第10回目:HMV&BOOKS SHIBUYA 幸 恵子さん | かみのたね
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2019.02.22

第10回目:HMV&BOOKS SHIBUYA 幸 恵子さん

書店員さんがオススメするフィルムアート社の本 / 幸 恵子

フィルムアート社は会社創立の1968年に雑誌『季刊フィルム』を刊行して以降、この50年間で540点を超える書籍(や雑誌)を世に送り出してきました。フィルムアート社の本と読者をつないでくださっている全国の目利きの書店員さんに、オススメのフィルムアート社の本を紹介していただく本連載。今回はHMV&BOOKS SHIBUYAの幸恵子さんにオススメ本を紹介していただきました。

 

『フリーカルチャーをつくるためのガイドブック クリエイティブ・コモンズによる創造の循環』

ドミニク・チェン=著
四六判|312頁|定価 2,200円+税|ISBN 978-4-8459-1174-5

 

この本のタイトルに掲げられているフリーカルチャーとはなにか。

本書の冒頭には「インターネットの普及によって可能になった新しい創作と共有の文化を推進する運動の総称」と書かれている。

では、フリーカルチャーの「フリー」とはなんのことだろう。

フリーは無料という意味で使われることもあるが、ここでのそれは自由のことを指す。インターネット社会から生まれたフリーカルチャー。その背景のひとつに、リチャード・ストールマンのフリーソフトウェア運動がある。ストールマンの言葉を借りるならば、自由とは「当たり前の権利」ではない、ゆえに「軽視してはならない」もののようだ。

そして、この自由な文化を推進するものに、クリエイティブ・コモンズという活動がある。

著者は、これらの理念や活動、実践について、クリエイティブ・コモンズの提唱者ローレンス・レッシグの議論やその起源を辿りながら丁寧に追いかける。その中で、「創造を行うこととは常に先人の作りあげた構築物の上に自分の貢献を付け足すこと」という考え方を背景に持つフリーカルチャーの思想は、インターネットだけにとどまらず、テクノロジーやアート、政治、経済、法律など、わたしたちの社会の構成要素がどのように変革していくのかに深く関わるものであるということが明らかになっていく。

それらの議論を読みながら、わたしは著者の語り口に興味を持った。

そこには、なにかを否定したり賞賛したりするよりも、自分の考える未来を作るという希望とそれを実践するための知恵と勇気のある態度がある。それは本書の大きな魅力となっているだけでなく、私たちの生活のあらゆる場面においてとても重要なことなのではないだろうか。わたしは今もそのように考えている。

本書の刊行時に、ネルソン・グッドマンの著書『世界制作の方法』からタイトルを拝借し「あたらしい世界制作の方法」と題した選書フェアを行った。その選書に寄せてのドミニク氏のコメントに「世界は一方的に与えられるものではなく、個々の存在によって作られるものである」との一文があった。

刊行当時と比べ、現在の社会を取り巻く環境には変わったことも数多あるが、それでもなお、個々の存在であるわたしたちが、自らどのような未来を選び作りだしていくのかという、自由とはなにかとの問いと試みはこれからも続いていくのだろう。

そして、それらの活動は、わたしたちが決して手放してはならないものなのだ。

プロフィール
幸 恵子ゆき・けいこ

1971年生まれ。大学卒業の後、劇場計画の研究補助、雑貨販売、珈琲豆の焙煎、演劇関係の事務局アシスタントなど職を転々しておりましたが、本屋だけは長く続いています。書店歴は、渋谷で12年半、異動した池袋で4年ほど。2015年からHMV&BOOKS SHIBUYA6Fフロア書籍担当。

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