第3回 ソングキャンプと北欧プロデューサー(前編) | かみのたね
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2021.08.25

第3回 ソングキャンプと北欧プロデューサー(前編)

K-POPからみるポップな世界 / imdkm

K-POPはいったい何が面白く、魅力的で、新しいのか?
ひとびとの心を掴んで離さないその「ポップ」の秘密を、批評家・imdkmさんが解き明かしていきます!
第3回目はK-POPのみならず現代の音楽シーンを語る上で欠かせないソングキャンプについて。

 Netflixより配信されている話題の音楽ドキュメンタリー、「This Is Pop: ポップスの進化」(注1)。全7エピソードにわたって、北米を中心として20世紀から現在に至るポップ・ミュージックの姿を切り取るシリーズだ。7エピソード全部面白い! ……とまでは正直思わないのだが、必見のエピソードはいくつかある。個人的にイチオシなのはシンガーのT-Painを主役に据えた「オートチューン」だが、本連載の趣旨に鑑みた場合、特に「ボーイズIIメン・ブーム」と「ストックホルム症候群」が興味深い。
 どちらも直接K-POPを扱っているわけではない。でも、たとえば現代的なボーイズグループの雛形としてのボーイズIIメンの功績を辿る前者は、本連載の第1回でも触れたボーイズグループが勢いをみせるK-POPを考える上で示唆に富むはず。また、北米中心のポップ・ミュージック市場におけるスウェーデン出身プロデューサーの重要性を当地のポップ・ミュージック史を振り返りつつまとめた「ストックホルム症候群」は、現代のグローバルなポップ・ミュージック制作の状況をうかがい知るよい機会になる。ポップ・ミュージックというコンテンツを比較的小規模な国が「輸出」するという点ではK-POPとアナロジーを結べるし、あるいはSMエンターテインメントなどの主要事務所がノルウェーやスウェーデンといったスカンディナヴィアのソングライターたちと継続的に関係を築いてきたことを考えれば、K-POPもこうしたグローバルなポップ・ミュージックの生態系にがっつり関わっているとも言える。

 

1曲に大人数が関わる、現代のポップ・ミュージック

 2017年、イギリスの業界紙Music Week(注2)がこんな記事を発表した。いわく、「ソングライティング:いまや二人以上いないとヒットをつくれない、その理由とは(Songwriting: Why it takes more than two to make a hit nowadays)」(注3)。同紙が自社のデータに基づいて2016年のトップ100ヒットを検討したところ、ソングライターとしてクレジットされていたのは平均で4.53人。13%の楽曲でじつに8人以上がクレジットされていたという。99 Soulsの「The Girl Is Mine feat. Destiny’s Child & Brandy」に至っては12人がクレジットされていて、「これだけいればクリケットチームをつくって、ドリンク係もつけられる」なんて皮肉混じりに解説している。この結果をもとに書かれたイギリスのBBCニュースによれば、その10年前、つまり2000年代なかばには、ヒットシングルのライターは平均3.52人で、ひとりで書かれた曲は14曲あったそうだ。

 

99 Souls「The Girl Is Mine feat. Destiny’s Child & Brandy」

 

