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2冊目・「全読み」という欲望/倉庫感随一の巨大書店で横断的「棚」考察(ジュンク堂書店池袋本店)

石岡さんと本屋に行こう! / 石岡良治

(イラスト/コルシカ)

 

視覚文化「超」講義』の著書などでおなじみの石岡良治さんと、月に1回、一緒に本屋に行って買い物をしようというこの企画。気になっていた目当ての本を探して本の森をさまよいながら、石岡さんの、今日欲しい1冊を購入するまでをドキュメントしてしまおうという試みです。果たして今日の1冊は…?

前回は、連載初回ということもあり、石岡さんの書店探索の際の基本スタイルと思考法の一端をとりまぜながら「人文書総まくり」といった趣向でお届けしましたが、石岡さんの博覧強記ぶりに改めて震撼できた、良い滑り出しだったのではないかと思います。

今回は、「1冊ずつ本を並べて出来上がった、集合体としての『棚』」について考察すべく、ジュンク堂書店池袋本店にお邪魔しましたよ。

 

 

ジュンク池袋は「倉庫感」がある

 

──お買い物企画、よろしくお願いいたします。今日はジュンク堂書店の池袋本店です。

今って、まず先にAmazonで本を見てしまうという傾向がありますよね。場合によってはAmazonで見た本を本屋さんに探しにくる、というパターンもよくあるわけですが、それで書店に行って、肝心のその本がない、ということがどうしても起きてしまう。そこからこぼれるものがどれぐらいあるのか、どれだけそれを押さえているのかが、今の書店の課題でもあると思うんです。そんななかで、ジュンク堂の池袋本店は、関東では一番「倉庫感」があるというか、本の多そうな店として、よく使わせていただいてます。

あと、ジュンク池袋は、ブックカフェなんかを使ったトークイベントをよくやっていまして、私も二度ほど出させていただきましたが(注:『視覚文化「超」講義』(フィルムアート社、2014年)の刊行イベントと、土居伸彰『個人的なハーモニー ノルシュテインと現代アニメーション論』(同、2016年)のトークゲストとして)、そういうイベントを活発におこなっているというのも、いいですよね。

今いるのは、4階人文書の、エスカレーターを上ってきたすぐ目の前の新刊コーナーで、新刊棚の中の「哲学思想」を見ていますが……やっぱり、ネットだと表紙の画像はよく見えるんだけど、本の物量感はわからないので。本としてどれぐらいデカくてゴツいのかがわかるのが、実際の書店の魅力ですね。

たとえばこの『クリスタルの心』っていう本なんか、いいですよね。私は「クリスタル」というテーマ自体が好きなんですが、「この本こんな分厚かったか」という驚きがありますね。

──「クリスタル」というテーマに惹かれるというのは?

いや、ドゥルーズが『シネマ』2巻で、「結晶(cristal)イメージ」ということを言っているので、クリスタル関係と聞くと気になりますね。こういう厚さや、本の存在感はやっぱり魅力的かな、と。

 

リナ・ボルツォーニ『クリスタルの心―ルネサンスにおける愛の談論、詩、そして肖像画』足達薫、伊藤博明、金山弘昌訳、ありな書房、2017年。622ページの大著で厚さ4センチの存在感。

 

あとは、この「人類学の転回」シリーズ、前回も触れましたけど、また新刊が出てますね。このシリーズは自分の部屋にどれを持っているのか覚えられなくて忘れてしまうので、間違って買いそうになって怖いんですが……、でも、これは11月に出た新刊だからまだ持ってないか。

 

マルク・オジェ『非‐場所―スーパーモダニティの人類学に向けて』中川真知子訳、水声社、2017年

 

 

 

いよいよ人文書の各ジャンルへ

 

ではいよいよ、各ジャンルの棚に進んでいきましょう。「新刊・話題書」コーナーもいいんですが、さらに各ジャンルごとの新刊の見せ方が、さすがジュンク池袋という感じですね。たとえばカルチュラル・スタディーズの新刊だと、訳者の橋本一径さんからそろそろ刊行されると聞いていた『ドーピングの哲学』がすでに出ていますね。

「カルチュラル・スタディーズ」の棚。新刊を面出しで1段固める手法。 3段目の右から2冊目:ジャン=ノエル・ミサ、パスカル・ヌーヴェル『ドーピングの哲学―タブー視からの脱却』橋本一径訳、新曜社、2017年

 

哲学だと、たとえば「ポスト構造主義」の棚を見てみますが……これはすごいですね(と、面出しになっていた中から『存在と差異―ドゥルーズの超越論的経験論』を見つける)。これは知る人ぞ知る、品切れ本だった本で、古書ではめちゃくちゃ高騰していた本なんですが、最近本当に久々に重版がかかって、それがこうやってちゃんと店頭で目につくように展開されていると。こういうのがやっぱりジュンク池袋のすごいところです。(注:Amazonでは、重版したばかりの時は在庫復活して定価で買えたものの、2018年1月現在、再び在庫が切れたため、13904円の高値に戻ってしまっている)

 

「ポスト構造主義」の棚。 3段目の中央:江川隆男『存在と差異―ドゥルーズの超越論的経験論』知泉書館、2003年初版。2017年9月に14年ぶりに重版された。

 

 

日本の評論系の棚だけみても、たとえば、この一角だけでもうすでに、ここ30年くらいの批評の歴史というか、日本の現代思想の30年間の本棚、みたいな感じですよね。こういうものが揃って並んで売っているというの事実が、よく考えるとすごいことです。蓮實重彦さん、柄谷行人さん、浅田彰さん、中沢新一さん、栗本慎一郎さん、小坂修平さん、植島啓司さん、今村仁司さん、東浩紀さん、國分功一郎さん、千葉雅也さん、と。あれ、吉本隆明さんは別の場所かな……あっ、上の別コーナーにあんなにありますね。これはすごいな、ほとんど同人誌みたい感じのものもズラッと揃ってますね。吉本隆明さんって、読者の数も多くて、読者コミュニティが大きいわりに、私の世代もあんまり知らないんですよね。

──もうひと世代前か、ふた世代前とかですかね?

