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2020.01.23

第3話 花粉対策の日の話

〇〇の日の話 / 大前粟生

 小学五年の冬、朝の集会で校長がいった。
「みなさん今日がなんの日か知っていますか? 1月23日は花粉対策の日です。みなさんはまだ若いから大丈夫かもしれないけど、花粉症というのは本当につらいものです。春に向けて早めの対策が、特に1月2月3月から対策をしておくことが肝心です。だから、1と2と3が並ぶ1月23日は花粉対策の日なんですね」
 校長が話をしているあいだに先生たちは体育館の前に集まって、校長と手を繋ぎ出した。世界平和への歌でもうたうみたいだった。前に出ず、腕を組んで校長たちを見ている先生もいる。
「だからわたしたち花粉症に苦しむ大人はみなさんにお願いがあります。花粉症じゃないひとたちも、花粉対策をしてくれませんか? 校内に花粉が侵入しないよう、いまのうちから花粉がつきにくい服を着たり、できるだけ屋外に出ないようにして、春に備えていてくれませんか?」
 トン、トン、トン、と音がした。生徒たちの後ろに立っていた教頭が足を高く上げ、下ろし、床を踏み鳴らしていた。本当はもっと威圧的な大きな音を出したいのだろうけど、体育館の床の関係で、かわいらしい音しか出ていなかった。
「なんなんやその言い分は!」教頭が手をメガホンのようにして叫んだ。「まるで花粉症じゃない生徒や先生方が悪いことをしているみたいじゃないか! ねえ! みなさんもそう思いますよねえ?」
 別に私はそんな風には思わなかった。他のひとも、そうだったみたいだ。教頭の言い分に賛成して声を上げるひとはいなかった。教頭は自分が校長になれなかったことを嫉んでいるんだよ、と先生や親たちは噂しているのだけど、今回の件で確実になった。
みんな、教頭にひいていた。教頭のいっていることの方がインパクトがあったから、校長の花粉対策の訴えはあまり変なことだとは思われず、受け入れられることになった。生徒も先生も、多くのひとが花粉がくっつかない素材の服を着て、休み時間には屋外に出ないようにして春がくる練習をした。
「子どもたちを外であそばせないっていうんか! あそぶ権利のはくだつやーっ!」と教頭は、休み時間になるとひとりプラカードを持ってグラウンドで叫ぶのだった。見ていて、痛々しかった。その印象だけで、教頭のことをかわいそうに思い味方する先生が何人も出てきた。
教頭は学校のフェイスブックに、「外であそぶ自由を」という記事を投稿し、校長はそれへの反論を投稿した。学校の同じアカウントで行っているので意味不明だった。地方新聞が写真を撮りにくるから、校長派と教頭派に分かれて体育館で罵り合いをした。
 これでもっと対立が深まりでもしたら、落語みたいだな、と思った。最後には教頭が、ずっと屋外に出ていたがために花粉症になってその苦しさを知って和解するというオチがつくのだ。本当にそうなった。
 もし教頭が花粉症にならなかったらどうなっていたのだろう。争いが続くとどうなっていたのだろう。

プロフィール
大前粟生おおまえ・あお

1992年、兵庫県生まれ。京都府京都市在住。2016年、「彼女をバスタブにいれて燃やす」が『GRANTA JAPAN with 早稲田文学』の公募プロジェクトにて最優秀賞に選出され小説家デビュー。同年、「文鳥」でat home AWARDの大賞を受賞する。2017年には、第2回ブックショートアワードで大賞に輝いた「ユキの異常な体質 または僕はどれほどお金がほしいか」が、塩出太志監督により短編映画化された。著書に『のけものどもの』(惑星と口笛ブックス、2017年)、『回転草』(書肆侃侃房、2018年)、『私と鰐と妹の部屋』(書肆侃侃房、2019年)がある。2020年3月に、新刊『ぬいぐるみとしゃべる人はやさしい』(河出書房新社、2020年)が刊行予定。

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