第11回:はじまる | かみのたね
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2022.04.12

第11回:はじまる

本屋な生活、その周辺 / 高橋和也

2013年、東京・学芸大学の賑やかな商店街を通りすぎた先、住宅街にぽつんと、SUNNY BOY BOOKSは誕生しました。店主の高橋和也さんとフィルムアート社のおつきあいが始まったのはとても最近なのですが、ちょうど『ヒロインズ』を売りまくっていたり(250冊以上!)、企画展「想像からはじめる――Solidarity-連帯-연대――」が全国の書店を巻き込んだ大きなうねりとなって巡回されたり、すごいことを淡々と当たり前のようにやっていらっしゃる時期で、個人書店の底力というか、小さいゆえの機動力とか社会的な意義というか、改めて実感したのを覚えています。

以前のインタビューで「東京だからやっていける」とおっしゃっていた高橋さんですが、世の中の状況も変わり、決して楽観的ではないけれど、東京はもちろん地方でも本屋を始められる方がとても増えました。背景には、どこで買っても同じはずの本なのに、「大好きなお店を応援したいからここで買おう」と思う読者がすごく増えたことが大きいと感じます。SUNNYも特にコロナ禍初期に休業された際、心が折れそうなとき、お客さまからたくさんの激励を受け取って気持ちを保てたとのこと。だからこそ2021年2月に家族で沖縄に移住されることになっても、続ける意志が繋がれたのだと思います。

沖縄移住をすっぱり決断されたことといい、子供さんが生まれてからはより「生活」を大事にされる気持ちが強まったようにも感じます。ブレない軸を持ちつつも自然な流れに身を任せてきた高橋さんが、現実をどう受け入れ、これからどうなっていくんだろう、見守りたい方はたくさんいらっしゃると思います。高橋さんの考えややりたいことが少しずつ整理できるような連載になればいいなと思います。

気づけばロシアのウクライナ侵攻からひと月が過ぎ、新型コロナにまたもや変異株が登場したり、今住んでいるうるま市で地対艦ミサイル部隊設置計画が進んでいることを知ったりと、私たちを取り囲む世界はなんだか仄暗い森のようになってきているなと思う日々です。そんな中でも季節の変化だけは穏やかに見つめられることのひとつですが、気温も上がり夏の気配ができてきた沖縄は雨ばかりだった1、2月に戻ってしまったかのようにぐずついた天気が続いています。

少しでも気持ちを上げたいなと思い、気分転換も兼ねて雰囲気が好きだった物件を内見していたのですが、なんだかんだで3週間くらいの大家さんとのやりとりを経てこの度契約をさせていただくことになりました。喜びや希望というよりは、あー本当に決まったのか、というようななんとも不思議な感覚の中にいます。今までも気になる物件があればあちこち電話で問い合わせをしていましたが「本屋さん…商売になりますかね。もうちょっと場所を考えた方がいいですよ」と言われたり、「予約ですでに10件入っているので順番にご案内します」と言われるも連絡のないままという手応えのない感じが続いていました。それに今回連絡をしたのも一般住居用だったのでまったく期待をしていませんでした。「店舗用じゃないので無理です」で終わるかと思ったら「予約もないのでとりあえず内見してみますか」と不動産の方に言われ、現地を見ながら改めてここで本屋をやりたいということ、古民家ということで目立って傷んだ壁紙や床の改修工事をしたいことなどを伝えました。内装の変更点はダメもとだったので細かく希望を言っていたのですが、数日後に連絡が来た際にそのほとんどに許可が出ました。加えて大家さんが事業内容に興味を示してくれて、お店が出来たらぜひ行きたいとテンション高めにおっしゃっているという話も聞けて嬉しくなりました。ただ、透き通る海と沖縄らしい家が並ぶ集落にあって、こんなところで本屋ができたら夢みたいだなーくらいの気持ちで内見したので、話に現実味が帯びてくるにつれて正直ここで商売ができるのかという不安も生まれていました。どこでやるにしても生じる不安ではありますが、この手の気がかりをどう自分の中で解決するのかは難しい問題です。今まで見てきたものややってきたこと、歩んできた道のりを振り返ってもめちゃくちゃに的外れではないし、あとは自分を信じてみようと心の中で折り合いをつけて契約することにしました。けれどもその途端にニュースで増えるコロナの感染者数をみては「あー今やっても誰も来ないに違いない」と不安をぶり返しています。東京でお店をやりながらも毎日一喜一憂していたタチなので始まってからも同じようなことを繰り返しているのだろうとも思います。いまやれることをやろうと前を向き、親戚に紹介してもらった内装屋さんに連絡をしたり、融資の相談に行ったりしていますが、油断するとつい不安になっている自分がいて心が落ち着かないままでいます。

肝心な場所はどこなのか、というと沖縄本島の中部、那覇市内から車で1時間ほどにある海中道路を渡った先の浜比嘉島という小さな島になります。

「浜区」(島西部)と「比嘉区」(島東部)に大きく分けられ、島内人口は530名ほどでコンビニやスーパーもありません。先日、全沖縄古書籍商組合の皆さんに報告したときも直後は意外、未知、不安というような反応でしたが、「目的地になれたら長くできるかもしれない」というような声もいただけて少しほっとしました。あるのは自然と住むひとの生活という感じですが、こっちでお店をやるのなら家族との時間という土台の上でじっくり形を作っていきたいと思っていたのでちょうど良いような気もしています。また琉球開闢神話におけるアマミキョとシルミキョをはじめとした神々を祀っていることでも知られ、島内には拝所や御嶽うたきが点在しており別名では「神々の住む島」と呼ばれています。パワースポットとして認知されているので観光で来られる方も多いですが、自分の中で観光にきて本を買うイメージが湧かないので県内のあちこちからきてもらえる場所になっていけるかどうかが分かれ目かなと漠然と感じています。それに東京のお店を見てもコロナ禍以降、特にオンラインの利用が伸び続けている(日頃のご利用に感謝です…)のは24時間営業のもう1店舗があるようで当面のことを考えても安心材料になっています。

実店舗ベースで言うと人口約150万人(東京の約1/10)の沖縄で月に何冊か本を読み、ジンやリトルプレスにも興味のあるひとはどれくらいいるのか、数字ばかりに囚われるのは好きではないですが、想像しただけでも多くないはずです。しかし同時にジャンルレスに本を扱う個人の本屋というものにそもそも触れたことがなく身近に感じられていないというひとが大半なのでは、とも考えられます。その点は可能性だと思い、元々本や本屋に興味のあったひとにしっかりと本を届けながら、新しい層に本から広がる世界の幅や、本がいかに身近な存在でともにあるものなのかを感じてもらえたらという意気込みもあります。そのために考えているあれこれはありますが、何はともあれ浜比嘉島という沖縄らしい空気の中で沖縄本はもちろんのこと、県内で手にすることが難しい本やジン、アート作品に触れることができるギャップを場所の面白さに変えていく。まだあっちゃこっちゃに思考は飛び散っていますし、すきあらば不安が顔を出してきますが最後はシンプルに僕ができることをやっていこうと思っています。

というわけで、次回からは沖縄のお店についての構想と具体的な進行状況についてお知らせしていきます。

 次回2022年5月3日(火)掲載予定です
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