いや、ふた世代、三世代前ですね。いわゆる団塊世代の読者が多いんだけど、そういう人たちの活動が読めるというのは重要なことですよ。

 

「日本思想」の棚の一角。

 

上の段に「吉本隆明資料集」(猫々堂)がズラリと並ぶ、吉本隆明コーナー。圧巻。

 

 

 

1冊の本の背後にあるネットワークを見ていく

 

素の新刊棚よりも、ジャンル別棚の新刊本の並びのほうを私は重視して見てるんですが……ここは歴史学の棚ですが、これはかなり面白い棚ですね。『◯◯の歴史』っていう本多すぎだろ、みたいな(笑)。『◯◯の歴史』『◯◯の文化史』の充実ぶりは特筆すべきところですね。興味津々です。

──確かに、あんまり見ないコアな本がたくさんあります。ここまで『◯◯の歴史』が揃っていると壮観ですね。

いわゆる「アナール学派」の人たちの流れで、社会史って結構広まってるんですね。有名なのは、中世史家のル・ゴフとか、人間の五感をテーマにした「感性の歴史学」のアラン・コルバンとか。こういうフランスの歴史学から、日本では阿部謹也さんとか網野善彦さんの仕事によって知られた流れが、「『◯◯の歴史』の充実」として表れていますね。それらがズラリとまとまっている。前回(http://www.kaminotane.com/2017/12/15/1379/)も言及した『身体の歴史』、あの時は「Ⅲ」しかなかったんですが、ここはシリーズで揃ってますね。

私は文化史とか人類史は、つい哲学思想から読んじゃうきらいがあるんだけど、こういうふうに具体的に『◯◯の歴史』という並びを見ると、「こんな本があったんだ」という端的な事実としての発見があり、さらに1冊1冊が棚という集合体として集まることで、「こんなテーマがあるのか」という豊かさが浮かび上がるという仕掛けになっている。

 

A・コルバン、J-J・クルティーヌ、G・ヴィガレロ『身体の歴史』(藤原書店)がⅠ〜Ⅲまで揃うほか、さらに同著者たちの『男らしさの歴史』(同)もⅠ〜Ⅲまでコンプリート。

 

 

「人と物の文化史」の棚。『ダイエットの歴史』から『暖房の文化史』、さらには「水の歴史」(『水の征服』)に至るまでバラエティに富む並び。アイディアの宝庫。

 

歴史学も各国史だけで相当充実してますね。今年はロシア革命100年で、ロシア史関連の本が多く出ていますが、こうやって見ると、多くの書店の本棚で平積みされている本ではない、地道な研究的な本も取り揃えていていいですね。

各国史の新刊でいうと、個人的には私はこの『11の国のアメリカ史』っていう本が気になっていて。アメリカは、ひとつではなく11のネイションから成り立っていて、それらの分断の歴史である、という本で、いずれ読みたい本です。要するに、アメリカは一枚岩ではなくて、今まではせいぜい南北くらいの分け方だったんですが、もっといっぱいあるぞっていう話で非常に興味深いですね。

あとはイスラーム関係も興味ありますね。イスラームというとどうしても宗教関係の話が多いんですが、世俗的な歴史の話との関わりも大事だと思うので。

 

コリン・ウッダード『11の国のアメリカ史―分断と相克の400年(上・下)』肥後本芳男、金井光太朗、野口久美子、田宮晴彦訳、岩波書店、2017年 コリン・ウッダード『11の国のアメリカ史―分断と相克の400年(上・下)』肥後本芳男、金井光太朗、野口久美子、田宮晴彦訳、岩波書店、2017年

 

左:ロシア史の棚。右:西南アジア史の棚は、宗教史関係だけでなく文化史・生活史関連も充実。

 

人類学ではないほうの民俗学だけでも、いっぱいありますね。棚一面が全部そうです。わりとよく出ている新刊のもの(赤坂憲雄『性食考』[岩波書店、2017年]や、畑中章宏『21世紀の民俗学』[KADOKAWA、2017年]など)以外にも、「みんな大好き妖怪」テーマだけでもこんなにありますね。

一面民俗学で埋め尽くされる棚。「妖怪」だけでこんなに。

 

私なんかはもう麻痺してるんだけれど、一般の読書家と研究者には断絶があるというか、なかなかそこが難しいところで。研究書はたくさん出ているからややもすると研究書だらけになってしまうんですけど、このお店の特徴は、各棚の真ん中あたりに面出しされている本が、一般書と研究書をつなぐような本になっていることですね。その周りに、もうちょっといろいろなタイプの研究書を置いて補うという感じですね。なので、学術書と一般書のあいだをつなぐものに関心を持つ人は、各コーナーの棚の面出し本をダーっと見ると、知らない分野を学ぶときに役に立ちますね。
私なんかはあまり知らない分野については、フラ〜ッと行って適当に手に取って「こういう感じか」みたいにあたりをつけたりしています。たとえ実際に買うのはもっと入門書めいた新書とか選書だったとしても、その背後にはこういう本のネットワークの広がりがあって、具体的にどういう本があるのかがわかるということがいいんですね。結局それらは難しそうだから買わなかったとしてもね。

