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2022.03.15

第10回:同じところ、違うところ

本屋な生活、その周辺 / 高橋和也

2013年、東京・学芸大学の賑やかな商店街を通りすぎた先、住宅街にぽつんと、SUNNY BOY BOOKSは誕生しました。店主の高橋和也さんとフィルムアート社のおつきあいが始まったのはとても最近なのですが、ちょうど『ヒロインズ』を売りまくっていたり(250冊以上!)、企画展「想像からはじめる――Solidarity-連帯-연대――」が全国の書店を巻き込んだ大きなうねりとなって巡回されたり、すごいことを淡々と当たり前のようにやっていらっしゃる時期で、個人書店の底力というか、小さいゆえの機動力とか社会的な意義というか、改めて実感したのを覚えています。

以前のインタビューで「東京だからやっていける」とおっしゃっていた高橋さんですが、世の中の状況も変わり、決して楽観的ではないけれど、東京はもちろん地方でも本屋を始められる方がとても増えました。背景には、どこで買っても同じはずの本なのに、「大好きなお店を応援したいからここで買おう」と思う読者がすごく増えたことが大きいと感じます。SUNNYも特にコロナ禍初期に休業された際、心が折れそうなとき、お客さまからたくさんの激励を受け取って気持ちを保てたとのこと。だからこそ2021年2月に家族で沖縄に移住されることになっても、続ける意志が繋がれたのだと思います。

沖縄移住をすっぱり決断されたことといい、子供さんが生まれてからはより「生活」を大事にされる気持ちが強まったようにも感じます。ブレない軸を持ちつつも自然な流れに身を任せてきた高橋さんが、現実をどう受け入れ、これからどうなっていくんだろう、見守りたい方はたくさんいらっしゃると思います。高橋さんの考えややりたいことが少しずつ整理できるような連載になればいいなと思います。

3月に入り、忘れられないあの日から11回目となる3月11日がやってきました。元々は連れの誕生日だったこともあり、めでたいだけの日でしたが東日本大震災で亡くなられた方や被災された方々の心の平穏を願う日にもなりました。加えて今年はウクライナのこともあり命を落としてしまった方を弔い、現地で不安な思いをされている方々の安全を祈る日が続いています。年月を重ねていくとは、日々訪れる日にいろいろなひとの想いが重なっていることを知ることなのかもしれません。それは喜びばかりではなくて悲しみや辛さも同じ分だけ世界に溢れていることに改めて気づくことでもあります。強ければ良いと力をかざしてくるものに抗いながら、ひととしてどう生きていくのか、大きな主語による話のようでいてとても個人的な話として問われているように思います。答えがすぐに出せない物事が多すぎて打ちのめされそうになりますが、自分が一杯一杯にならない程度の心の深さで考え続けていくしかないのだとも感じています。その諦めなさがいずれ生活に根を張ってゆっくりと行動に繋がっていくことを信じて。

先週は2月にお店で刊行した清水美紅さんの本の巡回展が福岡のナツメ書店 / Sleep Coffee and Roaster(以下ナツメ&スリープ)さんで始まるということで福岡に行ってきました。初日は朝一に抗原検査で陰性を確認、ひとまずほっとしつつもいつもはしないマスクを2重にするなど不思議な緊張感の中で旅が始まりました。九州に降り立ったのは初めてでしたが、博多駅や天神駅を見て「ビル大きいなー」と初めて都会を知ったひとみたいにびっくりして頭がぐるぐるしました。1年前まで東京に住んでいたのでコンクリートジャングルは見慣れているはずですが、いつの間にか沖縄の風景が自分の中の普通になっていたんだと気づかされました。そして道を間違えながら辿り着いた博多ふ頭のフェリー乗り場から乗った福岡市営渡船は、利用するひとの生活の足として根付いている感じがなんとも言えずよかったです。展示会場であるナツメ&スリープさんの店舗スペースの奥はお店を営んでいるお二人が普段生活されているスペースということもあり、生きることとともに働くことがあるような、それでいて無理のない距離感が程良い印象を受けました。今のスタイルはお二人にとっても落ち着いているとのことでしたが、自分なんかが知り得ない多くの苦労や悩みの上に築き上げたものなんだろうと、お話させてもらった会話の節々から想像できて静かに感動しました。と、ただ観光に来ただけみたいになっていますが、しっかり設営のお手伝いもして展示の準備も整えました。ナツメ&スリープさんは大きめの窓が3方向にあるので、時間帯によって入ってくる自然光の角度や強さが異なり絵の表情もまた違って見えました。この場所でいい出会いがありますように、と願いながらも必ずそういう出会いがあるだろうと不思議に確信できるような場所でした。

