『新しい主人公の作り方 アーキタイプとシンボルで生み出す脚本術』 | かみのたね
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2021.10.25

『新しい主人公の作り方 アーキタイプとシンボルで生み出す脚本術』

ためし読み / キム・ハドソン

まえがき

 

ヴァージンの成長物語について考えるうちに、私自身もまた、ヴァージンの物語をたどっていることに気がつきました。主婦としての暮らしは快適で恵まれていましたが、家事に追われ、ストーリーテリングへの興味から目をそらしていたのです。そんなある日、ある広告が目にとまりました。映画学校の映画・テレビ脚本家養成講座です。脚本なら気軽に書けるかも。だってセリフを書けばいいんでしょう――こんなふうに私は無知でしたが、「簡単そうだ」という思い込みのおかげでこの世界に飛び込めました。

授業の初日はドキドキしましたが、クラスに溶け込んで最後までやり抜く心構えはありました。私のモットーは「頭を垂れろ、謙虚に学べ」。申し込みの手続きに苦労して、ようやく手に入れた機会です。期間はたった数ヶ月でしたが、ずっとこんな環境に身を置けたらいいなというのが、私の密かな本音でした。初登校の日の服装は、色褪せたジーンズとロマンチックなフリル付きの白いブラウス。少しでもアーティストっぽく、若く見せようという魂胆です。遠目に見れば、私が40歳過ぎだなんてばれなかったはず。でも周囲を見渡すと、学生たちは本当に若い! やがて女性講師がマリオン・ウィリアムソンの詩を朗読し、レクチャーを始めました。そして私たち学生に「きれいになって才能を発揮して、有名になろうとしている私は誰、と自分に質問してみましょう」とおっしゃいました。先生の言葉はまっすぐ私に向けられている気がしました。

受講生はランダムに指名され、自己紹介することになりました。私は目を伏せてうつむき、「頭を垂れろ、謙虚に学べ」と心の中で唱えていましたが、先生は通路を進んで私の目の前に。「あなたの番よ」。ヴァージンの物語で言えば、まさに「輝くチャンス」です。

私は立ち上がると、ついこんなことを口走ってしまいました。「40歳の誕生日にふと思ったんです。今、もし何もしようとしなかったら、こんな人生で終わるんだって」。言い終えて腰を下ろし、しまった、と思いました。せっかく若いふりをしていたのに、白いブラウスが台無しです。

講座の中ごろで心理学者の先生が加わり、神話学者のジョーゼフ・キャンベルや心理学者のカール・ユング、ハリウッドのストーリーエディターであるクリストファー・ボグラー、そして「ヒーローの旅」についてお話がありました。おもしろい、と私は思いました。おもしろいといっても軽い意味ではありません。神話や心理学のコンセプトは、真実だと納得できるものばかりだったのです。アーキタイプは時代を超えて人類全体に共通し、伝えられているということ。アーキタイプには男性的なものと女性的なものがあり、人生の3つのステージ(若年期、中年期、老年期)のどこかを象徴すること。それぞれにシャドウのサイド、つまり影の側面を表すアーキタイプがあり、合計12のアーキタイプが存在すること。こうしたレクチャーを聞いた後、私たち300人の受講生は自由にブレーンストームし、ユングが言うところの「集合的無意識」からいろいろなアーキタイプを探し出すことになりました。

まずは、男性的/若年期のアーキタイプに名前をつけることから。「ヒーローがいい」と言う声が多数出ました。ヒーローの影は「臆病者」。男性的なパワーの絶頂である中年期のアーキタイプには「父」「王」「神」といったアイデアが飛び交いました。なんとなく美術の授業で聞いたような言葉です。影を名づけるのは難しく、結局「暴君」という案に落ち着きました。老年期のアーキタイプは「メンター」「賢者」「魔術師」など。影の呼び名が「好色漢」、助平ジジイというのには笑いました。

次に、みんなで女性的なアーキタイプを考えましたが、難航しました。先生は若年期のアーキタイプは「プリンセス/ヴァージン」だと説明して下さいました。ヴァージンと言えば処女。性的な事柄に関連するのが興味深いです。影は「娼婦」で、こちらもセックスと関わりがあります。

「女性の中年期は?」と言われて、受講生たちは次々に「母」「女王」「女神」と声を上げました。その影には「邪悪な継母」や「意地悪な女王」という提案が出ましたが、どうも違う気がします。光のアーキタイプが単に悪い性格になっただけ、と思えなくもありません。そんなことを考えているうち、「女王」は「王」の反対ではなく、王の女性版なんだと気づきました。では、私だったら中年期の女性アーキタイプは「母/女神」としたいです。男性アーキタイプは「愛人/王」。よし、これでいこう。私は楽しくなり、心の中で笑顔になりました。授業でたった三時間ほど過ごしただけなのに、もう私はキャンベル氏やボグラー氏のように思索にふけっていたのです。たぶん、これが大事なことなんだと私は思いました。これは決して難しいことではなく、誰にでもできること。自分にぴったりくるイメージや言葉を探し、自分なりのアーキタイプを見つけていけばよいのです。

先生が「では老年期の女性に移りましょう。肯定的なイメージは?」とおっしゃると、教室は静かになりました。ここは、みんなより年上の私が発言すべきでしょう。私はゆっくりと手を上げました。

「『老婆』はどうですか?」

老婆だとネガティブな感じがすると、複数の人たちから意見が出ました。しかし、老婆は周囲を困らせつつ、結局は人の役に立つことをしますから、光のアーキタイプでいいだろうということになりました。