図書館でもそういう本の接し方ができることになっているし、図書館であれば当然分類がもっと整然としていてそれはそれで面白いんですが、書店はやっぱり、アクティブな「今売っている本」から探せるのと、学術書なんかは、出版社には在庫があるけど通常あまり出回っていないものや、特に「ジュンク池袋にだけある」、という本も結構あったりして、そういうのが見つかっていいですよね。ある意味ここは、そういう点でも現段階では関東で最強に近いお店なのではないかと私なんかは思ってます。だから、普段の本に対する触れ方としても、ときどきこのお店に来ることによって、「ふむふむ」という感じで考え直したりするところもあります。

あとは、ネットでのみ、非常に値段が上がってしまうタイプの本がありますよね。つまり、ネットでたまたま在庫が切れているとか、Amazonのマーケットプレイスで戦略的高値というか、誰かがうっかり引っかかった結果高値に釣り上がっているものの一部が、実は書店に在庫があって普通に買えるというケースも少なくないので、高すぎる本を見たら、関連書籍探しも込みで、こういう実店舗に来るとよいのではないか、と。ネット書店って、実際に使っている人は都市部の人が多いということを聞きますよね。でもネットでポチるだけじゃなくて、たまにはこういうお店に行ってみることをおすすめしたいです。

 

話題になっている本の背景を見ていく

 

次は心理学のほうに行きましょうか(棚を移動)。「精神分析」だけでもこんなにあるというのは面白いな。例えば、この『疾風怒濤精神分析入門』って、話題になってるなと思っていた本なんですが、そういう本もこうやって並ぶと、同時にたくさんの研究書を背景にしていることがよくわかりますね。

あとは私は認知科学関係はわりと好きで、あ、これこれ、ポール・エクマンの本とかは、定番書ですね。表紙がややダサめなんですが、いいんですよ。人間の頭の中を舞台にしたピクサーの長編アニメーション『インサイド・ヘッド』(2015年)の元ネタのひとつがこのエクマンの表情論なんです。心理学者が表情とか仕草で嘘を見破って犯罪捜査するっていう海外ドラマの『ライ・トゥ・ミー』(2009-2011年)のモデルにもなってたりする人で。

 

写真上段右端が石岡さんが気になっていた『疾風怒濤精神分析入門―ジャック・ラカン的生き方のススメ』(片岡一竹、誠信書房、2017年)

 

P・エクマン+W・V・フリーセン『表情分析入門―表情に隠された意味をさぐる』工藤力訳、誠信書房、1987年/ポール・エクマン『顔は口ほどに嘘をつく』菅靖彦訳、河出書房新社、2006年

 

あとは、知覚に興味があるので、視覚系の認知研究というのはときどき見ていますね。あとはアフォーダンス系とかも……認知科学は割とどの本屋でも充実しているイメージがあるので、正直ジュンク池袋でなくてもあるような感じですが……でも、この言語系の心理学関連のコーナーになってくると、ここまでまとまっている店はなかなかないと思いますよ。
『シンボルの形成』とか、存在は知っていましたが、売ってるのを見るのは初めてですね。これは結構気になっていて……。こういうのが復刊されているんですね。いつ復刊されたんだろう(と奥付を見る)。2015年か。復刊されたことを知らない人もいるだろうし、復刊しても2〜3年すると、「復刊したぞ」の話題性からスーッとフェイドアウトしていっちゃいがちですが、そういった本もいっぱい置いてあるのがいいなあ。

 

なかなかめずらしい並びで充実している言語心理学系の棚。

 

H・ウェルナー、B・カプラン『シンボルの形成―言葉と表現への有機-発達論的アプローチ』〈ミネルヴァ・アーカイブズ〉柿崎祐一、鯨岡峻、浜田寿美男訳、ネルヴァ書房、復刊版2015年;初版1974年。お値段は1万円也。

 

教育系もおもしろい

 

あとは、私なんかはあまり知らないコーナーとしては、こういう保育系の本ですね(笑)。

──いきなり棚の雰囲気がガラッと変わりましたね(笑)。

相当すごいですね。手あそび、うたあそび、劇あそび、工作あそびとか。テキストブックを探しに来た人が、子どもの本も買っておくか、と、ここでサクッと見たりするんでしょうかね。

 

保育だけで相当な量。「いろいろあるんだなあ」

 

このあたりは教育系ですね。なるほど、流行りの大学改革論関係だけでもこんなにありますね。

大学改革論って、時流だけじゃなくて、それをもっと制度的な問題や、研究者の歴史を踏まえたものとして重要ですよね。(しばし棚を吟味)

……あ、これとかね! コメニウスって最近、講談社選書メチエで入門書が出たんですが(相馬伸一『ヨハネス・コメニウス―汎知学の光』講談社選書メチエ、2017年)、このへんって面白いんですよ。17世紀に世界で初めて出版された「世界図絵」っていう、いってみれば絵本の教科書なんですが、この『コメニウス「世界図絵」の異版本』っていう本は、平凡社ライブラリーから出ている実際の「世界図絵」(J・A・コメニウス『世界図絵』井ノ口淳三訳、平凡社ライブラリー、1995年)を翻訳した人が書いてるんですね。
「世界図絵」は面白いからよく見るんですよ。で、この異版本は、翻訳するときの調査した資料をまとめた本だと思うんですが、はっきり言ってこの本の存在はいま初めて知りましたね。「世界図絵」ってラテン語とヨーロッパ各国の対訳で出た子ども向け教科書で、ゲーテも使ったと言われてるんだけど、もともとはコメニウス自体は確か東欧のチェコの人で、近代教育学の、デカルトとかそういう時代の偉い人でして。フランス語版、ロシア語版、ドイツ語版、ラテン語版、みたいな感じで、翻訳するとともに各国版を調べたことが記載されてますね。
いやあ、この本は知らなかったなあ。

