第4回 ソングキャンプと北欧プロデューサー(後編) | かみのたね
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2021.09.22

第4回 ソングキャンプと北欧プロデューサー(後編)

K-POPからみるポップな世界 / imdkm

K-POPはいったい何が面白く、魅力的で、新しいのか?
ひとびとの心を掴んで離さないその「ポップ」の秘密を、批評家・imdkmさんが解き明かしていきます!
第4回目は前回紹介したソングキャンプの意義をさらに考えていきます。

 

メロディを求めるK-POP

 前回の結びで指摘したように、コライティングやソングキャンプはあくまで制作の方法であって、そこでうまれる音楽の性格をまるごと規定するものではないし、楽曲そのものだけがその成果物とは限らない。ソングライターたちも、クライアントがどのような楽曲を求めているのか、そのニーズを想定したうえでセッションに取り組むことになる。
 その点で興味深いのは、アメリカの音楽権利管理団体のひとつ、BMIが2016年にウェブサイトで公開した「J-POPやK-POPのマーケットに向けて曲を書き、売り込む方法(How to Write and Pitch Songs for the J-Pop and K-Pop Markets)」という記事だ(注1)。
 そのなかで、アーキペラゴ・エンターテインメント所属のソングライター兼プロデューサーのロス・ララは「K-POPとJ-POPに共通するテーマ」として「爆発的なコーラス(サビ)」を挙げている。いわく、アメリカのヒットは(少なくとも当時)シンプルになってきていて、最初のコーラスに入っても新しい要素が加わらないことがあるという。一方で、K-POP(とJ-POP)は音響的にもメロディ的にもアゲるものだ……と。
 「シンプルさ」の具体的な例を補うならば、Pharrell Williamsの2014年のヒット「Happy」あたりがいいかもしれない。キャッチーで多幸感のあるサウンドながら、展開はとてもシンプルで抑制が効いており、楽曲を象徴するようなインパクトのあるメロディがコーラスに含まれているわけではない。日本でも息長く聴かれたEd Sheeranの「Shape of You」(2017年)も展開は地味で、フックに富むわけではない(もっとも、Ed Sheeranはイギリスのアーティストだが)。
 同様に、ヴィンス・ディジョージオは「アジアのマーケットにうってつけの曲にするために必要なのは、メロディに注意することであり、アーティスティックな精緻さでもってメロディにハマる歌詞であり、そして楽曲構成に埋め込まれた真にポップなメンタリティだ」という。つまりサビで盛り上がる展開のドラマチックさと、メロディの重要性が説かれている。
 こうしたドラマチックな展開とメロディが楽曲にもたらすものはなんだろうか。端的に言えば、リスナーを楽曲の世界に惹きつけて没入させる効果と、そしてシンガーのスキルを示すためのチャレンジを生み出す効果に尽きるのではないかと思う。
 Rolling Stone誌の2018年の記事「アメリカのR&BソングライターたちがK-POPに新しいホームを見つけるまで(How American R&B Songwriters Found a New Home in K-Pop)」で指摘されているのはそういうポイントだ(注2)。ヒップホップのメインストリーム化に伴ってミニマルな方向へ進んでいくアメリカのポップ・ミュージックに対して、K-POPは2000年代初頭までのメインストリームなR&Bが持っていた作曲術――すなわち充実したコードチェンジ、和声的な豊かさに、シンガーが声域やアドリブの力量を存分に披露できるブリッジ――を大事にしている、とか。
 たしかに、たとえば2020年の特大ヒットであるCardi B「WAP feat. Megan Thee Stallion」なんかを聴くと、このミニマリズムの極地みたいな曲が巷を席巻していることに改めて驚く。BTS「Dynamite」が同じ年のヒットだというのが不思議に思えてくるほどに。とはいえもちろんのこと、どちらが優れているかなんていう話ではまったくない(それに、「WAP」が「ポップ」なのかには議論の余地があるかもしれない。個人的には、ヒップホップであり、かつポップと呼ぶにふさわしいと思うが)。