 一曲をつくるのに4~5人、場合によっては10人近くが必要なんて、少し奇妙に思えるかもしれない。特に、おそらくこの文章を読んでいる方の多くがお住まいであろういまの日本では、状況は時代によってどんどん変化しているとはいえ、作詞・作曲をひとりで行うシンガー・ソングライターが一般的。分業といっても作詞と作曲をひとりずつ分担する程度にとどまる。そういう状況に慣れていると驚きは増す。
 ためしにビルボード・ジャパンによる2020年の年間Hot 100で同じようなデータをとってみると、1曲あたりにクレジットされているのは1.91人(オフィシャルサイトや場合によってはWikipediaを参考に、「作詞・作曲」の人数をカウント)。作詞・作曲のクレジットが1名の楽曲は64曲にのぼる。肌感覚で予想がついていたとはいえ、実際に数字にしてみると唸るものがある。Music Weekの調査結果は2016年のものなので、各国の2020年のチャートも調べてみよう。まず、米ビルボードが発表する年間のHot 100では平均4.21人がソングライターとしてクレジットされていて、ソングライターのクレジットがひとりだけの楽曲はたったの1曲だけ。イギリスは平均4.33人がクレジットされ、ひとりしかクレジットされていない楽曲は4曲に留まる。もっとも、日本では「編曲」の範疇に含まれそうなコードワークやビートメイクも大きい括りでソングライターの仕事に含まれる場合があるため、単純に比較はできないのだけれども(注4)。
 じゃあ韓国はどうなってるんだろうか。K-POPの楽曲クレジットを見ていると、やはりその人数の多さが印象に残る。ガオンチャート(注5)が発表するデジタルチャートを元に算出すると、一曲あたりにクレジットされているのは平均で3.24人となる(音楽配信サービスのMelonで「作詞・作曲」とクレジットされている人数をカウント)。100曲中、1人で作詞・作曲されたのは25曲だ。英米ほどでもないが、日本ともまた違うバランスだ。いわゆるK-POPのアイドルグループの楽曲には多くの人が関わる傾向があり、チャートで存在感を示すドラマなどのOST楽曲は作詞家と作曲家がひとりずつ担当するか、もしくはひとりのソングライターが詞・曲共に書き下ろす、というケースが多い。また、ソングライターが複数関わっていることの多い韓国国外のアーティストの楽曲が複数曲ランクインしていることも要因のひとつだろう。

