• Twitter
  • Facebook
2023.09.22

昨年度モントリオールに滞在した建築史研究者・本橋仁さん。モントリオールは60年代から70年代にかけて、万博、オリンピックとビッグイベントを成功させ、いまなお都市の成長が続いている。その影で古い都市は破壊もされてきた。一方で、そうした近代化への抵抗の歴史もある。そうした都市・モントリオールの景観や住宅事情、あるいは芸術との関わりなどをめぐり滞在時を振り返りレポートしていただきます。第4回目は寒さ厳しいモントリオールの窓がテーマです。

 

サン゠カトリーヌ通りを歩く
場所:45°30’00.0″N 73°34’22.5″W
収録日:2023年2月21日

 

この街に来て、戸惑ったことがある。「あれ? このお店やってるの?」窓は大きく取られているのに、お店の明かりが付いているんだか、ないんだか……。こうゆう躊躇って、あまり日本では感じたことがなかったので、ちょっと新鮮だった。営業しているか分からないお店の扉をドキドキしながら開けてみる……。「ボンジュール、ハーイ」(モントリオールでは、フランス語が公用語だが英語話者も多いため、両言語で声をかけ、その返答で言語を判断する)。
「Hi!(ハーイ)」(やってた)。
さて今回はそんなモントリオールの気候と窓の話なんかをしてみたい。


ぐるぐると光って回る「OUVERT」のLEDサイン。


暗すぎる窓、え? やってんの?

日本のコンビニを思い出そう。コンビニの窓側には、雑誌が並んでいる。そして照明はなるだけ明るく! これが外から見て、中の人が立ち読みしている姿で、人を引き寄せるというコンビニのメソッドだと読んだことがある。それに、田舎にポツンとあるコンビニの夜の姿は、まるで村の行燈かのようだ。明るすぎて、夜はコンビニで待っていれば、クワガタからカブトムシまで寄ってくるので昆虫採集にもってこいなんだとか[1]。明るいコンビニは人にも虫にも大人気……。だからお店が明るいってことは、商売にとって大事なことと思っていた。
それなのにモントリオールでは暗いのだ。あの消費社会の象徴であるマクドナルドさえ、え?やってんの?と扉を開けるまでは半信半疑であるほどだ。夜はまだマシかもしれないけれど、昼間は、顔を近づけてもたまに分からない。


モントリオール市内のマクドナルド。真っ暗にみえるがこれでも営業中。

でも、この窓の暗さの要因はモントリオールの寒さにある。というのも、モントリオールの建築の「性能の高さゆえ」に暗いのである。暖かさと引き換えに、窓が暗いって訳。どうゆうことでしょう?

寒すぎる、日本。

この連載は日本語と英語で連載をしているが、もしかすると日本人とその他の国の読者とで、この記事は読まれ方が違うかもしれない。日本人も認識していないが、日本は窓の断熱性においては、他国から大きく遅れを取っている後進国である。また、他国からみても技術立国の日本が窓性能の後進国であることはあまり知られていない。後進国ながらも、これほど世界でエネルギー問題が叫ばれている中なので、これから日本でも窓の問題はもっと話題になっていくだろう。

いずれにせよ、まずハッキリ言って日本の家は寒い。ただ、こんなことを聞いたことはないだろうか? 「札幌に住んでいる人は、家の中では半袖だよ」と。東京に住んでいる人は、冬はコタツに入ったりしているのに……。これって矛盾していませんか?

