歴史の中で、難民になりながらも必死に生き抜こうとする小さな家族の姿を、独特な絵や色彩、個性的なコマ割り、練られたモノローグによって描き出しています。
ティー・ブイさんは、デビュー作となる本作によって、アメリカン・ブック・アワードを受賞。ほかに全米批評家協会賞やアイズナー賞にノミネートされるなど高く評価されました。
過酷な歴史に翻弄される個人を描いたノンフィクションである本作。『マウス』や『ペルセポリス』といった優れた自伝的作品と同様、個人的だからこそ普遍的な物語が紡がれています。
著者・翻訳者紹介
ティー・ブイ(Thi Bui)
グラフィックノベル作家。1975年、南ベトナム生まれ。1978年、難民としてアメリカに移住。バード大学大学院にて彫刻、ニューヨーク大学大学院にて美術教育を学ぶ。大学院時代にオーラル・ヒストリーに関心を持ち、自身の家族の記憶をテーマにしたプロジェクトを始動。家族の軌跡を表現するのはグラフィック・ノベルが最適と考え、2005年より制作を開始し、2017年ついに『私たちにできたこと——難民になったベトナムの少女とその家族の物語』を刊行する。ティー・ブイはデビュー作となる本作によって、アメリカン・ブック・アワードを受賞。ほかに全米批評家協会賞やアイズナー賞にノミネートされるなど高く評価された。共著に『A Different Pond』(Raintree)、『Chicken of the Sea』(McSweeneys Books)がある。(画像はhttps://www.ozy.com/より引用)
著者HP:https://www.thibui.com/
Twitter:@MsThiBui
椎名ゆかり(しいな ゆかり)
海外マンガ翻訳者。ボーリンググリーン州立大学大学院ポピュラーカルチャー専攻修士課程修了。海外マンガやマンガを対象にした論文の翻訳のほか、海外におけるマンガの状況についての紹介活動なども行なっている。主な訳書には『マンガ学——マンガによるマンガのためのマンガ理論 完全新訳版』(復刊ドットコム)、『アメリカン・ボーン・チャイニーズ——アメリカ生まれの中国人』(花伝社)、『ナンシー——いいね!が欲しくてたまらない私たちの日々』(DU BOOKS)、『ファン・ホーム——ある家族の悲喜劇 新装版』(小学館集英社プロダクション)などがある。
Twitter:@ceena_J
アメリカでの評価
本書がアメリカで刊行されたのは2017年。数々の賞レースにノミネートされています。
- アメリカン・ブック・アワード:受賞
- 全米批評家協会賞:ノミネート
- アイズナー賞:ノミネート
また、刊行直後から数多くの絶賛レビューが寄せられています。ここですべてを紹介すると、ものすごいボリュームになってしまうので、そのうちのいくつかをご紹介いたします。その他のレビューに関しては弊社HPで紹介していますので、ぜひこちらもご覧ください。
ブイは、歴史的、政治的な物語を個人的なサーガへと編み込んだ。世代から世代へと続く怖れと哀しみと希望の糸を辿ることによって、ブイはあらゆるところに存している難民の人生に説得力のある背景を与えている。
——雑誌『ニューヨーク・タイムス・ブックレビュー』ブイが『私たちにできたこと』を2005年に取り組み始めた時、彼女は2017年に本作が出版された時に持つ重要性を予見することはできなかっただろう。しかし、既に出版された今、この本はトランプ時代における社会的テーマを持ったマンガの初期の偉大な1冊であると思う。ブイは、知的に入念で、なおかつ視覚的に魅力的な繊細な物語として、このサーガを作り上げた。
——Webサイト『ヴァルチャー』アート・スピーゲルマンの傑作『マウス』のように、ブイの回顧録は、ペンとインクで描かれた素朴な絵から複雑な感情を導き出す。
——新聞『サンフランシスコ・クロニクル』ブイのミニマリスト的なアプローチは、彼女の家族が経験した移民としての厳しい現実から読者の目を逸らせることはない。しかし、同時に、すべての家族が経験する普遍的な苦難や喜びを見逃すことも許さない。マルジャン・サトラピの『ペルセポリス』のファンは、現代的テーマを持つ本作も読んだほうがいい。
——雑誌『ブックページ』
また、この夏、ビル・ゲイツが、パンデミックを乗り越えるための本として本書を推薦したことも大きな話題となりました。
