『クリティカル・ワード メディア論理論と歴史から〈いま〉が学べる』 | かみのたね
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2021.02.26

『クリティカル・ワード メディア論
理論と歴史から〈いま〉が学べる』

ためし読み / 門林岳史

現代社会や文化および芸術に関わるさまざまな領域を、[重要用語]から読み解き学ぶことを目指したコンパクトな入門シリーズ[クリティカル・ワード]。各方面から絶賛の声をいただいた前作『文学理論』につづくシリーズ第2弾、『クリティカル・ワード メディア論 理論と歴史から〈いま〉が学べる』を発売します。
メディア論における近年の新たな動向や、メディア理論の歴史的な系譜を現代的な視点で整理し直し、さらにメディアの実践を横断的にとらえて論じることを試みた、これまでになかったメディア論の入門書です。
今回のためし読みでは、編者の門林岳史さんによる「はじめに」の部分を公開いたします。

 

はじめに

 

学生のご家族と話すとき、あるいはバーのカウンターで見知らぬ客と話が弾んだときなど、研究者ではない方に「ご専門はなんですか?」と尋ねられることがある。「メディア論やってます」と答えると、「じゃあマスコミとかそっち系……広告業界とかにも強い感じですか?」というような反応がしばしば返ってきてあわてて訂正しなければいけなくなる(なので、一般の方に自分の研究分野を説明するときには「メディアの哲学を研究しています」と答えるようにしている)。

かようにメディア論というと、マスコミやジャーナリズムの研究、あるいはメディア業界の動向調査といった認識が強いようだ。本書を編むにあって心がけたことは、ある意味ではこの「マスコミとかそっち系」から「メディアの哲学」への橋渡しをすることである。といっても本書は、哲学や思想に偏った内容の本ではけっしてない。そうではなく、メディア論とは人文学の伝統にしっかり根を下ろした研究領域であること、それでいてメディア論の関心領域は現代社会のほとんどあらゆる局面におよぶこと、文化や社会の歴史的展開を学ぶうえでもメディア論は重要な視点を提供すること、まとめると、メディア論は総合的かつ領域横断的な学問領域として人文社会研究のなかに重要な位置を占めていることを示したいと考えた。

フィルムアート社の薮崎今日子さんから本書の企画を提案していただいたとき、最初に思い浮かべたのはW・J・T・ミッチェルとマーク・B・N・ハンセンが編んだ『Critical Terms for Media Studies[以下、Critical Terms と略記]』(2010, University of Chicago Press)である。本書とほぼ同じタイトルのこの本は、「身体」、「イメージ」、「記憶」、「言語」など21の項目を、N・キャサリン・ヘイルズ、アレクサンダー・R・ギャロウェイ、ユージン・サッカーなど本書でも繰り返し登場する、そして2000年代以降の英語圏でのメディア理論の展開を代表する研究者たちが執筆している。この本を抜粋訳であっても日本語で出版できれば、日本ではまだ十分に紹介されていない英語圏のメディア研究における最新の動向を一挙に導入できる、という構想を以前から持っていた。

かくして出版社に対する私からの最初の提案は、この本の一部の章を組み込んで本書を構成できないか、というものだった。残念ながら『Critical Terms』は、フィルムアート社の「クリティカル・ワード」シリーズに組み込むには各章の分量が長く、翻訳権の問題も絡むため、この提案は実現しなかったが、そのかわりに増田展大さんを共編者に迎え、『Critical Terms』に匹敵するような内容のよりコンパクトなガイドブックをコンセプトに本書の企画を練っていくことになった。増田さん、薮崎さんとはその後一年ほどにわたって楽しくブレインストーミングを重ね、最終的に現在のような構成にまとまった。

本書はどこから読み始めてもよい。目次を参照して事典的に使用することもできるし、本文中に挿入した各項目間の相互参照や巻末の人名・事項索引を頼りにジグザグに読み進めてもよいだろう。ただし、「理論編」、「系譜編」、「歴史編」の3部はそれぞれ通読することである程度体系的な知識が身につくように配慮されている。

第1部「理論編──メディア理論の現在」では、『Critical Terms』の日本語版を、という当初のコンセプトをかなりの程度まで実現できたのではないかと思う。身体や知能といった人間存在の根幹に関わるテーマから、ニューメディア・スタディーズ、ゲーム・スタディーズ、プラットフォーム研究のような研究動向、政治や資本主義社会の問題、そしてポストヒューマンにいたるまで、現在のメディア理論が切り開く地平を見渡せるような構成を心がけた。

第2部「系譜編──メディア思想の潮流」は、メディア思想ないしメディア理論の系譜を通覧できるようになっている。ヴァルター・ベンヤミンやマーシャル・マクルーハンのような古典から、カルチュラル・スタディーズ、ドイツにおけるメディア哲学の動向、ジェンダーの問題、メディア・アートの展開など、まず最初に知っておくべきメディア論の歴史的展開をバランスよく網羅するよう配慮した。

第2部「系譜編」がメディア論の歴史を扱うのに対し、第3部「歴史編──メディア考古学の実践」は、メディア技術の歴史展開を展望する内容になっている。それにあたっては個別のメディアごとに項目を挙げていくのではなく、メディアを横断するキーワードによって歴史の重層性を浮かび上がらせるよう工夫した。第1部「理論編」に「アーカイヴ」の項目が含まれているように、「メディア考古学」は近年のメディア理論における重要な方法論のひとつである。その意味では第3部も、新しいメディア論の布置を示す構成になっている。

本書の作成中に新型コロナウイルス感染症が世界を襲ったことは、本書の内容にも影を落としている。企画進行とコロナ流行のタイミングが少しずれていたら、「パンデミック・メディア」といった項目を新たに立てていたかもしれない。結局そのようにはならなかったが、本書の端々にCOVID-19 への言及があることは、メディア論がつねに更新されつづける現在進行中の研究領域であることを示しているだろう。

本書を作成するにあたっては、第一線で活躍するたくさんの研究者に項目執筆を担当していただいた。執筆依頼をはじめるタイミングでコロナ禍となり、執筆陣には大学業務などでも異例の対応で多忙を極めているなか追加の負担をお願いすることになったが、幸いなことに企画段階で思い描いていた理想的な布陣にほぼそのままのかたちで協力していただけた。本書の内容でいたらないところは読者の批判を請いたい、などとは書かない。最高の執筆陣による画期的な入門書になったと確信している。

編者を代表して
2021年1月末日

門林岳史

(ぜひ本編も併せてお楽しみ下さい)
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クリティカル・ワード メディア論
理論と歴史から〈いま〉が学べる

門林岳史・増田展大=編著|秋吉康晴、飯田麻結、飯田豊、岩城覚久、遠藤英樹、大久保遼、喜多千草、佐藤守弘、清水知子、鈴木恒平、竹峰義和、田中洋美、橋本一径、浜野志保、原島大輔、福田貴成、堀潤之、前川修、馬定延、松谷容作、水嶋一憲、水野勝仁、光岡寿郎、毛利嘉孝、山本泰三、吉田寛=著

2021年02月26日

四六判・並製|296頁|ISBN 978-4-8459-2006-8|本体:2,200円+税