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2020.12.29

『性格類語辞典 ネガティブ編』

ためし読み / アンジェラ・アッカーマン, ベッカ・パグリッシ

1. 魅力的なキャラクターとは

オンラインでもオフラインでも、人々の気を引くものが溢れている今、自分の物語に読者を引きつける方法を見いだすことは、これまで以上に欠かせなくなってきた。しかし、どうすれば人の心を掴む物語を作ることができるのだろうか? ほかの作品より一歩抜きんでた作品は、いったいどこが違うのだろう? さらにもっとも重要なこととして、読者とキャラクターの強いきずなはどのようにして組み立てることができるのか?

人が本を読むのは、楽しむためや気晴らしのためだと広く信じられているが、それだけに限らない。読者が時間をかけて振り返ってみれば、自分にとっての最高傑作(最後のページを読み終えたあともずっと心に残っている作品)とは、自分自身について、あるいは自分の生きる世界について、より深い真実を明かしてくれた本だという結論を導きだすだろう。では、そのような本であることを、読者はどうやって見抜くのだろうか? 視点となるキャラクターの自己認識や、心の中の変化や成長を通して、というのがその答えだ。

巧みに描かれているキャラクターは、読んだときに非常に真実味があり、あたかもその人物と経験をともにしているような気持ちにさせられる。彼らが胸を痛めているとき、私たちも胸を痛め、彼らが求めているものを私たちも求める。彼らが引き裂かれていたり葛藤していたりするときは、私たちもまた同じ思いだ。込み入った現実的なキャラクターがそれほどまでに人々を引きつけるのはなぜなのだろう? 生きる意味を追い求める彼らの姿が、なぜ読者の心に深く響くのだろう?

そのわけは、私たちもまた人生において同じ探求を行っているからである。自分とは何か? このことを理解したいという欲求は、誰の中にも存在する。人には望みがあり、欲求があり、恐怖や希望がある。人生における役目や、成し遂げるべきことも自問している。このように、私たちはキャラクターたちと同じく、答えを求めて旅路を進んでいる。

その旅路で歩むルートは、人それぞれの性格によるところが大きい。人物の態度、見解、思考、ふるまいは、その人の欲求、信念、道徳観、価値観と独自に調和している。出入りの激しい感情や気分とは異なり、性格は自分の中に一貫して存在し続けるもので、行動を決定づけるのに大きな役割を果たす。

実際の人間と同じように、物語のキャラクターもまた、性格を形作るさまざまな欠点や美点からなる唯一無二の存在である。こうした性格的属性も、私たちと同じく、キャラクターが積む良い経験と悪い経験の両方を通じて、時間をかけてゆっくりと現れるようになる。

キャラクター創作において、たとえ発見したことをすべて物語の中に組み込まないにしても、自分が描くキャラクターがどんな人物で、何によって突き動かされているのかを把握しておくのは必須だ。欠点を決めることは、とくに重要な意味を持つ。なぜなら、キャラクターの心の痛みこそ読者が気にかけるものであり、キャラクターの性格が不完全であってこそ、共感できて忘れられない存在になるからだ。

2. 欠点はこうして形成される

性格および性格的属性についてはさまざまな見解があり、激しい議論が巻き起こっている。その中でも意見が一致しているのが、物語のキャラクターというのは、「自分の道徳規範に沿った基本的な望みや欲求を満たすために機能する、さまざまな特徴のるつぼである」という点だ。たとえば、オリンピックで金メダルの獲得を夢見るキャラクターの場合、意志力、強い勤労意欲、忍耐力などの属性を備えているだろう。公正さとハードワークに価値を置いているので、ステロイドなどの近道は避けて、目標を達成するために必要な筋トレ、健康的な食生活、技術に磨きをかけるといった習慣を守って生活する姿が想像できる。

こうした美点がキャラクターの望みを達成するのに役立つことは間違いない。では、欠点はどういった役割を担うのだろうか? また、属性がポジティブなものかネガティブなものかを見極めるには?

