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2019.08.15

「「No Capitalism」|「セーラームーン」の曲で踊る|住む所がない! 2019.06.01-06.15」

ベルリン狩猟日記 / 千木良悠子

「No Capitalism」

6/1(土)
て起きたら体が温かかった。昨日、ベルリンの街中で、テオたちと一緒に踊ったからだ。単なる疲労ではない充実感があった。毎日こんなふうだったらいいのに。この日の夜は、俳優のますだいっこうさんの出演する芝居を見に行く予定だったが、その前に時間があるのでまたテオたちの「Amalgam SoloFest」に参加しようと思った。彼らのWebサイトで検索すると、プレンツラウアーベルク地区のKulturebraureiで午後からまた路上パフォーマンスをやると書いてあったので、行ってみることにした。

Kulturebraureiは、昔のビール醸造所を文化施設にした場所だ。カフェや映画館やライブハウスのある茶色い煉瓦仕立ての敷地内を、テオたちを探してウロウロ歩いていると、派手な色の服を着て、炎天下で路上のアートオブジェにへばりついている人々が3、4人いた。

近づいて行くとテオが私を認めて、また金色のシートを貸してくれた。それを振り回しながら無音の中で少し踊る。踊りというほどのものでもない。ただ強い風の吹く中でなんとなく体を動かしているだけだが、普段の動きとは明確に違う。普段どこか萎縮して生きている、私のような人間には、心地のよい時間だ。地面に尻餅をついたら、ジャージのお尻に誰かが吐き捨てたガムがへばりついて取れなくなった。

Kulturebraureiを出て、次のパフォーマンス場所の劇場「Dock11」に向かう。太陽がぎらぎらと照りつける中、リーダーのTeoは小道具を山盛りに載せた台車を引きながら、メンバーの先に立って歩いていく。途中、「Capitalism」という、うがった名前のお洒落なバーの前を通り過ぎたとき、テオはすぐさま「No Capitalism、No Consumerism、No Commercialism」と呟き、何か詩のような独白をしていた。移動中もパフォーマンスは続いているのだ。踊るようにフラフラと歩く私たちの横を、舌打ちをしながらすれ違う通行人もいた。去年の秋にこの界隈に一ヶ月ほど住んでいたから、知っているはずの町並みだったが、景色がまったく違って見えた。やっとベルリンが本当の顔を見せてくれた。

かつては東ドイツであり、壁崩壊直後はもっと荒れ果てていて、スクワット(不法占拠)も多かったというプレンツラウアーベルク地区。だが今や、綺麗なカフェやバーやレストランが立ち並び、富裕層の住む街へと生まれ変わりつつある。街が変われば人々の性質も変わる。台車を引きながら、日常の辺境を歩く「変な」ダンサーたちを、「普通の」人たちが白い目で見る。これが今のベルリンなのかもしれない。

「Dock11」はダンスの劇場で、プレンツラウアーベルク地区の真ん中にありながらも、アナーキーなベルリンの雰囲気が今なお濃厚に漂っている。だが公演も行われていない、真っ昼間の中庭には誰もいなかった。私たちは観客もほとんどないまま、しばらく踊ったが、やがてパフォーマンスの終了時間がやってきた。Amalgamのメンバーたちは、夜に劇場でのダンス公演が控えているために休憩をかねて一時解散。私はテオとベトナム料理を食べた後、Theaterhaus Mitteに芝居を見に行った。

俳優のますだいっこうさんは、私が演出する芝居に日本で出てもらったこともあるのだが、かなり前にベルリンに移住して演劇活動を行っている。この日はいっこうさんが長く参加している劇団「WER IST JACK」の新作公演で、彼はドイツ語台詞を完璧にこなしつつ主役を演じていた。本人のキャラクターに当て書きしたと思われる、主人公の内面が丁寧に描かれている。このような表現の場所と仲間を得て活動しているいっこうさんを眩しく、羨望の眼差しで見た。

観客で来ていた、ベルリン在住の舞踏家である稲川光さん、稲川諒さんと一緒にTheaterhaus Mitteを出たら、近くのシュプレー川沿いにお祭りの出店が出ていた。3人で、橋の上でビールを飲んでから帰る。