 

井ノ口淳三『コメニウス「世界図絵」の異版本』追手門学院大学出版会、2016年

 

哲学×教育学の可能性も興味深い、と石岡さん。

 

教育学って、哲学やいろんな学問を「教育」というフレームで捉え直す傾向があるように思っていて。たとえば、ヴィトゲンシュタインとかドゥルーズとか、「◯◯の教育学」っていう本が実はいっぱいあるんですよね。つまり「教育学」という学問の枠組みの研究者で、哲学に興味がある人が、こういったドゥルーズ=ガタリと教育を絡めた本を出すということがよくあります。アカデミズムの制度的な事情なんでしょうが、こうやって棚で見ると、さっき見た棚の学校改革の話とつながりますが、教育学の研究者の中の一部には、哲学を教育に持ち込むことでそれを生かそうとする人がいることが改めてわかって、そういう現実が興味深いですね。

 

海外文学に突入

 

──次は文芸書に行ってみましょうか。ジュンク池袋はビル1棟で地下1階から9階までという巨大店舗ゆえの縦長構造なので、ジャンル間の移動がエスカレーターになりますが。文芸書は3階なので、ワンフロアくだりましょう。石岡さん的に、文学関係で気になるジャンルはありますか?

そうですねー……作家別の棚ももちろんいいんですが、私は研究書とかも気になるので、ジャンル小説の評論などは読んでます。ミステリー論とか、SFとか、それらの評論だけでこれだけまとまっているお店っていうのもなかなかないですよね。
でも、文学への関心というものが、世間的にも減りましたよね。私自身もそうなんですが、文学部出身ではありますが文学に対する関心が減っているというのは否めない。
あと、今だと、文学研究としては、「アダプテーション」関係が結構盛んになっていますね。要するに、文学を映画化するときの関係を考えることですが、文学の理論系で盛り上がっているのはアダプテーション・スタディーズが一番かもしれません。

 

アダプテーション関連が面出しに。

 

 

昔は、文学評論に思想的な何かを託していた状況がありましたが、そういう時代も終わり、「小説は小説である」という、ある意味真っ当な感じになったとも言えるかもしれません。反面、学生時代の私のような、チャラい批評好きみたいな読者──一応小説も読むようにしてはいましたが、小説を読むより文学評論が読みたい人みたいな──は減っている気がしてます。でも一方で、着実な研究書はいいものがいっぱい出てるんですよね。
そういえば、この間、群像新人評論賞を受賞した石橋正孝さんのジュール・ヴェルヌの研究書、買おうと思って探してたんでした。ありますかね? ヴェルヌ研究……ここじゃないのかな?(しばし棚をさまよう)……よくわからないですね。ヴェルヌだからファンタジー扱いなのかな? あっ、こういう時にこそ在庫検索ですね。

──そうだ、行きましょう行きましょう(フロア端にあるカウンターの在庫検索機を目指して移動)

 

検索入力中

 

あ、ヴェルヌの『〈驚異の旅〉コレクション』はあるけど、石橋さんの研究書は今ないですね。残念ですね。

 

残念ながら在庫がなかった『〈驚異の旅〉または出版をめぐる冒険―ジュール・ヴェルヌとピエール=ジュール・エッツェル』(石橋正孝、左右社、2013年)

 

ヴェルヌの『〈驚異の旅〉コレクション』は無事発見。

 

海外文学の新刊台で気になることとしては、かつて「知る人ぞ知る」というような感じの存在だったものの復刊が最近多いことですね。

ミシェル・レリスの『ゲームの規則』も全訳がいま出てる途中なんですよね。前は散発的に出ていたやつが、とうとうシリーズとして全部出る、と。『抹消』は前にも出ていたんですが、そういうのも、装幀を揃えて出し直すという。このプリーモ・レーヴィの『周期律』も工作舎から全然別の装幀で出ていましたけどね。こうやって文脈を変えて出すと、また違って見えますね。

──それを言ったらナボコフとかも今まさに出し直していますね。

そうですね、ナボコフは若島正さんが本当にすごい研究者ですから、ああいう方がいるから日本で広まったというのは大きいですね。

 

ミシェル・レリス『ゲームの規則I 抹消』、『ゲームの規則II 軍装』ともに岡谷公二訳、平凡社、2017年。全4巻。11月に2巻同時刊行され、2018年2月には『ゲームの規則Ⅲ 縫糸』『ゲームの規則Ⅳ 囁音』が刊行予定。

 

プリーモ・レーヴィ『周期律〈新装版〉』竹山博英訳、工作舎、2017年

 

(海外文学新刊台から移動し、壁沿いの棚をそぞろ歩きながら)

──ここに白水社Uブックスがまとまっていますね。

白水社Uブックスは地味にいいものが多いですね。昔の入門書が新しく出し直されたりするのも良くて、たとえばこの高橋康也さんの『サミュエル・ベケット』も、初版は70年代で今となっては古い本ですが、「読まれるべき古典」として、こうやってUブックス版で出している。書かれた当時が70年代ということは、ベケットは活躍中で、ノーベル文学賞を取った後にまとめ直されて出たんじゃないかな(注:受賞は1969年)
あ、キルケゴールのこんな本も出てるんですね、今知りました(『ドン・ジョヴァンニ 音楽的エロスについて』)。やっぱり、いろいろ知ってるつもりでも、知らないものはありますね。この『ケイレブ・ウィリアムズ』とかも出てたんだ、とかね。ゴドウィンのこれは、文学史的に名前は聞くけど実物は見たことなかった本で。「ウィリアム・ゴドウィンはゴシック小説『ケイレブ・ウィリアムズ』を書き……」とかなんかそういう記述を目にしていて、そうやって読み流していたものが、今実際の本として目の前で出会った、という。こういうこともあるんですね。