性格的属性とは、人の性格を定義するのに役立つ、その人ならではの(ネガティブ/ポジティブ/ニュートラルいずれかの)態度、資質、ふるまいといったものである。

さらに詳しく見ていくと、ポジティブな属性とは、個人的成長や、正当な手段を通じた目標の達成をもたらす美点である。このおかげで人との関係もさらに良くなるだけでなく、普通は相手にとっても何かしらためになるものだ。たとえば「気高い」というのは、性格の中でもポジティブな側に入りやすい。尊敬できるキャラクターは成功するために真っ当な手段を用いるし、その人柄ゆえに、他人に手を差し伸べずにはいられない。さらにその過程で、相手との関係性も向上させていくのである。

一方で、ネガティブな属性とは、相手との関係性を壊してしまうもの、あるいは最小限まで抑えてしまうものであり、他人のことなど考慮しない欠点のことだ。この属性は、周囲に意識を向けるよりも自分のことを重視する傾向にある。この定義に従うと、「嫉妬深い」というのは明らかにネガティブな属性だとわかる。嫉妬の属性を持つキャラクターは、自分の欲求や不安にばかり焦点を当てているため、恨みや敵意によって相手に心地悪い思いをさせることになり、関係性にもひびが入ってしまう。

ニュートラルな属性とは、ポジティブ・ネガティブ両方の性質を含んでいるため、分類がさらに難しい。欠点のみとも言い切れず、また欠点の不健全な面を含む属性でもないため、本書には登場しない。

● 心の傷
自己発見、生きる意味を見つけること、目標の達成――これらがキャラクターのすべてである。たいてい、キャラクターは職場や人間関係において、精神的に、あるいは自己の成長を通じて、なんとか自分を高めたいと模索している。しかし、幾度となく欠点が行く手を阻み、意識・無意識レベルの双方で望みを叶える道を塞いでしまう。自分という存在と、その自分が求めるものとがしばしば対立を起こし、成功を遠ざけてしまうとは、なんとも皮肉な話である。では、なぜ人には欠点があるのだろう? そしてそれは、どこから来ているのだろうか?

責められるべきは過去であるというのは、驚くほどのことでもないだろう。しつけ、手本となる人々、周囲の環境、遺伝といった多くの要因が、私たちの性格を決定づける役割を果たす。キャラクターの生きる世界が私たちの世界と同じようであれば、欠点を持つ人で溢れているだろうし、人生だって、完璧で理想通りバランスのとれた極楽ではないはずだ。ある特定の出来事を経験することや、不健全な考え方や行動パターンや人間関係に長いことさらされたりすることで、キャラクターが無力になることもある。たとえば、無知なキャラクターの場合、その原因は長年にわたって指導が不十分だったことにあるかもしれないし、他人とつながりを持ったり仲良くなったりすることが制限されるような、過保護な環境で育ったことにあるかもしれない。こうして、真実を教えられないまま育つことによって、全潜在能力を発揮することができなくなる、性格上の欠陥が生まれるのだ。

しかし、最大の打撃となる要因(作家がキャラクターの過去から掘り起こす努力をしなければならないもの)が、精神的苦痛である。かつて負った痛みはその人に大きな衝撃を与え、現在のふるまいにも影響を及ぼしているはずだ。このように情緒面での痛ましい出来事は心の傷と称され、非常に強い力を持つ。過去に直面した決定的な感情面での経験は、キャラクター自身をとにかく消耗させるため、本人は何としてでも同じ類いの痛みを再び味わうことを避けようとする。世の中を見る目は変わり、自分自身や周囲に対する信念も変わってしまう。このトラウマ的体験のおかげで、自分を守らなければまたあの痛みを負うことになる、という深い恐怖の念が植えつけられる[*]

深刻な病気、あるいは外見の損傷というように、長期にわたって精神的影響を及ぼすような身体的欠陥の場合も同じ結果にいたる。どちらの場合も、自分の心の安全を保つため、かたくなに抱き続ける誤った信念のせいで、ネガティブな特徴が現れるようになる。

● 自分につく嘘
周囲に対し、心の傷はしばしば秘密にされる。なぜかというと、その傷の中に深く根づいているものは嘘(キャラクターが信じ込んでいる、真実ではないこと)だからである。たとえば、「自分の身に起きてしまったことは当然の報いだ」「自分は好意・愛情・幸福を授かるのに値しない人物だ」といった
ものだ。たいていの場合、嘘の中には自分を責めたり、恥じたりする気持ちが深く埋め込まれている。そこから恐怖の感情が発生し、もう傷つくことのないようにと、自らのふるまいを無理矢理変えずにはいられなくなる。