6/2(日)
イケルンのカフェ「Coco Liebe」で、クリストフの取りかかっている日本語エッセイの仕事を手伝った。ここにはスシ・バーガーという名物料理がある。

そのままクリストフと、マヤと三人で、クロイツベルクの「Private Club」というライブハウスに行った。最近クリストフのお気に入りだという、オーストラリア出身のバンド「Tropical Fuck Storm」のライブを見たのだ。メンバー4人のシンプルなロックバンドなのに、巨大なスタジアムでのライブみたいな迫力だった。クーラーがないから、ライブハウス内はものすごい暑さだった。

 

「セーラームーン」の曲で踊る

6/3(月)
波がやってきているらしい。ベルリンのアパートはたいてい石造りなので建物の中は涼しいはずなのだが、私が住んでいるのは、最上階の屋根裏部屋。熱気がこもって日本の夏以上の暑さ。しかもクーラーがない。ある日思い立って、めんつゆを手作りして以来、冷たいそばかうどんばかり食べている。

40度を超えるという予報を聞いたので、この日は一人でHumboldthainという公園の中の公営プールに行った。水が冷たくて気持ちよかったが、プールサイドで蜂の死骸を踏みつけてブルーな気分になったので早々に帰って来た。

それにしても、プールなんか行って呑気に暮らしているけれど、この先引っ越しもあるし、ビザの更新もあるし、いったいどうなるんだろう。夜中、不安に苛まれて眠れなかったのだが、ちょっと前に日独会館の図書館で、無料で拾った倉橋由美子の「婚約」という本を読み始めたら面白くなって、やや気持ちが軽くなった。

6/4(火)
Rosenthalerplatzのカフェでクリストフと待ち合わせ、また彼の仕事を手伝う。それから近くのWeinberg公園の芝生に座り、学校の宿題を解くのを手伝ってもらった。ちょうど「分離動詞」を習っているところだが、全然覚えられない。そのまま学校に行った。

6/5(水)
気道に行く。帰りにクロイツベルクのベトナム料理屋でエビ入りの冷たい麺を食べた。ベルリンは海なし町なので魚介を食べられる機会が少ない。エビだ!と興奮して食べたんだけれど、なんとなくこのせいでお腹を壊した気がする。午後、クリストフにドイツ語を習いにまたノイケルンへ行く。コメニウスガルテンという小さな公園で草地に座って、マヤが焼いたケーキを食べながら、ドイツ語を教わった。

6/6(木)
雨で雷が鳴っている。

ドイツ語学校に行く。映画館Arsenalで映画『舞台リハーサル』をやる日だったので、途中で抜けた。ヴェルナー・シュローター(Werner Schroeter)監督が、ナンシー演劇祭を撮ったドキュメンタリーで、ピナ・バウシュや舞踏家の大野一雄も登場する。すでに一度見た映画だったが、全然覚えていなかったのでものすごく新鮮な気持ちで見た。終映後には、批評家と映画研究者のトークもあった。同じ回に見に来ていた、映画研究者の渋谷哲也先生と近くのドイツ料理屋でビールを飲んで、帰宅。

6/7(金)
パートの階段を降りてすぐの駅からトラムに乗ると、5分ぐらいでSeestraßeという駅に行ける。大きなスーパーやドラッグストアがいくつかある。ここのトルコカフェで、バクラヴァというトルコのお菓子を食べてみたら、気に入った。生地に甘いシロップが染み込んでいて、噛むとジュワッと染み出てくる。考えてみればトルコについて何も知らない。ベルリンにはトルコ移民とベトナム移民が多いのだが、これは壁崩壊前に、西ドイツはトルコから、東ドイツはベトナムから労働力として大勢の移民を受け入れたことに端を発しているらしい。今ベルリンに住んでいるトルコ移民はその二世三世だったりするのだ。今まであんまりトルコ料理のレストランに行く機会はなかったのだが、この強烈に甘いバクラヴァと濃いトルコ紅茶の組み合わせにはハマりそう。持ち帰り用のも三つ買って帰った。

6/8(土)
セキユウコさんから、新作公演「SHEa:MAN」のリハーサルを「Ufer Studio」でやるから見学においで、とメールをもらったので、イソイソと行く。Ufer Studioは今住んでいるアパートから歩いて3分の所にあるのだ。