 

Cardi B「WAP feat. Megan Thee Stallion」

 

 以上はアメリカのR&B的なソングライティングの系譜を前提とした話だが、「This Is Pop: ポップスの進化」の「ストックホルム症候群」のなかで、スウェーデンのソングライターたちの強みについて、そのメロディセンスの重要性が指摘されていたことをふまえると、また違った見方もできるかもしれない。
 前回も言及をした「The Song Machine」のなかでも、Stargate(ミッケル・ストリアー・エリクセンとトール・エリック・ヘルマンセンによるノルウェー出身の2人組プロデュース・チーム)へのインタビューをもとに、2012年時点でこんなことを述懐している。


 エリクセンによれば、「私たちはここ[アメリカ]でビート主導の音楽に適応しないといけないんだと思っていたんですが、蓋を開けてみると、私たちのもっとコーラス的でメロディックな音楽にこそ、みんなが引き寄せられていたんです」。ヘルマンセンも私にこう語ってくれた。「アメリカにはじめて来た頃は、この国のポップミュージックは直線的でミニマリスティックなもので、コードチェンジはほとんどないしサビで大きく盛り上がることもありませんでした。でもいまラジオを聞いてみると、[流れている楽曲には]大きなブレイクダウンやビルドアップがあって、インストのパートもあって、よりアップテンポになっています」。こうした状況を生み出したのは、少なからずStargateのおかげだ。ヨーロッパのリミキサーが持つ感性をヒップホップのざくざくとしたビートに持ち込むことによって、彼らは新たな種類のアーバン・ポップをつくりだしたのだ。(注3)


 ヒップホップの美学を受け継いだクールでミニマル志向のポップ・ミュージックと、ドラマティックなメロディや展開を得意とするヨーロッパ的なポップ・ミュージックの折衷。北欧のソングライターたちの仕事はそのように形容できるだろう。劇的でキャッチーなメロディを求めるK-POPが、こうした北欧の折衷感覚と相性がよかったのはうなずける話だ。

 

大人数グループがつくりだすユニークな構成

 もうひとつ、メロディと構成がK-POPにおいて重視される理由が考えられる。K-POPにおいては多人数グループが標準的で、各人のパフォーマンス的な見せ場をつくりながらキャッチーな楽曲を仕上げなければならない、というきわめて具体的な要請があるのだ。その場合、求められるのは単にメロディアスでドラマチックな構成だけではない。ときにはきわめて奇妙で異様でさえある、大胆な構成がとられることになる。
 2014年、ノルウェーのDsign Musicのアンネ・ジュディス・ウィックがインタビューに答えたところでは、「K-POPは独特なアイデンティティを持っている。平均5人以上のボーイズバンドと少女時代のような9人の少女たちのための曲を作らなければならない。このようにメンバーが多いことが理由で、メンバー全員を引き立たせる部分を念頭において作業しなければならない。そのため、特定のメロディーに集中しないので、とても複雑な構成の曲が作られる」と語っている(注4)。複雑な構成の曲――まさしくDsign Musicが手掛けた少女時代「I Got A Boy」のような。

 

少女時代「I Got A Boy」

 

 「I Got A Boy」は歌割りやハーモニーやリズムといった要素にとどまらず、ジャンル自体がひとつの楽曲のなかで変化していくようなカオティックな曲だ。前掲のインタビューで語られているところによると、もともと3つのパートでできていたデモをSMエンタの要望でさらにパートを増やして完成させたのだという。やはり、総合的なプロデュースをする側がいかに明確なヴィジョンを持っているかが重要なことがわかる。
 以上の発言は2014年と少し古いものだが、2010年代後半には大人数グループがコンスタントにデビューしたこともあって、同様の傾向はいまも「K-POP的な楽曲づくり」のひとつのラインとなっているだろう。「I Got A Boy」のようにビートスイッチを多用して曲のテンポごとがらっと変わるものはさすがにそう多くないが、最近の例でいえば、90年代のヒップホップやR&Bの記憶が走馬灯のようにめぐりカットアップされたかのようなNCT U「90’s Love」には、「I Got A Boy」にも通じるような、K-POP的グループアイドルの精神の片鱗を改めて感じたものだ。

