第14回:積み重ねること | かみのたね
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2022.06.14

第14回:積み重ねること

本屋な生活、その周辺 / 高橋和也

2013年、東京・学芸大学の賑やかな商店街を通りすぎた先、住宅街にぽつんと、SUNNY BOY BOOKSは誕生しました。店主の高橋和也さんとフィルムアート社のおつきあいが始まったのはとても最近なのですが、ちょうど『ヒロインズ』を売りまくっていたり(250冊以上!)、企画展「想像からはじめる――Solidarity-連帯-연대――」が全国の書店を巻き込んだ大きなうねりとなって巡回されたり、すごいことを淡々と当たり前のようにやっていらっしゃる時期で、個人書店の底力というか、小さいゆえの機動力とか社会的な意義というか、改めて実感したのを覚えています。

以前のインタビューで「東京だからやっていける」とおっしゃっていた高橋さんですが、世の中の状況も変わり、決して楽観的ではないけれど、東京はもちろん地方でも本屋を始められる方がとても増えました。背景には、どこで買っても同じはずの本なのに、「大好きなお店を応援したいからここで買おう」と思う読者がすごく増えたことが大きいと感じます。SUNNYも特にコロナ禍初期に休業された際、心が折れそうなとき、お客さまからたくさんの激励を受け取って気持ちを保てたとのこと。だからこそ2021年2月に家族で沖縄に移住されることになっても、続ける意志が繋がれたのだと思います。

沖縄移住をすっぱり決断されたことといい、子供さんが生まれてからはより「生活」を大事にされる気持ちが強まったようにも感じます。ブレない軸を持ちつつも自然な流れに身を任せてきた高橋さんが、現実をどう受け入れ、これからどうなっていくんだろう、見守りたい方はたくさんいらっしゃると思います。高橋さんの考えややりたいことが少しずつ整理できるような連載になればいいなと思います。

この連載が始まって、3週間という単位で最近のことを振り返させてもらっています。主に自身の周りのことについて、またはそこから視点を広げて繋がる出来事について、本を読んだり実際に身を置いてみて感じたことを書きながらお店の構想を練ってきました。そういう意味で、オープン準備を進める「本と商い ある日、」はどこまでも個人的なお店なんだな、と13回に渡り綴ってきた文章を読み返してみて思います。ここ数年改めてよく目にするようになった第二波フェミニズム運動のスローガンである「個人的なことは政治的なこと」(The personal is political )という言葉が頭をよぎりつつ、この個人的なお店はどこまで誰かの切実さに届くのだろうか。個人的なことが、個人的なままである方がいいこともある一方で、共有されお互いの認識を励まし合える喜びもあるはずで、その間を行ったり来たりできる場所になれるかなと、不安を抱えつつも黙々と内装作業をしています。それに少し前までは自分の中の一方的な気持ちだけでしかありませんでしたが、お店のSNSを始めての反応や、前回お知らせしたドネーションブック*に励ましの言葉を添えて協力いただけたりして、会ったことのある方もまだの方もいまここで見えない誰かがともにいてくれることに背中を押していただいています。

具体的にお店の方は、といえば5月半ばにお店の土台部分を頼んでいた内装屋さんから現場を引き継いで、壁のペンキ塗り、カウンターや本棚、テーブル製作などのD.I.Yを進めています。東京のお店もできるだけ自分で作りましたが、慣れているわけではないのでYoutubeでやりたいことを検索し、動画で予習をしながらコツコツと。何かを作る時は組み立てるのが一番楽しいのですが、その前の規格を決めて形を構想、材料や道具を揃える、と言った準備段階が完成までの9割なんだと感じています。また本を届けたり、作ったりするときにもあることなのですが、予期せぬ良き偶然が起きることがあります。この場合だと、長さを間違えて切った端材が他の場所にぴったりはまったり、失敗したと思ったときに余っていた材料で補たりと些細でたいしたことのない事柄ですが、こんな感じの小さな幸運がちょこちょこ起こることがあります。そんな時は「君の進むべき道は間違っていないよ、そのままやってみたらいい」とこの場所から言ってもらえているような気がして嬉しくなります。そんな感じで自分なりの小さな良いことを拾い集めながら日々お店づくりに取組んでいます。やっている一日の作業に目を向けると全然進んでいない、本当に出来上がるのか、と打ちのめされそうになりますが、お店の入り口からの定点観測した写真を見ると数日おきにでも形ができていることに気づきます。日々ひとつずつでも積み重ねることの大事さと、それしか道がないことを教えられるようです。

また今回から導入するPOSレジの手配や外観に使う暖簾の発注、ショップカードの制作、照明やスピーカー、ブックスタンドなど細かい備品の調達をしたり、喫茶用に祐天寺のcoffee carawayに監修してもらったコーヒーの試作をしたりと、頭の中はお店のあれこれでいっぱいになっていて、前々回の記事でまだ他人事のような気がする、と書いていましたがさすがに「お店をやるんだぞー」という気持ちが芽生えています。実は七夕にはゆるやかにオープンをしていたい気持ちがあるので、次回の記事は佳境になっている気がします。まだ肝心の本の選書と発注にかかれていなかったり、保健所への営業許可もこれからだったり、なんだかんだで時間のかかっている融資の審査もまだ下りていなかったりと焦りもあります。果たして間に合っているのか?と自分に問いたところで、それまでの道のりを一日ずつ積み重ねていくしかありません。オープンしてからも手直しを繰り返してく、そんなゆるさのあるお店になりそうですが、そこは浜比嘉島に流れるおだやかな時間のせいにしてしまおうかなと思っています。沖縄は蝉の声が聞こえてきて、そろそろ梅雨が明けそうな気配がしています。

*ドネーションブックに現在までたくさんのご協力に心から感謝いたします。引き続き6月30日まで受付ていますので、なにそれ?という方はぜひご覧ください。(7月中旬過ぎに完成、順次お届けできればと思っています)

ドネーション特設サイト
https://hamahiga-aruhi.net

次回2022年7月5日(火)掲載予定です
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