たどり着くと、通し稽古が始まろうとしていた。こないだベルリンの街中で一緒に踊ったTeoとカセキさんと、あと2人のパフォーマーが準備をしているが、妙に物々しい雰囲気だ。

「観客には、本番中にもアクティングスペースを自由に動き回ってもらうつもりだ」と言われたので、スタジオの真ん中の床に座り込んでリハーサルを見学した。

演目は幾つかのパートに別れていた。まず最初のパートでは、演者たちが紐や布や鳥の羽などの小道具を自分の体に括り付け、儀式のようなムードの中、激しく踊り始める。続いて、パフォーマーの一人による歌や、音楽が入るパート。その後、自己啓発セミナーのガイドが「自分を解放しましょう」だの「リラックスして」だのと喋っている声が流れるパートへと移行する。演者たちは音楽や、ナレーションと、時には別次元にいるかのように、時には抗うように反応して、踊りを続ける。

中盤のパートで、パフォーマーの一人、前述のテオが床に散らばった紙に書かれた文章を読む一幕があった。ここで読まれるのは、観客が事前に書いた文章で、「ヒーロー」というテーマを与えられてのものだ。私もリハの前に書かされた。テオが床から紙を拾い上げ、ポエトリーリーディングをする詩人のようにそれを読む。私は以下のような文章を書いていた。

「子どもの頃に、テレビでヒーロー戦隊ものの実写ドラマをよく弟と見たが、5人ぐらいいるうち、女のヒーローは一人だけだった。しかもピンクのセクシーな衣装を着せられていて、戦っても弱そうだし、なぜか他のメンバーと別格扱いだった。私は、世の中の男女の割合は半々なのに、なんで女のヒーローは一人だけなんだろうといつも疑問に思っていた。それを男女の不平等だとはまだ思わなかったが、なぜか募るばかりの違和感を押し殺して、大人しくしなければいけないと感じていた。」

「ヒーロー」というのは、この演目の重要なテーマのようである。パフォーマーたちは、言葉に合わせて自分の力を誇示するヒーローのような動きをしたり、力みすぎて転んで床をのたうち回ったりする。そこへ、音楽がかかる。唐突だが、日本のアニメ『美少女戦士セーラームーン』の主題歌だ。このパートにはカセキさんによる振付がついている。日本語歌詞の曲が流れた後、韓国語やフィリピンのタガログ語などなど、各国の言葉でうんざりするほど繰り返し同じ曲がかかる。パフォーマーたちは息も絶え絶えになりながら、踊りを続ける。カセキさんが私の手を引っぱり、「一緒に踊って」と言った。どうやら、観客を巻き込んで一緒に踊らせる演出らしい。見よう見まねで、不器用にカセキさんのマネをして踊った。

やっとのことで歌のパートが終わって床に座り込んだ。いつのまにか円形に並んでいるパフォーマーと観客たち。カセキさんが一人の手を取り、別の誰かの前に連れて行く。そして体の一部を他の人の体に触れさせる。さらにもう一人、連れて行って手を取り、そっと体に触れさせる。何も起こっていないはずなのに、それだけでパフォーマーの一人が涙を流していた。いきなりのエモーショナルな展開に私は興醒めしながらも、食い入るように彼女らを凝視した。なんで泣いてるんだ? その場にいた全員が少しずつ体に触れ合いながら、小さな輪になっていく。私はテオと足の裏どうしを合わせた格好で床に座った。テオも泣いているような怒っているような、変な表情をしていた。後でカセキさんから聞いたところによると、これってセラピーの専門家なんかが使うメソッドを流用して作った場面だそうで、これを行っていくと、輪の中にいる人々が、自分の実際の家族、兄弟姉妹や両親に見えてくることがあるらしい。周囲の人を、各々の家族構成に当てはめて見てしまう瞬間があるという。本当か?