 

白水社Uブックスの棚

 

高橋康也『サミュエル・ベケット』〈白水Uブックス〉、2017年
ゼーレン・キルケゴール『ドン・ジョヴァンニ 音楽的エロスについて』〈白水Uブックス〉浅井真男訳、2006年
ウィリアム・ゴドウィン『ケイレブ・ウィリアムズ』〈白水Uブックス〉岡照雄訳、2016年

 

このあたりは文学理論の棚ですが、さっき4階の人文書の棚で見た批評理論のあたりとのつながりが気になりますね。たとえばこの人は少し前に亡くなったバーバラ・ジョンソンという人ですが、フェミニズム批評でも有名ですね。この『批評的差異』は、彼女がデリダ的な脱構築批評をやった初期の研究書で、翻訳が出たのは最近です。私は英語で読んでいたので翻訳は買ってはいないんですが、読み直したい本ではあります。この分野は、このお店では4階の人文と3階の文芸に分かれていますが、この本が普通に「文学」側にくっついたものとして扱われているんだ、というのは発見ですね。

かつては、文学が、哲学とか思想全部を覆っていた状況があって、その頃は文芸批評って今よりもずっと大きなもので、文芸批評をやっていれば哲学もわかるし歴史も政治もわかる、みたいな、全部を覆っていたイメージがあったと思うんです。90年代くらいまでですかね。当時と比べると、かなり状況が変わってきているというのは確かじゃないでしょうか。

 

バーバラ・ジョンソン『批評的差異―読むことの現代的修辞に関する試論集』〈叢書・ウニベルシタス〉土田知則訳、法政大学出版局、2016年

 

さっきのヴェルヌ研究の本もそうでしたが、ちょっと気を抜くとすぐに品切れるというきびしい時代ですからね……4年くらい前の研究書がもうないという。ちょっと話題になっても、出版社が小さいと、初版が切れたらもう終わり、みたいな感じになってしまうので。

 

 

ジャンルを横断的に見る/ジャンルとジャンルの「間」を見る

 

──いろいろ見てきましたが、今日欲しい本の候補は絞れてきましたか?

実際に買う本は、一周戻って人文のほうがいい気もしますね。やっぱりまた上の階の人文に戻りましょうか。
(上りエスカレーターで移動)

メディア・スタディーズも充実した並びですね。……あと、高山宏先生のこのシリーズ(高山宏セレクション〈異貌の人文学〉)もいいですよね。たくさん持ってます。少なくとも『オルフェウスの声』と『ノンセンスの領域』と『形象の力』と『アレゴリー』は持ってます。
あととなりのぶ厚いやつも全2巻で出たもので、いま1冊(『雷神の揆』)しかないけど、ほしかったんですよね。うーん、でも高いからなあ……。
私は学部時代は、当時の東京都立大学(現・首都大学東京)にいたんですが、都立大には高山宏先生がいらっしゃって、私はかなり刺激を受けましたね。本のジャンルを横断的に見るというのは、高山さんから学んだところがありますね。

 

右側は「高山宏セレクション〈異貌の人文学〉」(白水社)の並び。2012年〜2017年にかけて10冊刊行されている。その左はシリーズ「新人文感覚」の第2巻目(完結)『雷神の揆』(羽鳥書店)。

〈異貌の人文学〉10冊
ワイリー・サイファー『文学とテクノロジー―疎外されたヴィジョン』野島秀勝訳、2012年/エリザベス・シューエル『ノンセンスの領域』高山宏訳、2012年/グスタフ・ルネ・ホッケ『絶望と確信―20世紀末の芸術と文学のために』種村季弘訳、2013年/M・H・ニコルソン『ピープスの日記と新科学』浜口稔訳、2014年/エリザベス・シューエル『オルフェウスの声―詩とナチュラル・ヒストリー』高山宏訳、2014年/ウィリアム・ウィルフォード『道化と笏杖』高山宏訳、2016年/ロザリー・L・コリー『シェイクスピアの生ける芸術』正岡和恵訳、2016年/エルネスト・グラッシ『形象の力―合理的言語の無力』原研二訳、2016年/アンガス・フレッチャー『アレゴリー―ある象徴的モードの理論』伊藤誓訳、2017年/ウィリアム・マガイアー『ボーリンゲン―過去を集める冒険』高山宏訳、2017年(以上、すべて白水社)

〈新人文感覚〉
高山宏『新人文感覚1 風神の袋』、『新人文感覚2 雷神の撥』(ともに羽鳥書店、2011年)

 

社会学の棚は、個人的には、こまごまとしたものがいっぱいあっていいなあ、と思いますよ。理論社会学では、これ(『文化・階級・卓越化』)が話題になってましたね。ピエール・ブルデューの「卓越化」の理論を使った近刊です。
この青弓社の「ソシオロジー選書」シリーズは面白くて、もう一冊『複数的世界』っていうのもありますね。青弓社ってこの種の文化社会学関係の本をいっぱい出していて、あとは「青弓社ライブラリー」というシリーズも出してるんですよ。あ、ここにまとまっていますね。こんなに揃っているのはすごい。私が扱うような領域ってこのあたりなので、このシリーズは読む率が高いんですね。

 