コライティング、ソングキャンプ

 しかし、いったいなんでこんな状況になっているんだろうか。その大きな要因のひとつが、何人かで集まってセッション的に作詞・作曲を行うコライティングや、たくさんのソングライターを一箇所に集めて合宿のように曲を書くソングキャンプ(ライティングキャンプ、ともいう)といった手法の普及だ。2010年代の(北米を中心とした)ポップ・ミュージックは、多くのソングライターに共作/競作させて楽曲を量産する体制によって生み出されてきた。ソングキャンプはレーベルやマネジメントが主導することもあるが、Rihannaのような大物ポップアクトはソングライターを集めて自身の制作のためのソングキャンプを行ったりもする(注6)。
 このソングキャンプ、日本では比較的馴染みがうすいかもしれないが、K-POPのリスナーならよく耳にしてきたのではないだろうか。たとえばSMエンターテインメントは2000年代に多くのソングキャンプに足を運んでその機会を活用してきたうえで、2000年代の終盤からは自らソングキャンプを開催し、プロデュースに活かしてきた(注7)。欧米の例にもれず、ソングキャンプは単に楽曲をたくさん制作できるだけではなく、事務所とソングライター、あるいはソングライター同士の関係性を築く場としても機能してきた。SMエンタとノルウェーのDsign MusicやスウェーデンのThe Kennelといった北欧の出版社の深い関係を構築した要因のひとつには、継続的に開催されるソングキャンプの存在がある。
 ちなみに、ソングキャンプの発祥はしばしば90年代の北欧とされる。しかし、その先駆と言える例が1992年にひとつある。IRSレコーズの創業者であり、かつてThe Policeのマネージャーをつとめ、Stingのソロキャリアもサポートしたマイルス・コープランドが開催したものだ。彼はフランス南西部のグラン・ブラサックにある古城を購入し、そこに24人のソングライターやアーティストたちを呼び寄せた。1週間の滞在中、寝食を提供するかわりに、一日一曲つくってもらうという条件付きだ(注8)。この催し自体は“retreat”と呼ばれることもあって、現在のようなポップの量産体制を支えるキャンプよりももっとゆるやかなものだったようだ(注9)。いずれにせよ、ソングライターを集めて(あるいは集って)共同制作を行う試みの早い例だ。こうしたキャンプ=リトリートは教育的な目的を含みつつ、90年代にしばしば行われていたようだ。
 2000年前後には、ここに北欧のソングライターたちが関わってくる。気鋭のプロデューサー、デニス・ポップが率いた90年代のスウェーデンを代表するスタジオ、シェイロンは、Backstreet Boysや’N Sync、Britney Spearsといったボーイズグループやシンガーの楽曲を次々と世界的ヒットに導き、アメリカのポップスに新風を吹き込んだ。そして、シェイロンの衝撃を経た1990年代末から2000年代初頭にかけては、アメリカとスウェーデンの間でソングライターやA&Rといった業界人の交流が深まり、コライティングのセッションやソングキャンプが両国をまたいで盛んに行われるようになった(注10)。現在のK-POPの主要な事務所がソングキャンプを通じてソングライターとのコネクションを広げていったのと同じようなことが、2000年前後のアメリカ‐スウェーデンで起こっていたわけだ。そしてこの頃には、ヒット曲の量産を目指すソングキャンプのかたちが固まっていたと思われる。
 それでは、ソングキャンプの現場では実際に何が起こっているのか。そんな疑問に、生き生きとした、あるいは生々しい証言をしてくれる興味深い資料としては、ロックバンド・Dirty Projectorsのメンバーとして知られるDave Longstrethをキーパーソンに据えたVulture誌の記事「組立ライン(The Assembly Line)」(注11)や、売れっ子プロデューサー・チーム・Stargateが主役のひとりとなるThe New Yorker誌のコラム「歌の機械 リアーナを支えるヒットメイカーたち(The Song Machine; The hitmakers behind Rihanna)」(注12)などがある。どちらもやや長尺の記事ではあるけれども、ソングキャンプの功罪――ここでしかありえないクリエイティヴな化学反応と、そこにつきまとう産業の構造的な歪さ――がアーティストたちの姿と共に綴られている。急速にうつりかわっていくトレンドに適応し、コンスタントにヒットを飛ばすためには、なによりも制作のスピードと質を両立させる必要がある。そうしたビジネス上の要請がもたらした非人間的にも思えるプロセスは、一方で着実に成果を出し、また参加者にある種のクリエイティヴな刺激を与えてもきた。
 前述のふたつの記事はどちらも欧米のマーケットを前提としたものだが、2017年の韓国中央日報がK-POPのプロダクションについて特集した記事(注13)では、JYPやSMエンタの事例が詳しく紹介されている。やや古いが内容は興味深い。JYPはソングキャンプという機会を活用しつつも、専属のソングライターを揃えてチームを組む方式も重視する。SMエンタはソングキャンプを通じて培ったソングライターのネットワークとその機動力が強みと論じられている。個人的には、f(x)「4walls」をはじめ数多くの名曲に関わってきたLDN Noiseが取材に答え、SMエンタと仕事をしだしたきっかけは2014年にスウェーデンで開催されたソングキャンプだった、と語っているのが印象的だった。それまではK-POPに疎かった彼らをK-POPに導いたのがソングキャンプだったのだから、ファンとしては頭が上がらない。

 

f(x)「4walls」

 

 ただ、コライティングやソングキャンプをK-POPや欧米のポップミュージックだけとがちがちに結びつけるのもややミスリーディングかもしれない。田中絵里菜は著書『K-POPはなぜ世界を熱くするのか』(2021年、朝日出版社)のなかで、韓国現地の音楽プロデューサーへの取材に基づいて、「もともとは日本の音楽業界で取り入れられていたシステム」だったという証言をひいている(pp.176-177)。実際2000年代のJ-POPには(ソングキャンプの成果かは不明だが)欧米を拠点とするソングライターによるコライティングの事例が見られる。たとえば2000年代なかば以降のジャニーズ事務所所属グループのディスコグラフィをたどると、嵐、NEWS、KAT-TUN、Hey! Say! JUMP等々の楽曲に例がある。とはいえ、前節で見たように、いまの日本のマーケットにおいてチャートを賑わせている楽曲の多くがひとりのソングライターによるものであることは確かだ(注14)。
 そもそも、コライティングであれソングキャンプであれ、あくまで楽曲をつくるためのひとつの方法に過ぎない。重要なのは、第一に、アーティスト(アイドル)にどのような楽曲が必要かを判断するためのヴィジョンであり、総合的なパフォーマンスへと落とし込んでゆくプロセスだ。加えて、何度か言及したように、「曲をつくる」ばかりがコライティングやソングキャンプの目的とは限らない。信頼に足るソングライターとのコネクション、ネットワークをつくることもまた重要な目的でもある。制作体制としてのソングキャンプそのものよりも、その周辺にこそ、示唆に富むものが散らばっているようにも思う。(この項続く)


