シンプルで楽しいイラストと、想像力をくすぐられるセンテンスで、本質をわかりやすく学べる〈101のアイデア〉シリーズ。2021年10月26日に刊行された『都市デザイン 101のアイデア』は、都市デザインの世界に飛び込む最適で最高の入門書となっています。今回はその中から、まえがき全文を公開します。中面と併せてぜひご一読ください。
まえがき
都市デザインの学生は、日々、矛盾を抱えています。まだデザインの経験がほとんどなく、都市計画の理解も浅い段階で、デザイン実習で都市や町の重要な部分のデザインを任されるからです。学生は目標を達成するための指導を最小限しか受けずに、実地で学ばなければなりません。こうした取り組みは必要でしょうし、指導者である私たちもこれよりよい方法があるとはいえません。ただ、この方法によると学生は反対方向に同時に行動を起こさなければなりません。プロジェクトを完成させるには未来を目指し、プロジェクトを首尾よく完成させるのに必要な理解を得るには過去を振り返らなければならないのです。
学生はどうやってこの矛盾に対処するのでしょうか? デザインについて何も知らない段階で、どのようにデザインするのでしょうか? 理解か行動か、一体どこから始めればいいのでしょうか? 学生が非常に広い範囲を学ばなければならないとき、頼りになる具体的な方策はあるのでしょうか?
答えは教科書や正式な授業計画の中には見つかりそうにありませんが、デザイン実習の中にあります。たいてい、指導者は学生との対話で説明を補ったり、何気なく意見を述べたりして、学生をリラックスさせたり、軌道修正したり、勇気づけたり、激励したりすることで、答えを示すのです。それでも、指導者はこのような補足的な指導が本筋から逸れると授業計画に戻ることになります。表向きは授業計画による指導が「本当の」教えだからです。しかし、私たちはそうした補足的な教えの方が本当の教えである場合が多いと信じています。そこで、そのような教えから101のアイデアを選んで、本書にまとめました。本書の執筆は難しくて気が遠くなるように感じると同時に、自由に好きなことができると思える作業でした。都市計画という人類最大の物理的な事業をこの小さな本に収めるのはほとんど不可能なことでしたが、私たちの本当の目的は都市デザイン実習というものの難しさを学生たちとともに考えることにあったからです。
本書は、主に北米の都市計画のありふれた側面に焦点を当てました。本書の関心は、スーパーシティ計画、都市と自然の間に大規模なインフラを介入させる工夫、従来型の都市計画の再創造、あるいは「戦術的」都市計画への賢明な関与などといった、都市デザインの今日的な課題に見出せる教えや動向、プロジェクトを追求することにはありません。それぞれから学ぶべきことは多いものの、すべての都市空間の本質的な問題は、一般の人々が普段の生活で重ねる日常の経験にあり、今後も同様であるはずだと、私たちは考えているからです。
だからこそ、私たちは本書が都市デザイン教育とは関わりのない多くの人々にも役立つと思っています。実際、都市デザインの最前線にいる人々、すなわち都市や町の管理者、プロのデザイナーやプランナー、一般市民は、学生と同じようなジレンマに直面しています。具体的な解決法を早急に実現するという期待や希望は、追求するに値するより大きな問題でもあります。この問題に対するありがちな答えは、デザインについてやさしく書き直されたガイドラインや、「完璧な街路」をつくる方策などといった、マニュアル的な解決法に頼ることですが、それだけでは都市デザインがあたかもあらゆる都市に適合する標準的な解決をもたらすもののように思えてしまいます。なるほど、普遍的な原則はあらゆる都市空間に適用されます。けれども、それぞれの空間が、都市に定着し、人々に信頼され、愛される場所になる方法は、それぞれ独自なものです。そのため、都市デザインは直線的に教えることができません。普遍的なものも特殊なものも、ほかよりも先に学ぶべきものもありますが、その入口が決まっているわけではないのです。都市デザインを広く理解するための入口は人によって異なります。本書の101のアイデアが1つでも、あなたにとっての都市デザインへの入口になることを願っています。
(ぜひ本編も併せてお楽しみ下さい)
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