第2回 ラテン・ポップとK-POP | かみのたね
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2021.06.25

第2回 ラテン・ポップとK-POP

K-POPからみるポップな世界 / imdkm

K-POPはいったい何が面白く、魅力的で、新しいのか?
ひとびとの心を掴んで離さないその「ポップ」の秘密を、批評家・imdkmさんが解き明かしていきます!
第2回目は日本からは見落とされがちなラテン・アメリカとの関係について。

 またBTSの話からかよ、と思われそうだけれども、とりあえずBTSの話。BTSの新曲「Butter」、米Billboard Hot100で初登場から3週連続で1位だそう(執筆時、6月18日現在)。「Dynamite」に次ぐ、全編英語詞のポップソングだ。その盤石なクオリティには、アメリカ市場での成功をいっそう確かなものにしよう、という意気込みが感じられる。わずか2分44秒というきわめてラジオ・フレンドリーな短い尺のなかに各メンバーの聴かせどころを詰め込み、MVとあわせて聴くと「4分くらいあるんじゃないのこれ?」っていうくらい濃密。「Dynamite」よりも一歩踏み込んで、グループの魅力をプレゼンテーションしているように思う。もっとも、一聴した印象はまさしくバターのようにスムース。最小限に切り詰められたサウンドで、徹底して無駄なく展開するタイトさには舌を巻く。

BTS「Butter」

 

 しかし「やっぱり英語詞しか勝たんのか~」という複雑な思いは未だにある。いや「しか勝ってない」わけじゃぜんぜんないんだけど。BTSの2曲めのHot 100首位となった「Life Goes On」は韓国語詞だし、韓国語詞のトップ10ヒットをこれまでも送り込んでいたし……(注1)。
 歴史的に見て、K-POPにおいて英語圏、特にアメリカ市場を念頭に英語曲やレパートリーの英語版を制作すること自体は珍しいことではないし、今後もっと増えていくことも予想できる。とはいえ、個人的には、K-POPが世界的にプレゼンスを高めていくプロセスにおいて英語版が果たした役割はそこまで大きくなかったのではないかと思う。ひとつひとつの試み――たとえば少女時代が英語版の楽曲でアメリカ進出を試みたこととか――が現在の隆盛にとって重要な歩みだったことは疑いえない。けれども、「Dynamite」でそれがある意味で実を結ぶまでには、もっと多くのファクターが絡んでいたはずだからだ(そのひとつが草の根的で多文化・多言語にまたがるファンダムだろう)。
 話はBTSに限ったことではない。BTSと並んでK-POPの世界的成功のアイコンと目されるBLACKPINKも、『THE ALBUM』(2020年)では英語詞の比率がぐっと上がった。なにしろ8曲中3曲が完全に英語詞で、セレーナ・ゴメスとコラボした「Ice Cream」でも韓国語が出てくるのは3行ほど。実質、アルバムの半分は英語詞と言っていい。あるいはMONSTA Xがアメリカのエピック・レコードからリリースした『ALL BOUT LUV』(2020年)は全編英語詞で、サウンドの傾向もあきらかにそれまでの活動と区別した、いわばアメリカ向けローカライズを施したものになっていた。

 

クロスオーヴァーするKとラテン

 といった作品たちを聴いて心躍らせつつなにか腑に落ちないものを覚えていたところ、興味深いリリースがあった。元I.O.Iでありソロとしてキャリアを積んでいるCHUNG HAが、2021年に1stフルアルバム『Querencia』をリリース。さらに、その収録曲である「Demente feat. Guaynaa」のスペイン語版を発表したのだ。プエルトリコのラッパー、Guaynaaをフィーチャーしたこの曲は、もともと韓国語とスペイン語のバイリンガルだった。一方、新たにリリースされたヴァージョンでは、CHUNG HAが韓国語で歌っていた箇所もふくめて全編がスペイン語になっている。

CHUNG HA X「Guaynaa ‘Demente (Spanish Ver.)」

 