また「賢い老婦人(オールド・ワイズ・ウーマン)」や「妖精」といった候補も加わりました。その影は「魔女」。これには多くの人たちが同意しました。私はノートに書きながら、釈然としない思いもありました。きっと、魔女は自分を影だとは思っていないでしょう。偏見のない、普遍的な見方が必要です。

小休止して、出来上がった表を見てみました。みんなの無意識に眠っていたものを、ブレーンストームで引き出して集めた結果です。先生によると、ヒーローはアクションをくり返して成長し、その過程はマップのように図式化されているそうです。平凡な世界に住むヒーローは、ある日冒険への誘いを受ける。危険を感じて一度は誘いの拒絶をするが、第一関門を越えて旅に出る。慣れない土地で生きていけるかが試される。目的を共にする仲間に出会い、敵の情報を入手する。そして、ヒーローと仲間たちは敵の牙城に切り込む準備をし、成功の確率を高めます。危機に直面し、命からがら脱出。再出撃に役立つ報酬を得て帰路につき、最終決戦で敵と対決します。敵を倒したヒーローは命を落とすこともありますが、宝を持って帰還して、村の平和が守られます。

ジョーゼフ・キャンベルは、歴史上のどの文化で作られたストーリーも「英雄の旅」あるいは「ヒーローズ・ジャーニー」などと呼ばれる神話のパターンに当てはまると論じました。ヒーローは若年期の男性アーキタイプだが女性にも当てはまる、と授業で紹介されました。

ちょっと待って――私は頭を垂れていられなくなり、声を上げました。「さっき、女性のアーキタイプはヒーローと分けて考えましたよね。それはどうなるのですか?」。ヒーローの旅があるなら女性アーキタイプの旅もあるはずだ、と私は考えたのです。

心理学者の先生の答えはこうでした。「まあ、女性アーキタイプは受動的で内向的だとされていますからね。小説として描くにはいいですが、映画向きではありません。映画ではアクションを描くことが必要だから」。

私は納得できませんでした。この疑問について何週間も考えながら、私は通学を続けました。昼は映画学校の学生、夜は主婦。行ったり来たりの二重生活です。

バスの中で、先生のオフィスで、また家で一人になった時、なぜだか突然涙があふれるようになりました。ある日、先生は「スランプから脱出しようとは考えず、ひたすら頑張るために頑張る人たちがいる。でも本人たちは一生懸命なんだ。びっくりするね」と言いました。先生は私が書いた脚本の登場人物についてコメントを下さっていたのですが、私自身のことを言い当てていました。主婦だからと言い訳せず、ちゃんと勉強に力を入れるべきだと思いました。

ヴァージンにも、成長と行動のパターンがあるのではないか―通学のバスに揺られながら、私は考え続けました。「これはヒーローの旅に当てはまらないかも」と思う映画をたくさん見ました。やがて、それらの映画に共通のビートがあることがわかってきました。ヴァージンは依存の世界で暮らしています。その世界は王国のようであり、未来も変わらずに存続しようとしています。ヴァージンはその王国にふさわしい役割を期待されていますが、本人の夢と合いません。ヴァージンは王国に服従していますが、小さなチャンスが訪れ、夢の世界をこっそり味わいます。衣装を着ることで自分の夢に気づき、秘密の世界を作って行き来し始めます。夢の世界にますます魅せられたヴァージンは、依存の世界で適応不能になって秘密の発覚に至ります。危機に直面したヴァージンは自分を縛っていた枷を手放し、王国の混乱を引き起こします。ヴァージンは荒野をさまよい、夢に向かって進むかどうか悩みます。そして光の選択! 王国は反発しながら秩序の再構築をしてヴァージンを迎え入れ、よりよい世界に変わります。

自分を信じて、今の状態から脱出しよう―私はそう決心し、神話や伝説、聖書や経典、神話学のセオリーや人類学の勉強を始めました。スイスにあるユング研究所の講座を受け、映画脚本術の本も読みました。元型についてのユングの著書、神話やおとぎ話も読みました。ヴァージンがテーマだと思うヒット映画を見て分析もしました。

育児や母の看病、離婚と、私生活でいろいろありましたが、私は自分のセオリーを書き直し、編集し、発表し続けました。アーキタイプの世界を信じていたし、またアーキタイプも私にひらめきを与え、知恵を授け、生きる情熱を与えてくれました。

アーキタイプはとても豊かで魅力的です。万物に当てはめることができ、深い意味を考えさせてくれます。この本には、芸術や創造、性や心の問題など、女性的なテーマを物語で描くための技術が書かれています。本書があなたにヒントを与え、物語を紡ぐお役に立てたら、これ以上の幸せはありません。

(ぜひ本編も併せてお楽しみ下さい)
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新しい主人公の作り方
アーキタイプとシンボルで生み出す脚本術

キム・ハドソン=著|シカ・マッケンジー=訳

発売日:2013年03月26日

A5判│288頁│定価 2,300円+税│ISBN 978-4-8459-1303-9


プロフィール
キム・ハドソン

カナダ・ユーコン準州で育つ。野外地質学者として活動を始め、後に自治領土協定の交渉員となる。二女の育児体験から女性の心理や成長過程に興味を抱き、バンクーバー・フィルム・スクールで映画脚本術、神話学、女性学、またスイスの国際分析心理研究所でユング心理学を学ぶ。映画や音楽、テレビ番組、広告に見られるアーキタイプ(元型)や人間成長の過程を考察。ヴァージンのセオリーを用いて脚本や小説執筆のコンサルティングやセミナーを行なっている。『The Virgin’s Promise』は初の著書。現在、女性的なアーキタイプ理論をクリエイティヴな生き方全般に応用するための続編を執筆中。

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