トニー・ベネット、マイク・サヴィジ、エリザベス・シルヴァ、アラン・ワード、モデスト・ガヨ=カル『文化・階級・卓越化』〈ソシオロジー選書〉磯直樹、香川めい、森田次朗、知念渉、相澤真一訳、青弓社、2017年
ベルナール・ライール『複数的世界―社会諸科学の統一性に関する考察』〈ソシオロジー選書〉‎村井重樹訳、青弓社、2016年

 

「青弓社ライブラリー」の棚

 

 

哲学棚で最近気になる動向

 

あと最近は哲学入門が多く出ていますね。この『哲学用語図鑑』(田中正人、斎藤哲也編、プレジデント社、2015年)がすごい売れたからということもありそうですが、哲学読み物の入門書が多い。でもやっぱり入門書でも、私は読み物ではない方に関心を持ってしまいますが……まとまっては展開してないのかな。分析哲学系の方にあるのかな。あ、ありましたね、このへんです。

このへんは、入門書はバンバン出ていて、いまや、「分析」と付けずに「哲学は」と言っちゃう本もいっぱい出てるから、分析哲学のシェアが高まっている感じはありますね。私はいわゆる「大陸系」というか、フランス哲学を学んだから、分析哲学オンリーの状況には抵抗がゼロではないんだけど、もちろん読者としては読んでいますので。

 

分析哲学系の入門書

 

あと、こういう批評同人誌があるというのもいいですよね。『フィルカル』全部あるスゲー、みたいな。

 

『フィルカル』は「分析哲学と文化をつなぐ」というコンセプトの年2回発行されている。現在4冊刊行中。http://philcul.net/

 

そういえば、最近でいえば、ヒューム関係の研究がすごい進んでいますね。最近出たばっかりの、若手研究者の鋭い本で『ヒューム哲学の方法論』っていうのとか。ヒュームってどうしても政治思想で語られることが多かったんですが、これはそうでなくてゴリゴリの哲学で、ハードコア・ヒューム論っていう感じで興味深いです。つまり、アダム・スミスとかと一緒で、最近増えたアダム・スミスの経済学以外の研究などとともに、「スコットランド啓蒙」への関心が高まっていて、最近はそういう語られ方が多いんだけど、それもあってヒューム論は今すごい多様になってますね。

 

ヒューム研究書の並び

 

豊川祥隆『ヒューム哲学の方法論―印象と人間本性をめぐる問題系』ナカニシヤ出版、2017年

 

──ヒューム研究が進んでいる理由というかきっかけみたいなものは何かあったんですか?

ひとつは、昔に比べて分析哲学が強くなったことによって、イギリスの思想への関心が昔より全般的に強まってるのではないかと思うんですね。研究者の層も厚くなってきている感じがします。昔は、イギリス思想って、経済学とか政治思想が多くて哲学系は少なかったんですが、今はだいぶ増えたんじゃないかと。その結果、こういう研究書がいっぱい出ているということで、いいなあ、と。反面、ドイツとかは、今はもちろんヘーゲルとかベンヤミンとか研究書もたくさんありますが、今後は研究者が減っていく可能性が高いのではないかと危惧しています。みんな英語以外やらなくなっているので。だから、今までのドイツ哲学思想史の研究の厚みは、今後は上がらないかもしれなくて。

友達で、東大の竹峰(義和)くんはたくさん重要な研究書を出してますね。『映画と経験』とか……あった! これですね。あとは、置いている場所が違いましたが、こういう超一流の本とか(『〈救済〉のメーディウム』)。他にもアドルノの本も書いてましたね……あ、これですね(『アドルノ、複製技術へのまなざし』)。いい本ですよ。

『映画と経験』のミリアム・ハンセンって、少し前に亡くなったアメリカのドイツ・メディア研究の人なんですが、この本に収録されているもののいくつかは論文が出た時に読んでるんですね……(目次をめくる)、そうですね、この第6章のあたりとか(「第6章 ミッキーマウス」)。これは、ベンヤミンがミッキーマウスにどう注目したか、っていう有名な議論なんですよ。かなり細かく研究してる。ベンヤミンは今でも読まれ続けていますよね。

あとは、アドルノの『文学ノート』みたいのは、このへんにないのかな……ないか、ここには……あ、あった! たいていなんでもありますね。アドルノは、正直、いくつかあまりいい訳じゃない本もあるので、竹峰くんに訳し直してほしいですね。キツいだろうけど。……って知人だから好き勝手言ってますが(笑)。アドルノ研究のレベルをさらに高めていただきたい、という感じで。

 

ミリアム・ブラトゥ・ハンセン『映画と経験―クラカウアー、ベンヤミン、アドルノ』〈叢書・ウニベルシタス〉滝浪佑紀、竹峰義和訳、法政大学出版局、2017年
竹峰義和『〈救済〉のメーディウム―ベンヤミン、アドルノ、クルーゲ』東京大学出版会、2016年
竹峰義和『アドルノ、複製技術へのまなざし―「知覚」のアクチュアリティ』青弓社、2007年
テオドール・W・アドルノ『アドルノ 文学ノート1』三光長治、恒川隆男、前田良三、池田信雄、杉橋陽一訳
テオドール・W・アドルノ『アドルノ 文学ノート2』三光長治、高木昌史、圓子修平、恒川隆男、竹峰義和、前田良三、杉橋陽一訳(ともに、みすず書房、2009年)

 

4階最後のお楽しみは洋書

 