 『Querencia』というスペイン語のタイトルから伺えるように、そもそもこのアルバム自体、ラテン・ポップのフレイヴァーがそこかしこに聴き取れる作品だ。“NOBLE”、“SAVAGE”、“UNKNOWN”、“PLEASURES”という4つのパートからなるうち、特に“NOBLE”と“UNKNOWN”にそれが顕著だ。「Bicycle」、「Masquerade」、「PLAY feat. Changmo」、「Demente feat. Guaynaa」等々……。もともとCHUNG HA自身ラテンに挑戦したいと考えていたそうだが、その挑戦をより深めて実現するにあたっては、本作の制作やディストリビューションに関わった88risingのSean Miyashiroの働きかけも大きいようだ(注2)。楽曲を聴けばその本気さはうかがえるが、それが単なる意匠にはとどまらないことを改めて示したのが「Demente」スペイン語版だ。
 K-POPとラテン・ポップ。2010年代にそれぞれが積み重ね、交差してきた歴史を思えば、2021年に届けられたクロスオーヴァーは何重にも興味深い。
 大局的な観点に立つならば、2010年代の非英語圏ポップカルチャーの隆盛という意味では、K-POPとラテン・ポップはある程度並行した歩みをたどってきた、とも言える。K-POPが北米市場で本格的に――つまりノヴェルティ的なヒットにとどまらない――存在感を示し始める2010年代後半には、Luis Fonsi「Despacito feat. Daddy Yankee」やJ Balvin & Willy William「Mi Gente」(どちらも2017年)といった特大ヒットが生まれている。また、Cardi BがBad BunnyとJ Balvinを客演に招き、ドミニカとトリニダード・トバゴ出身の両親を持つ自身のルーツを堂々とサウンドに反映させた「I Like It」(2018年)も重要な楽曲だ。さらにはスペインからROSALÍAやBad Gyalといったアクトが登場し、存在感を放っているのも興味深い。ラテン・ポップの隆盛は南北アメリカ大陸のみならず大西洋を越えてもいる(注3)。

Luis Fonsi「Despacito ft. Daddy Yankee」

 

Cardi B, Bad Bunny & J Balvin「I Like It」

 

 とはいえ、日本に住んでいると、K-POPの勢いはわかっても、ラテン・ポップの勢いというのは実感しづらいかもしれない。むしろ、ラテン・ポップ的なサウンドにはK-POPを通じて触れていることのほうが多い可能性すらある。
 レゲトンをはじめとした現代的なラテン・ポップのサウンドは、トレンドを貪欲に取り入れる変幻自在なK-POPでも、直接・間接問わずしばしば参照されてきた。特に、レゲトンの影響を受けたスローテンポなEDMのサブジャンルであるムーンバートンはK-POPでこれでもかと盛んに取り入れられてきた。人気パーティTodak Todak主宰のe_e_l_i_c_aがサイゾーウーマンの連載でムーンバートンを取り上げているが、列挙される楽曲を改めて眺めると「K-POPはどんだけムーンバートン好きなんだよ」と思わず漏らしてしまう(注4)。その代表選手に挙げられているK.A.R.D.は、1stミニアルバム「Hola Hola」の6曲中4曲がムーンバートンで、K-POP流のポップさがやや抑えめの渋い一作……「RUMOR」のずっしりと粘るようなビートが良い。アルバムタイトルからしてスペイン語だもんな。歌詞にスペイン語が頻出するわけではないけど(注5)。

K.A.R.D.「RUMOR」

 

 ムーンバートンそのものに限らずとも、その特徴的なリズムパターンが登場する曲は枚挙に暇がない(注6)。また、トラップとラテン・ポップがクロスオーヴァーしたラテン・トラップ的な楽曲も耳にする。EXO「Ooh La La La」(2018年)やBTS「Airplane pt.2」(2018年)など。特に後者はCamila Cabelloのラテン色濃厚なヒット「Havana feat. Young Thug」(2017年)のソングライターのひとり、Ali Tamposiが参加している。

BTS「Airplane pt.2」

 