注1:
https://www.netflix.com/jp/title/81050786

注2:Music Weekはイギリスの音楽業界紙で、アメリカにおけるビルボードのようなもの。各種チャートを集計・発表している。

注3:https://www.musicweek.com/publishing/read/songwriting-why-it-takes-more-than-two-to-make-a-hit-nowadays/068478

注4:もうひとつ、ここ数年はストリーミングの普及に伴って視聴傾向が変化し、同一アーティストの楽曲が複数ランクインすることが常態化していることも重要だ。Official髭男dismは実に11曲をHot 100に送り込んでいるが、ヒゲダンはどの曲も作詞・作曲は藤原聡ひとりがクレジットされている。同じくあいみょん、Mrs. GREEN APPLE、King Gnu、米津玄師、YOASOBI……といった人気アーティストの曲は、どれも基本的にひとりのソングライターしかクレジットされていない。もっとも、「自作自演するシンガーやバンドに人気が集中している」ということ自体が、日本のマーケットで求められる音楽像を映し出しているとも考えられる。それは産業の体制のみならず、メディアのあり方やリスナーの嗜好とも密接に関連するだろう。

注5:ガオンチャートは2009年に発足した韓国の音楽チャートで、ストリーミングやダウンロードなどの再生数に基づく楽曲単位のデジタルチャートや、フィジカルのセールスを記録するアルバムチャートなどを発表している。また、データに基づいてガオンチャートミュージックアワードも開催。私企業が運営するアメリカのビルボードや日本のオリコンとは異なり、社団法人である韓国音楽コンテンツ産業協会が運営する「公認」チャートという位置づけだ。

注6:2016年の『Anti』以来、なかなか新作が発表されずファンをやきもきさせているRihanna。AP通信による2020年のインタビューでは、大量のソングキャンプを開催して制作中だと語っている。https://apnews.com/article/entertainment-music-us-news-hip-hop-and-rap-featured-023596089010710d064fa60b376adc36

注7:Biz.Hankookの2017年の記事(https://www.bizhankook.com/bk/article/12908)を参照。SMエンタがいかにしてソングキャンプを取り入れ、活用してきたかが紹介されている。

注8:https://www.judystakee.com/blog/2016/4/20/songwriting-camps

注9:https://www.idocoach.com/blog/2017/2/16/25th-anniversary-the-original-songwriters-retreat

注10:このあたりの事情は、米ビルボード誌2002年1月12日号に掲載(p.1及びpp.96-97)の「アメリカと協力してヒットをつくるスウェーデン人たち(Swedes Team With U.S. For Hits)」という記事に詳しい。

注11:https://www.vulture.com/2018/08/the-songwriting-camps-where-pops-biggest-hits-get-crafted.html

注12:https://www.newyorker.com/magazine/2012/03/26/the-song-machine

注13:https://koreajoongangdaily.joins.com/news/article/article.aspx?aid=3033233

注14:こうした現場の事情は、伊藤涼・山口哲一著『最先端の作曲法 コーライティングの教科書~役割シェア型の曲作りが、化学反応を起こす!』(リットーミュージック、2015年)でかなり率直に語られていて面白い。