あとは、4階の最後に見ておきたいのは、哲学・思想書の洋書ですね(洋書棚へ移動)。一時よりちょっと縮小したとはいえ、このお店は哲学思想系の洋書がたくさんあるのが魅力のひとつです。特に英語以外ですね。フランス語とかドイツ語も多いんです。英語の洋書だったら今はもうどこの本屋にもあるけれど、こういうフランス語やドイツ語の原書がダーっと並んでいるというのは、ここのお店ならでは、という感じがあります。

 

写真にうまく収まりませんでしたが、仕切板の林の中に宝がザクサクと。

 

あとは、面白いのは、洋書のコーナーではなくて普通の棚に、まだ翻訳されていないけど作者の名前のコーナーがあって英語の本があったりするところですね。つまりこれから日本語の訳書が出たらここに刺さっていく、と。すでに棚が先行しているんですね。確実にこのあたりの人たちは翻訳が出そうですからね。ユッシ・パリッカはメディア論の人ですね。マスミはドゥルーズ系の常道だし、タッカーは思弁的実在論(speculative realism)系の人で。数年後に日本語訳が並ぶかもしれませんね。

 

ユージーン・タッカーの仕切版のところに刺さっていてかすかに背が見えるのは、清水高志『実在への殺到』(水声社、2017年)でしょうか(「Real Rush」の背の文字列が。写真にうまく収められず失礼いたしました)。

 

 

いよいよ今日のお買い物の1冊を、とその前に……

 

実は、すでに1冊、「これかな」って思っている、今日の象徴的な本がありまして。

──おおっ。今日はもう、強い出会いがありましたか!

あー、でも、芸術書だったら、見たい本があるかも……。写真論の論集が出てまして、それが今日見たかった本なんですが。

──じゃあ芸術書、見に行きましょう。9階ですね。(ふたたびエスカレーターで移動。4階から9階へ上りながら)関心がまたがっていると上下移動が結構ありますね。

ベンヤミンを見ているうちに、メディア論から写真のほうに思考がつながっちゃいましたね。やっぱりメディアと芸術が分断されちゃうのが私個人としては苦しいところで……とくに美学関係がね。物理的に離れているということで、関連を読み解くのに苦労してしまうところがあって。同じフロアであれば、となりで買う人もいると思うんですけど。同じことが3階の文芸批評と4階の文学理論についても言えますね。あ、これはダメ出しではないですよ、単に私が上がって下がってを繰り返すだけですから(笑)。

(9階の芸術分野に到着)

あ、これですね、見たかった『写真の理論』。ロザリンド・クラウスとアラン・セクーラとかバッチェンなどの写真理論を、オリジナルで編纂して翻訳したというものですね。こういう形で理論的な論考がまとまって出ているのはよいですね。

 

甲斐義明(編)『写真の理論』月曜社、2017年

 

 

あ、さっきのアダプテーションでいうと、この本(『映画原作派のためのアダプテーション入門』)もそうですね。私はもう読み終わってるんですが、これはつまり、「原作派」というのが「小説派」なんですよ。著者の波戸岡さんがピンチョンの研究者だから、アプローチがどっちかというと文学寄りなので。だから、この本が、さっきの3階の小説論のアダプテーション・スタディーズのところに並んでいなかったのは残念ですね。あっちのほうにもあってほしいですね。まあそれは、みんなどんどん上下往復しましょう、ということで。

 

波戸岡景太『映画原作派のためのアダプテーション入門―フィッツジェラルドからピンチョンまで』彩流社、2017年

 

あとは、アニメーションの理論系の本は、ここにはないのかな。……ないですね。うーん……、あ、わかった! 地下1階にあるんだ。マンガ、アニメ、ゲームに関しては、地下とのリンクもあったんでした。

──確かにそうでしたね。地下もまた広大ですよね。ジュンク池袋おそるべしです。

そうそう、この本(『科学者の網膜』)とかも、映画のコーナーにあるけれど、4階の科学史の棚とどっちなんだ、というのは非常にありますね。でもこれがここにあるのはすごくいいんですよ、逆に。4階にこの本があるかどうかは確かめていませんが、でもあってほしいなあ。

 

増田展大『科学者の網膜―身体をめぐる映像技術論:1880-1910』〈視覚文化叢書〉青弓社、2017年

 

 

あっ、ここのコーナーはいいですね、最高ですね。ポーランド映画祭特集で、映画のDVDがあって、レムの小説が『ソラリス』とか全部揃っていて、スコリモフスキもあって、研究書も文学書も混ざって置かれていて。こういう棚の並びはいいですね。

 

ポーランド映画祭特集

 

 

せっかく9階にきたので当然美術棚へ

 

──よく見る棚に来ましたね。美学・芸術理論。

美術史の本でいうと、前にもう読んだんですが、これは相当な奇書で、面白かったですね。『芸術・無意識・脳』っていう本で、ノーベル賞を取ったエリック・カンデルという神経科学者が書いた本なんですが、世紀末ウィーンの絵のコレクターでもあり、かつ美術史家のゴンブリッチの理論などを統合しまくったりとかしていて。特に面白いのが精神分析も好きなところです。つまり、普通神経科学者って、フロイトが嫌い、みたいなことが多いんだけど、この人は最初は精神分析をやりたかったようで、普通に全部好きで、全部つないでいる、っていう本なんです。
秋に、ゴンブリッチで1回レクチャーをやったんですが、その時にこの本をひとつのフレーミングとして使ったんですね。

 

エリック・R・カンデル『芸術・無意識・脳―精神の深淵へ:世紀末ウィーンから現代まで』須田年生、須田ゆり訳、九夏社、2017年

 

 

あと、この『西洋美術の歴史』シリーズ、読みたいですね。機会があったら全読みしたいものですね。

──「全読み」、石岡さんからよく出るフレーズですね(笑)