 サウンドを参照するだけにとどまらず、早くからラテン・アメリカのマーケットと関わりを深めていたSUPER JUNIORは「Lo Siento feat. Leslie Grace, Play-N-Skillz」(2018年)でラテン系のルーツを持つアメリカ人シンガーLeslie GraceやプロデューサーユニットのPlay-N-Skillzとタッグを組み、韓国のアーティストとしては初の米Billboardのラテンチャート入りを果たしている。同じ時期、VAVもレゲトンのビートとスペイン語のラインをフィーチャーした「Senorita」(2018年)や、プエルト・リコのシンガーらとコラボした「Give me more (Un Poco Mas) (Feat. De La Ghetto & Play-N-Skillz)」(2019年)をリリースしている。ほかにも、BTSのメンバーであるJ-HOPEがソロ・ミックステープでアメリカのラテン・ポップアクトBecky Gとコラボレーションしていたり(「Chicken Noodle Soup feat. Becky G」2019年)、MONSTA XもコロンビアのシンガーであるSebastian Yatraとのコラボ楽曲をリリースしていたり(「Magnetic」2019年)。「Demente」に至るまでにも、ラテンとK-POPのクロスオーヴァーやコラボレーションは積み重なっていたわけだ。

 

なぜラテン・ポップなのか?

 こうしたコラボレーションが行われた背景にラテン・ポップの隆盛があることは、それが急増したタイミングを見れば間違いない。しかし、「流行ってたから」以上の必然性もある。ラテン・アメリカにおけるK-POP人気だ。よく指摘されてきたことだが、K-POPは韓国から遠く離れたラテン・アメリカにも大きなファンダムを持っていて、その活発さは他の地域にひけをとらない。
 2010年代の初頭には、既にラテン・アメリカ(特に南米)にはK-POPのファンダムがあり、韓国の音楽産業も積極的にアプローチをかけはじめていた。その最初期の例が2011年、Cube Entertainmentがサンパウロ(ブラジル)で開催した所属アイドル3組(BEAST、4minute、G.NA)によるコンサートだ。また、2011年から開催されているKBS主催によるミュージック・バンク(韓国の音楽番組)のワールドツアーでは、2012年にビニャ・デル・マール(チリ)で公演を行っている。以降、ミュージック・バンクは、2014年にリオ・デ・ジャネイロ(ブラジル)とメキシコシティ(メキシコ)、2018年にサンティアゴ(チリ)をまわっている。単独公演としては、2012年にJYJがはじめて南米大陸でコンサートを開催。2013年にはSUPER JUNIORがワールドツアー「Super Show 5」の一環としてサンパウロ(ブラジル)、ブエノスアイレス(アルゼンチン)、サンティアゴ(チリ)、リマ(ペルー)の南米4都市で公演を開催している。2014年にはSHINeeが世界ツアーの一環としてサンティアゴとブエノスアイレス、さらにメキシコシティに訪れた。また同年は、デビューしたばかりのBTSもファンミーティングツアーでサンパウロを訪れており、さらに翌年には世界ツアーでメキシコシティ、サンパウロ、サンティアゴといったラテン・アメリカの都市で公演を開催したりしている。MONSTA XやVAV、KARDもラテン・アメリカをツアーした経験がある。
 この時期、つまり2010年代前半は、PSYの「江南スタイル」のヒットでK-POPがにわかに世界的な注目を集めた頃だ。しかし、2012年頭にリリースされた「江南スタイル」が爆発的なヒットに至るのは2012年も後半に入ってから。「江南スタイル」のヒットがとりわけ北米市場に与えたインパクトは大きいのだけれども、その時点で既に遠くラテン・アメリカにK-POPは届いていた。そして、地球上で考えうる最大の物理的距離を越えてなお、そのファンダムにアプローチしてきたことが、現在につながっているのだ。
 スペイン語の歌詞やラテン・ポップの要素を取り入れることでリーチできるかもしれない、喜んでくれるかもしれないファンがいる。SUPER JUNIOR、MONSTA Xなどラテン・ポップとのクロスオーヴァーに積極的な姿勢を示してきたグループには、ラテン・アメリカでのツアーを重ねているものも多い(注7)。その意味では、ここでもまた、トレンドやマーケティングだけではない、ファンダムとの紐帯が大きな役割を果たしていると言えよう。
 ところで、2021年5月のこと、Mnetなどを所有するCJ ENMが米HBO MaxとメキシコのEndemol Shine Boomdogと提携して、南米でK-POPの男性アイドルグループを育成するオーディション番組を企画しているとの発表があった。既に中国や日本にも「輸出」され成功を収めているK-POPのオーディション&育成リアリティショーが、はるか遠くの南米でどのように展開するのか。期待をこめて注目していきたい。