 

NCT U「90’s Love」

 

 逆に楽曲をシンプルにしていく要因があるとすれば、(マス)メディアとの相性が挙げられる。ラジオでのエアプレイが重要性を持つマーケットでは、キャッチーなフックのあるシンプルな構成のほうが受け入れられやすい。
 話題曲の制作過程を紹介するGeniusの人気動画シリーズ「Deconstructed」でRed Velvetの「레드벨벳(Bad Boy)」(2017年)が取り上げられた際に、アメリカのプロデュースチームThe Stereotypesのメンバーであるジェレミー・リーヴスは「この曲をアメリカのラジオで耳にすることは難しいでしょう」と語り、その理由として「音楽的で、展開が多い」ことを挙げている(注5)。「音楽的(musical)」というのはハーモニーやメロディといった要素の強さといったニュアンスだと思うけれども、ラジオを意識するならばあえてそうした要素を削ぎ落とすことも必要なわけだ。
 BLACKPINKの『THE ALBUM』(2020年)を聴いたとき、特に「Lovesick Girls」や「Ice Cream」あたりに「これってアメリカのラジオを意識しているのかな」と感じたものだ。メロディラインのクセのなさ(ブルピンってメロのエグみが面白いポイントだと思うので……)もさることながら、構成のシンプルさにそんな印象を覚えたのだ。アルバム全体として曲尺をぐっとタイトにまとめているのも重要で、BTSのここ最近のヒットが曲尺を絞りに絞っているのを想起させる。こうした傾向と対策をざっくり「グローバルな」と片付けたい気持ちにもなるが、やはりここは「北米へのローカライズ」としておこう。
 話がやや前のめりになってしまった。閑話休題。
 前回から、コライティングやソングキャンプ、そしてそこで活躍する北欧のソングライターを出発点に書いてきたが、結局言いたいのは、そうした楽曲制作の仕組みだけが楽曲の特徴を決めるものではない、ということだ。むしろ、リスナーの嗜好、想定するマーケットの特性、メディアとの相性、そしてなによりプロデュースする側のヴィジョンといった複合的な要因が、K-POP的なるものをかたちづくっている。強いて言えば、コライティングやソングキャンプは、そうした複合的な要因がおりなすポップの生態系に適応するための場なのだ。

 

注1 How to Write and Pitch Songs for the J-Pop and K-Pop Markets | MusicWorld | BMI.com https://www.bmi.com/news/entry/how_to_write_and_pitch_songs_for_the_j_pop_and_k_pop_markets 引用は拙訳による。
注2 How American R&B Songwriters Found a New Home in K-Pop – Rolling Stone https://www.rollingstone.com/music/music-news/how-american-rb-songwriters-found-a-new-home-in-k-pop-627643/
注3 The Song Machine; The hitmakers behind Rihanna https://www.newyorker.com/magazine/2012/03/26/the-song-machine 引用は拙訳による。ついでに、Stargateがアメリカに進出してきた頃の当地でのヒットソングをみてみると、たとえばAlicia Keys「Fallin’」(2001年)、Aaliyah「Rock The Boat」(2001年)など、ヒップホップに加えて、90年代に花開いたヒップホップR&Bの流れをくむ楽曲にも、抑制された展開が印象的なサウンドがたくさん聴かれる。
注4 【彼らが見たK-POP】Dsign Music作曲家「SMの要求、無視して作業することもある」― Vol.1 – Kstyle https://news.kstyle.com/article.ksn?articleNo=2005465
注5 The Making Of Red Velvet 레드벨벳 “Bad Boy” With The Stereotypes | Deconstructed – YouTube https://www.youtube.com/watch?v=HR3DcUMLeN0 引用は拙訳による。