そうですよ、もうそういう本いっぱいあって、読みたいですよ。全読みはするべきですよ。さっきの4階の歴史の棚で『◯◯の文化史』みたいな並びがあったじゃないですか。私にとっての関心は、本当はこのへんのイメージ史と、さっきのファッションの文化史とかは、かぶってるんですよね。神話学とか図像学とかも全部ね。

 

『西洋美術の歴史』シリーズ

 

イメージ史の棚の並び

 

だからやっぱり、美術棚、落ち着くわー。ホームに来た感じで(笑)

──ホームはここなんですね〜。

だから、このホームが、人文とつながってほしいなあ、という気持ちが私個人としてはあるってことですね。私の関心は、9階と4階の間にあるのでね。

──なるほど。でもつまり、ホームだと、もうすでに持ってる本が多いということですよね。

そうですね、だから正直知ってる本ばっかりというところもありますね。
あと、このフロアって、洋書屋と、画集とかグラフィック感のある大型本の棚とか、実用書に近い本なりグッズなりがたくさんある中に、美学や美術史の棚が島になってちょこんとあるから、たとえばデザイン理論なんかもちょっと孤立してしまっている感じがあって、私としては惜しいんですよ。そこはエールを送っておきつつ、今日は締めたいと思います。

 

「落ち着くわー」

 

 

あ、このエスカレーター脇のいい場所に、カズオ・イシグロの洋書のフェアをやってますね。

──カズオ・イシグロについてはどうですか?

いやー。小説を読んでないんで、まずこれから映画を観たいと思っていて。とりあえず『日の名残り』のBlu-rayを買ったとか、そういう「いかにも」な感じで(笑)。だから私は「原作派」ではなくて「アダプテーション派」であるということが分かってしまって。これが今日のオチでしょうかね(笑)。文学から離れてしまった人間なんだなあ、っていうことを、カズオ・イシグロへの関心の在り方で思い知らされてしまった感じですね。『私を離さないで』も、『日の名残り』を観たあとに買おうかな、と。だからまずBlu-rayで2本、映画の方を観てから小説かな、と。完全にアダプテーション派になっているっていう(笑)。あ、でも前年にノーベル文学賞を取ったボブ・ディランは普通に聴いてましたけど(笑)。

──映画が面白ければ原作を読む、という?

『日の名残り』は、イギリスのヘリテージ映画と言われるもので、過去のノスタルジーを題材にした映画ジャンルとして注目されていて。私の『視覚文化「超」講義』での「ノスタルジー」の議論も、本当は、カズオ・イシグロの映画とかで、厚みを与える必要があったな、と気付いたんです。

──おお、すごい、そこにつながるんですね。すごい面白そうですね。

そうです、一応そこは、単に映画版がいいとかそれだけではないですよ。その時に山崎貴とかの日本版ノスタルジー映画のやり方と比較することで考えることができる、と。それぐらいには一応考えてるんですよ(笑)。ただまあ、「原作派」ではあまりないかな、と。

 

ノーベル文学賞受賞にふさわしく世界文学としてのカズオ・イシグロを実感できる洋書版の並び

 

 

そんなこんなで、今回もたっぷり2時間ほどかけて見てまわりました。

本日石岡さんが一番欲しかった本は──?

 

 

 

 

 

 

購入決定の瞬間。「今日はこの本が一番でした」

 

 

 

やっぱり「象徴的な本」ということだとすると、14年ぶりに重版された、江川隆男さんのドゥルーズ研究の『存在と差異―ドゥルーズの超越論的経験論』、これになってしまうな、と。日本人によるドゥルーズ本がたくさん出ている中で、この本の重版は、地味に重要なニュースとして特筆したいですね。

「読みたいのに読めない」という状況が長く続いていた本であり、今まで古本屋で1万数千円の値段がついて、Amazonの釣り上げの犠牲に合いまくっていた本を、こんなふうに目立つところに出しているっていうのが、このお店の特徴的なところだと思うし、やはり国内随一だと思います。そういう意味で象徴的だと言えるんじゃないでしょうか。ということで、今日はこの本にしたいと思います。

 

 

 

 

今回は、時間切れで地下1階フロアのマンガ、アニメ、ゲームが見られず、文字数の都合で惜しくもいろいろ割愛しながらお届けしたのですが、それでもさらに前回よりも文字数が増えてしまいました。また、前回Twitterで石岡さんに訪ねてほしいお店をリクエストしてくださった方、ありがとうございます!  引き続き、石岡さんに訪ねてほしい売り場や棚ジャンルのリクエストもお待ちしていますので、Twitterでぜひご希望をお寄せください。

 

 

(おまけ)
「江川さんは今は立教の先生ですが、私が東京都立大学の学生だった時に、江川さんが哲学専修の助手をやっていて、お世話になった方なんです」、と石岡さん。
「今日はこの本を選んだんだけど、先ほど見ていた〈異貌の人文学〉シリーズの高山宏さんもそうですが、影響を受けた方々の本をいろいろ見て、学部時代をちょっと思い出しましたね。その時の関心とか、その頃の本の探し方が、少し蘇ってきたりして」

いい出会いでしたね!

 

(2017年11月取材)

取材協力:ジュンク堂書店 池袋本店
お店DATA
東京都豊島区南池袋2-15-5
営業時間/月~土…10:00~23:00 / 日・祝…10:00~22:00
https://honto.jp/store/detail_1570019_14HB320.html

 

 


 

 


視覚文化「超」講義

石岡良治=著
発売日:2014年06月26日
四六版|336頁|定価 2,100円+税|ISBN 978-4-8459-1430-2

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