たとえば、強盗に押し入られて、婚約者を銃撃から守ることができなかった(心の傷)ため、自分は人を愛するのに値しない(嘘)という思い込みを抱えた男がいたとする。彼は、ほかの女性たちが自分に引きつけられないような属性や気質を身につけるかもしれない。また、誰かと距離が近くなったら、真剣な付き合いになる前にその関係を終わらせるかもしれない。それに、自分は結局人を失望させることになると信じているため、他人に対して責任を負うのを避けることも考えられる。

あるいは、もう少しドラマチックな展開を抑えた話で見てみよう。家族よりも仕事優先だった父親のもとで育った娘がいたとする(心の傷)。周りの人たちに認めてもらうには、仕事の業績を上げるしかないと思い込み(嘘)、彼女は仕事中毒な大人に成長する。自分も家庭を持ちたいと思ってはいるものの、仕事に身を捧げるためにその望みを犠牲にする。やがて健康状態は悪化し、友人関係は後回しになり、人生はキャリアを積むことのみを中心にまわるようになる。こうして仕事では成功を収めるものの、心から満たされることのない人生を送るのだ。

このようなキャラクターを苦しめる嘘というものは、以下にある人間の基本的欲求の5つのうち、どれかを軸としている[**]

基本的欲求・・・・・・・・生物的・生理的欲求を満たしたい
自分につく嘘・・・・「 自分もほかの誰かも養う能力などない」

基本的欲求・・・・・・・・自分や家族の安全を守りたい
自分につく嘘・・・・「 自分は安心感を抱くに値しない」

基本的欲求・・・・・・・・他人とつながりを感じたい、人に愛されたい
自分につく嘘・・・・「 自分は愛されたり優しくされたりする価値がない」

基本的欲求・・・・・・・・他人からも自分自身からも高い評価を得たい
自分につく嘘・・・・「 自分にはうまくやれることがひとつもない」

基本的欲求・・・・・・・・自分の全潜在能力を実感したい
自分につく嘘・・・・「 自分は一生良い◯◯(親、社員、友人など)になれない」
(そのほかの事例は、付録1「キャラクターの欲求と自分につく嘘の事例集」を参照してほしい)

欠点の多くは、外傷によってひどい発生の仕方をしたというよりも、育ち方や環境に由来しているが、キャラクターの重大な欠点は、必ず特定の痛ましい経験に端を発しているはずだ。この欠点があるために、夢を実現するまでの道のりに傷がつき、自分が持っている潜在能力を最大限発揮することができない。こうした欠点こそ、キャラクター自身が過去に立ち返って心の傷を受け入れることで、いずれは克服していかなければならないものなのだ。

欠点を隠す
キャラクターが自分の欠点を人には見せたくないと思うのは、ごく自然なことだ。人と接する状況では、仮面やペルソナを身につけて、本心を隠すために別の人格を装うかもしれない。たとえば、かつて人にだまされた女性がいるとする。彼女のペルソナは、ひねくれてタフな人格であるふりをするかもしれない。こうすれば、傷つくことなどないほど強くいられるからだ。このようにふるまうことで、彼女は人を寄せつけず、依然として傷ついている本心を悟られずにいようとする。

ペルソナはまた、心の内に潜む闇(他人には見られたくないと思う、性格のネガティブで醜い部分)を隠す役割も果たす。自分勝手で害を及ぼすような偏見や、不適切な思考、不健全な望みなど、これらもまた性格の一部ではあるものの、そうした本性が明らかになったときに生じる罪悪感や恥ずかしさを避けるために、隠そうとする。

何よりも重要なのは、そんなペルソナの下に隠されているのが、キャラクターの欠点的ふるまいやネガティブな思考を生みだしている嘘であるということだ。先ほど述べたように、この嘘は人によって異なり、その人が負った心の傷に由来する。

キャラクターを組み立てるときに嘘を見いだすことは、特定の欠点がどのように形成されていくかを理解するカギとなる。準備段階で深く掘り下げて、キャラクターの背景となる話を徹底的に探っていけば、過去に負った心の傷や、現在この人物の意欲をかき立てているものについて、もっと詳しく知ることができるはずだ。

*マイケル・ホーグ( 『Writing Screenplays That Sell[売れる脚本の書き方]』著者)
**アブラハム・マズローによる「自己実現理論」を適用

 

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(このつづきは、本編でお楽しみ下さい)
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性格類語辞典 ネガティブ編

アンジェラ・アッカーマン、ベッカ・パグリッシ=著|滝本杏奈=訳

2016年06月24日

A5判・並製|288頁|ISBN 978-4-8459-1602-3|定価:1,300円+税