滞在2日目は福岡に拠点を移されたばかりの里山社・清田さんと合流して車移動。福岡市内から少し離れたうきは市、八女市、大牟田市を、ドライブしながらみた景色は筑後平野で繋がる道ということで、くねくねと登り下りも多い沖縄の道とは違いひたすら平坦な風景が続いていてなんだか大地に受け入れられているような気持ちになりました。そんな大らかさを体現したかのような大牟田市にある「taramu books&cafe」さんは初めてなのに何度も来て店主の村田さんと話をしたことがあるような安心感に満ちていたし、八女市の「うなぎBOOKS」さんは周辺の本町エリアの土地らしさを見つめる「うなぎの寝床」というプロジェクトの中で世界観を広げる役割を担おうとする意欲を感じました。そしてうきは市の「MINOU BOOKS」さんは幼児向け雑誌や絵本、ライフスタイル雑誌も揃えつつフェミニズムや水俣病についてなど社会を考える本まで暮らしについて掘り下げた棚作りと穏やかな空気感につい長居をしてしまいました。出来上がっているようで変化の途中のど真ん中にあるような揺れを感じる本棚をまた見に来たいなと思いました。お会計をした後クレジットカードをもらい忘れたのですが、スタッフの方が息を切らしながら追いかけてきてくれたのがなんだか忘れられずにいます。本屋はその町の鏡だと何かの本に書いてあったように一見すると生きることを見つめる本が多く、宿場町周辺だったということで建ち並ぶ家々も似ていてましたが、よく見ると品揃えもお店としての立ち位置も少しずつ違っていてやっぱり本屋は面白いと思うのでした。

最終日は「MINOU BOOKS」の石井さんと清田さんがお勧めしていた福岡市美術館で開催中の田部光子展「希望を捨てるわけにはいかない」と画家のミシシッピさんの展示がちょうど初日だった本屋青旗さんをはしごしました。九州派のメンバーとして美術界と女性たちを牽引してきた田部さんのことは初めて知ったのですが、現在の活動に至るまでの作家の心と時代の流れを知ることができてよかったです(やっぱりNO WAR!)。本屋青旗さんは以前から気になっていましたが、前日にお邪魔した本屋さんからも次々お名前が出てきていたので行かねばとなり、帰りの飛行機の時間がチラつきながらもなんとかお邪魔できました。福岡でも珍しいアートブックやジンをメインにした棚構成。オーナーの川﨑さんは「ダメだったら辞めたらいい、くらいの気軽な気持ちでやっています。」とおっしゃっていて、自分もお店を開けた時は同じような気持ちだったなーとふと思い返している自分に「おじさん化・・」という言葉がよぎったのでした。まだオープンから1年半とのことで、どんどん変わっていきそうな本棚から、変化していくことに前向きな気持ちになれるようでした。ちょうど展示に合わせて在廊に来ていたミシシッピさんとも3年ぶりくらいにお会いできて嬉しい時間となりました。

他にも周りたいところは山ほどありましたが今回は諦めて帰路につきました。那覇空港に到着してからはすぐにPCR検査を受けて、予約していたホテルで結果待ち。無事に陰性となりお世話になったみんなに安心をお届けできました。コロナ禍から県外に出るのも一苦労ではありますが、それだけ特別で印象的な時間になりました。お会いできた皆さんありがとうございました。

沖縄にある個人の本屋は古本がメインという印象ですが、今回行けた福岡のお店は古本より新刊本で棚構成しているところがほとんどでしたし、聞いた話でも古本屋は多くないようでした。沖縄の約3.5倍の人口を抱える九州最大の都市ということで行き交う情報の量も多く、個人の本屋という場所も今の声を届ける大きな役割を担っているのかなと想像しました。ただそういう意味で、古本は土地の文化を掘り下げる重要なジャンルだと改めて気付かされますし、それぞれの役割を取り入れながら本棚を作れたらその幅の広さは無限大だ、と思って気持ちが高まるのと同時にそんな棚作れるのか、という若干恐怖にも似た気持ちになります。ただそういうときはつい完成形ばかりにとらわれてしまうのですが、やりながら目指していけばいいし、答えを探しながらやるから楽しいのだろうとも思います。ここもまた諦めなさがきっと良い棚へと導いてくれる、きっとそのはずと心弾ませました。

さて、次回は(実は!)沖縄の店舗物件の話が水面下で進んでいたりするので、その進展かはたまたダメだった話になるか、をお届けできればと思います。

 次回2022年4月12日(火)掲載予定です
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