その後また少し踊りのパートがあって、最後にパフォーマーたちは全員、スタジオの入口から屋外へと出て行った。青空の下でほっと安堵のため息をつく。濃い時間だったなあ。リハーサル終了後、すぐに解散となった。

テオと、カセキさんと、カセキさんの古くからの友人であるというドキュメンタリー監督のPeter Zachと、Ufer Studioの隣にあるカフェのテラスで4人でビールを飲んだ。聞けばこの公演、メンバーどうしの衝突がかなり激化していて、危機的状況らしい。まあこれだけ心の内側に触れ合うような濃厚な稽古を行っていれば、それも当然なのかもしれない。ビールを飲んでいる間、カセキさんとテオも少し言い争いになりかけていた。ちなみにテオは、女性から男性になることを選んだトランスジェンダーのダンサーなのだが、私はこの日間違って、テオのことを咄嗟に英語でSheと言ってしまって、ひどく後悔した。トランスジェンダーの友人が今まで多くなかったし、英語でHeだとかSheだとか呼ぶのにも慣れていなかったのだ。瞬間的に気にする素振りをしたテオを見て、自分の不用意さを恥じると同時に、三人称を男女で分ける英語ってなんて不自由なんだと怒りを覚えた。誰だ、英語作ったやつ。

テオが帰ってしまった後、カセキさんが「この公演はどうなることやら」とため息をついているので、「家に来てご飯を食べませんか」と誘ってみたら来てくれた。なんてったって今日のスタジオは家から三分のところにあるのだ。ワインを買って帰り、簡単な夕食を作って出したら、カセキさんは喜んでくれた。会話も弾んで楽しかったのだが、帰る直前に「足が攣った」と言って、床に寝転がって痛みにのたうち回っていた。きっとお疲れだったのだろう。カセキユウコさんは1995年から20年以上ベルリンで活動を行っているダンサーだ。いったいどれだけの物を見聞きしてきたかと思うと、頭が下がる。

6/9(日)
本から合気道の達人、福岡市の「祥平塾」道場長・理事長の菅沼守人先生がやって来た。私の通っているベルリンの合気道道場は「祥風館」というのだが、道場長のOmer Luskyをはじめ、塾生の皆は、数ヶ月も前から先生に教えを乞うのを心待ちにしているようで面白いほどソワソワしていた。

いつもの道場と違う、ミッテの大きなトレーニングルームに行くと、100人近い稽古生が集まっていた。「祥風館」の稽古生に加えて、日本から菅沼先生と一緒に来た人もいれば、ヨーロッパの他の国からも数多くの人が集まっていた。

私はまだ習い始めたばかりだったので、見学気分で菅沼先生の稽古に参加したのだが、見よう見まねで稽古している間に、二回も先生に直接教えてもらえる機会を得た。「小手返し」の時は相手の手の薬指と小指の間の窪みにこちらの手を重ねて、親指で押すのだと言われて、やってみたら面白いほど簡単に相手を倒せる。

ベルリンで合気道を教えてくれているOmerはよく、いかに菅沼先生の技が素晴らしいか、稽古を体験してほしいか、興奮気味に話していた。私はあまりに初心者すぎてよく事態が分かっていないが、おそらく日本にいたってなかなか教わることができないような雲の上の人、本物の達人なのだろう。魔法使いみたいだった。

午後、クリストフが、クロイツベルクのカーニバル「Karneval der Kulturen」に連れてってくれた。これは一年に一回開かれる盛大なお祭りで、世界各国の衣装に身を包んだ人たちがクロイツベルク地区の道路を踊りながら歩き回るのだ。「そんなに興味ない」と私は言ったのだが、クリストフは「見たことないなら、見たほうがいいよ。悠子はきっと好きだと思う。毎年行かなくてもいいけど」と言う。結果的には、カイピリーニャを飲みながら、世界各国の踊りを見ることができて楽しかった。クリストフは私よりも私の好みや性格がよく分かっているみたいだ。

 

住む所がない!