 

注1:BTSはJason Derulo & Jawsh 685のヒット曲「Savage Love (Laxed – Siren Beat)」のリミックス・ヴァージョンにも参加し、Hot 100の首位を獲得している。これも含めるなら、BTSはこれまでに2曲、韓国語による歌唱を含む楽曲でHot 100の首位を獲得していることになる。

注2:以下の記事を参照されたい。CHUNG HAやSean Miyashiroらのコメントが興味深い。Chung Ha on Mixing K-Pop and Latin on Querencia | Billboard https://www.billboard.com/articles/columns/pop/9530695/chung-ha-querencia-k-pop-latin-demente-interview/

注3:そんなラテン・ポップの現状を掴むには天野龍太郎のこの記事が最適だろう。レゲトン/ラテン・トラップ、ラテン・ポップのいまを知るための10曲 | Mikiki https://mikiki.tokyo.jp/articles/-/25904
天野はまた別の場所でROSALÍAについて「汎ラテン」「こんなふうにヨーロッパと南米をつないでいるアーティストを、わたしはほかに知りません」と的を射た評を記している。非英語圏/非西洋の音楽のオールタイム・フェイバリット・アルバム30について その1|ryutaro amano|note https://note.com/ryutaroamano/n/n737e9149b1ea
さらに添えておくと、「ラテン・ポップ」というと紹介した記事のようにスペイン語圏のポップ・ミュージックを指すことが多い。しかし定義上、「ラテン・アメリカ」にはポルトガル語を使うブラジルも含まれる。というわけで、本記事のなかではブラジルの話も特に区別せずにしている。

注4:記事はこちら。ムーンバートンの成り立ちやK-POPでの実例が豊富に紹介されている。これでもまだ一部だけれども……。 BTS、NCT、PRODUCE48ほか……K-POPのメジャージャンル「Moombahton」を知る21曲(2020/03/03 19:00)|サイゾーウーマン https://www.cyzowoman.com/2020/03/post_272678_1.html

注5:これは完全に余談ながら、「ラテンの要素が感じられるK-POP」という趣旨のプレイリストをSpotifyでいくつか見つけたのでチェックしていたら、そのうちのひとつにBoAの「VALENTI」が入っていて膝を打った。「タイトなジーンズにねじこむ~」のあの名曲。たしかに(2010年代のそれとはサウンドの傾向もまったく違うとはいえ)ラテン・ポップのエッセンスをがっつり取り込んでいる。灯台下暗し……。 https://open.spotify.com/playlist/0arsvCz9z7SRKiTEIpdvQ6?si=e1156746ed644803

注6:ムーンバートンがレゲトンから受け継いだ特徴的なリズム、すなわち「ドッドッタ・ドッドッタ」という付点8分音符を使った跳ねるようなリズムは、トレシージョと呼ばれる。クラーベと同じくラテンに特徴的なリズムだ。ムーンバートン(やレゲトン)ではそこに4つ打ちのキックドラムがだいたい入るので、「ドッタドッタッ・ドッタドッタッ」みたいに聞こえる。

注7:管見の限りでは男性グループがラテン・アメリカにツアーしている割合が高いようなのだが、音楽的にはラテンと縁遠く、K-POPでは比較的珍しいロックサウンドを中心に据えている女性グループのDREAMCATCHERが2018年のツアーでラテン・アメリカの都市をまわっている。

 

参考文献

K-Pop, a musical genre that has conquered Latin America – LatinAmerican Post https://latinamericanpost.com/36129-k-pop-a-musical-genre-that-has-conquered-latin-america