13 books Bill Gates recommends reading this summer to get you through the pandemic https://t.co/GME1izsmrp
— Science Insider (@SciInsider) May 18, 2020
SNSでも様々なメディアが取り上げています。
Cartoonist Thi Bui's graphic memoir, "The Best We Could Do," is the story of her family in the years before, during and after the Vietnam War. https://t.co/UIWCQMqlxH
— NPR (@NPR) August 2, 2018
本書とあわせて読んでほしいグラフィックノベル
アメリカのレビューで、本書とよく比較されているのが、
- 『ペルセポリス イランの少女マルジ』マルジャン・サトラピ=著
- 『マウス アウシュヴィッツを生きのびた父親の物語』アート・スピーゲルマン=著
の2作品です。著者もインタビューでこの2作品の影響について言及しています。
また、日本でも近年、社会的・歴史的なテーマを扱ったグラフィックノベルが多数刊行されています。
- 『マッドジャーマンズ ドイツ移民物語』ビルギット・ヴァイエ=著
- 『未来のアラブ人 中東の子ども時代』リアド・サトゥフ=著
- 『MARCH』 ジョン・ルイス 、アンドリュー・アイディン=作 |ネイト・パウエル=画
- 『〈敵〉と呼ばれても』ジョージ・タケイ、ジャスティン・アイジンガー、スティーヴン・スコット=作 |ハーモニー・ベッカー=画
これらの作品がお好きな方は『私たちにできたこと』をぜひご一読ください。
さいごに
本書は、著者のティー・ブイさんの実体験がベースになっているノンフィクション・グラフィックノベルです。
ベトナム戦争、難民、貧困、マイノリティ、差別という単語の並びを見ると、非常に重い物語であると思われるかもしれません。
しかし、本書の中心となるテーマは「親子」「家族」です。
難民としてアメリカに渡ったティー・ブイさんは、アメリカで結婚・出産します。
自身が母親になったことで「親になるとはどういうことなのか?」「親は子に何ができるのか?」と、自問自答しはじめます。また、自分の母親への強烈な共感の思いを抱くようになります。
そして、これまで距離を感じていた自身の両親の過去に触れてみようと思い立ちます。本書は両親への聞き取りから生まれたオーラル・ヒストリーでもあります。
両親の過去をひもとくということは、ベトナムの苦難の歴史を知るということでもありました。
私は家族の歴史を記録し始めた
もし過去と現在の間の溝を埋めることができたとしたら
両親と私の間の隙間も埋められるかもしれないと思ったからだ
それから、もしベトナムを失われた何かの象徴ではなく、現実の場所として見ることができたなら
両親をもっと現実の人間として見るようになって
もっと愛せるようになるかもしれない
私は両親に、いつ終わるとも知れないほど多くの質問を投げかけた。彼らの生活や
戦争
そして、かつての祖国について
なぜ父親はこれまで自分の過去について多くを語らなかったのか。子どもの幸せのために、親は何を犠牲にしてきたのか。
両親への聞き取りを通じてティー・ブイさんは「贈り物」としての命の存在に気づきます。
私はようやくこの本を理解することができました。この本は親と子についての本である、ということを。そしてタイトルは『私たちにできたこと(THE BEST WE COULD DO)』になったのです。
2020年12月15日の発売に向けて、鋭意編集作業中です。
刊行をお楽しみに!
私たちにできたこと 難民になったベトナムの少女とその家族の物語
ティー・ブイ=著|椎名ゆかり=訳
発売日:2020年12月15日
B5変形版・並製|352頁(予定)|予価 3,800円+税|ISBN 978-4-8459-1926-0
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