6/10(月)
セキユウコさんが、街に公演「SHEa:MAN」のポスターを貼りに行くので手伝ってくれないか、と言う。待ち合わせの場所に行くと、ポスターと刷毛とバケツを手にしたユウコさんがいた。バケツには小麦粉を水に溶いて作ったという糊が入っている。クロイツベルクやノイケルンを歩き回って、街のあちこちにポスターを貼った。手伝ったお礼とのことでラーメンを奢ってもらった。

6/11(火)
リストフに、ドイツ語学校の近くのカフェに来てもらって、ビザ取得のための相談をする。気が遠くなるほど複雑な書類が各種必要らしい。

6/12(水)
場「Dock11」にて「SHEa:MAN」の稽古があるというので顔を出す。4人いたはずのパフォーマーが2人降板して、出演者がカセキさんとテオの2人に減っていた。作品はすべて作り直し。だが2人とも、腹を括ったのか前回より生き生きして見える。私は、本番でも「セーラームーン」の曲で踊ることになったので、スマホのビデオで撮影してカセキさんの振付を一生懸命覚えた。この日、通し稽古の中で最後のテラピーのパートをやっているときに、私自身が、自分の家族のことを思い出した。輪の中央でうなだれているカセキさんが、遠く日本にいるうちの母親に見え、テオが弟に見え、もう一人稽古に参加していたダンサーの男性が父親に見えてきたとき、なぜだか涙がぽろりと零れた。別に感情的になっていたわけではなかったのに、不思議なことだ。本番は来週である。いったい何が起こるのだろうか。

6/13(木)
月20日から住むことになっている(と思い込んでいた)、クロイツベルクの家の貸し主のタニアからまったく連絡がない。「鍵はいつ貰いに行ったらいいの?」とマヌケなメールをしたら、返事が来て、なんと「もう他の人に決まった」と言われてしまった! 私とは、契約書類も交わさないまま、連絡が途絶えたので、住む気はないと思われていたらしい。それは困るとタニアに抗議したが、「もう決まってしまった」とすげない返事である。住民登録の用紙を書いてもらったことで安心して、ちゃんとその場で契約書を交わさなかった私が悪いのだが、タニアも「なんで契約もしてないのに住民登録が必要なんだろう?」と疑問に思いながら放っておいたと言うから、両方ともすっとぼけている。内見の日はニコニコ笑顔で別れた記憶があるが、私も彼女も英語が上手くないため、完全なるディスコミュニケーションだったのだ。

どうしよう。あと一週間で住む所がなくなる。夜、渋谷哲也先生にお誘いを受けて、現代音楽のコンサートに行く。先生の友人である、音楽家の西風満紀子さんの曲が、プレンツラウアーベルクのプラネタリウムで演奏されるというイベントだった。顔面蒼白で「住む家がない」と言う私の話を二人とも気の毒そうに聞いてくれた。西風さん、「もしかしたら秋から私の家を貸し出せるかもしれない」と言う。焦る心とは裏腹に、その夜奏でられた西風さんの楽曲は素晴らしかった。プラネタリウムのドームに星々のCGが映し出されるのとともに、どこか日本の海や山の風景を思い起こさせる現代音楽がピアノや弦楽器によって生演奏された。プラネタリウムの宇宙の星々の所まで、遥か日本の海から真っ白い霧が流れてきたような錯覚が起こって、しばし心配事を忘れた。

6/14(金)
ンターネットでアパート情報を探しまくる。

夜、田中奈緒子さんの家に招かれ、手巻き寿司をいただく。私は、枇杷のコンポートを作って持って行った。近所の八百屋で枇杷のパックが売っていたので喜び勇んで購入したのだが、まったく食べきれなかったのだ。こちらの食品はどれも一パックが大きい。

来週から住む所がなくなる、という私の話を、奈緒子さんも親身になって聞いてくれた。この時も相当不安であったが、後から考えると、まだまだ序の口。住居に関しては、この先坂道を転がり落ちるように状況が悪化して行くのである。

6/15(土)
オが7月にダンスのプロジェクトで旅行に行くので、その間家に住んで良いと言う。昼頃、テオの家を見せてもらいに行った。テオは犬のステラを相棒に、部屋の中でもベランダでもたくさんの植物を育てて暮らしていた。一ヶ月と少ししか居られないけれど、緊急事態だからとりあえず借りることにしようとこの時は思って、テオに「借りたい」と言った。

夕方、Acker Stadt Palastという劇場に、稲川光さんと稲川諒さんの舞踏公演「Schattentor」を見に行く。二人は4Rudeという舞台芸術ユニットを組んでベルリンで活動している。舞踏の公演を久しぶりに見たけれど、お二人の豊富な経験値と技術の高さが伺える、ハイクオリティな舞台だった。今まで見てきたドイツの演劇と比べると、造りがもっと細やかで、動き方の根本から西洋演劇と違う。ベルリンで舞踏が人気がある理由が分かる気がする。

この日観客で来ていた、ドキュメンタリー映画作家でカセキユウコさんの古くからの友達であるPeter Zachと映画監督のヴェルナー・シュローターの話で盛り上がった。せっかくドイツに来たにもかかわらず、今までシュローターやファスビンダーの話ができる友人が全然いなかったのだが、Peterはリアルタイムで彼らの映画をずっと見て来た世代であり、友人がシュローターの晩年の作品の撮影を手がけたりもしているらしい。Peterいわく、今のドイツの若者はファスビンダーやシュローターの映画を知らないのだそうで、私のような日本人が彼らのファンであるのは驚きだと言う。Acker Stadt Palastの中庭でお喋りが止まらなくなった。Peter自身は、90年代のベルリン・ミッテの風景や人々を捉えたドキュメンタリー映画を撮っていて、それにはカセキさんも出演しているという。壁崩壊直後の90年代のベルリンの映画、それはぜひ見たいと言ったら、来月上映会があるからそこで見られるよと言われた。

 

<編集Tの気になる狩場>

【映画】
第41回 ぴあフィルムフェスティバル
2019年09月07日(土)〜21日(土)
https://pff.jp/jp/
会場:国立映画アーカイブ

イメージフォーラム・フェスティバル2019
東京会場:2019年09月14日(土)〜09月23日(土)
http://www.imageforumfestival.com/2019/pre.html
会場:シアター・イメージフォーラムほか

逝ける映画人を偲んで2017-2018
2019年06月29日(土)〜09月01日(日)
https://www.nfaj.go.jp/exhibition/yukeru201906/#section1-2
会場:国立映画アーカイブ

*封切作品
2019年08月23日(金)公開
『火口のふたり』荒井晴彦監督 http://kakounofutari-movie.jp/
『ロケットマン』デクスター・フレッチャー監督 https://rocketman.jp/

2019年08月30日(金)公開
『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド』クエンティン・タランティーノ監督 http://www.onceinhollywood.jp/

*公開中
『ライオン・キング』ジョン・ファヴロー監督 https://www.disney.co.jp/movie/lionking2019.html
『よこがお』深田晃司監督 https://yokogao-movie.jp/
『世界の涯ての鼓動』ヴィム・ヴェンダース監督 http://kodou-movie.jp/
『マーウェン』ロバート・ゼメキス監督 https://www.marwen-movie.jp/
『ニューヨーク公共図書館 エクス・リブリス』フレデリック・ワイズマン監督 http://moviola.jp/nypl/

【美術等展示】

あいちトリエンナーレ2019
2019年08月01日(木)〜10月14日(月・祝)
https://aichitriennale.jp/about/index.html
会場:愛知芸術文化センターほか4エリア

映画雑誌の秘かな愉しみ The Discreet Charm of Film Magazines
2019年09月07日〜12月01日
https://www.nfaj.go.jp/exhibition/filmmagazines/
会場:国立映画アーカイブ

モダン・ウーマン―フィンランド美術を彩った女性芸術家たち
2019年06月18日~2019年09月23日
https://www.nmwa.go.jp/jp/exhibitions/2019modernwoman.html
会場:国立西洋美術館

伊庭靖子展 まなざしのあわい Yasuko Iba, A Way of Seeing
2019年7月20日(土)~10月9日(水)
https://www.tobikan.jp/exhibition/2019_yasukoiba.html
会場:東京都美術館

【書籍】
江川隆男『すべてはつねに別のものである:〈身体ー戦争機械〉論」』(河出書房新社) http://www.kawade.co.jp/np/isbn/9784309249216/
フェルナンド・ペソア『不安の書 増補版』(高橋都彦訳/彩流社) http://www.sairyusha.co.jp/bd/isbn978-4-7791-2604-8.html
ジム・トンプスン『バッドボーイ』(土屋晃訳/文遊社) http://www.bunyu-sha.jp/books/detail_badboy.html