この違いは、家の環境性能による。この性能を左右する要素の一つが、窓である。東京に住んでいると、冬に窓からヒヤッと冷気を感じることもあるだろう。これは外の寒さが伝わってきているのだから、要するに断熱性に劣っていることになる。北海道の家の窓は、ピシャッと冷気が来るのを抑えてくれる。世界的にみると、日本で一般に使われている窓の性能はとても低いことが知られている。日本をはじめ、どの国も環境政策のために住宅の省エネルギー化を進めており、家の断熱性能の基準が設けられている。北海道の断熱への意識ははやく、1953年の北海道防寒住宅建設等促進法の施工からはじまる。さらに「北方型住宅」として産学官をあげた研究活動が展開され今に至る。「札幌版次世代住宅基準」の設定も高く[2]、いまやペアガラスは当たり前、基準を通そうとすればトリプルガラスの性能が必要となってくる。一方で、これも世界からみれば、札幌の家のような環境が当たり前なのである。そう、寒冷地ではもはや冬は寒いものではない!

わたしが住んでいた京都では、冬は家の中が10度以下まで落ち込んでいた(いや、それは町家のせいなのだが……)。家の中でも服を着込み、ファンヒーターで足元を温めながら勉強をしていた。いい大人が、まるで苦学生の様相であったのだ。ガクガクブルブル。

性能のたかし! モントリオールの窓

しかし、モントリオールでは半袖でも十分暖かい。かといって、暖房をガンガン焚いているかというと、そんなこともない。モントリオールの我が家の場合は、室温が低くなったら電気が入る簡単な仕組みのパネルヒーターのバーが、1LDKの家に4つだけ。最初に入居したときには、え、これで平気なの?と半信半疑であったけれど、冬に外がマイナス30度になろうと、なんだか家のなかは別世界のように温かい空気に包まれていた。しかも暖房で温められたボワッとした空気というよりは、当たり前のように過ごしやすい適温の空気が、いつでもそこに迎え入れてくれるような、そんな印象がある。ありがとう、パネルヒーター。

モントリオールは、基本的にアパートも組積造のことが多いので、そもそも壁厚も厚く、それが高い断熱性能の要因ともなっているだろう。24時間のパネルヒーターのおかげで、この壁も十分に蓄熱されているようだ。また、窓の断熱性能は高く、当然に樹脂サッシ。窓に手をかざせば、すこしコールドドラフト(窓から冷気が下りてくる感じ)を感じることはあるけれど、まぁ心なしか涼しいかな……程度のものである。なにせ京都の家は、外から、0度のスキマ風が入っていたのだから……(でも大好きな家です)。

窓にも、さまざまな種類がある。以前、北海道の住宅を取材したときにも、「いまや寒冷地だからといって、寒いというこれまでネガティブな前提が建築のデザインそのものに影響を与えることはなくなった」[3]と建築家自身が述べていたのは印象的であった。北海道でも当然、複層ガラスが使われていて、ダブル(二層)はもちろん、トリプル、さらにはクワトロまであると聞いた。そんな高い窓の性能によって、建築の形態において気候によるバナキュラー性はなくなりつつあるようだ。ネガティブにいえば、地域的な特色がなくなってきているともいえるし、ポジティブにいえば建築デザインの可能性は、大きく広がっているともいえるだろう。

モントリオールでも、街を歩いていると、古い建物で二重サッシ(複層ガラスではなく、単純にサッシが奥と手前に二つ付けられているもの)を見かける。ただ筆者の住む家も古いながら、窓は変えられており、Low-Eガラスがはめられていた。カナダでは環境性能の改善を求めるべく、建築の窓の交換にも政府が助成金を負担するなどといった政策を取っている。もちろん、断熱性能の高い住宅はエネルギーコストも低くなる。カーボンニュートラルを目指すために、ビルのエネルギー使用量を開示することを求める条例が制定されたところだ。家の環境性能を守ることは、住民の住みやすさもさることながら、環境負荷を低減するための重要な要素なのである[4]

濃い窓のつくる意匠、ネオン

さて、一方でデメリットもある。それが窓自体の暗さだ。光が重なった窓を通る必要があることを考えれば、当然だろう。Low-Eガラスは、窓に金属皮膜が施されているため、やはり透過性は悪い。ネットに公開されているチャートによれば、一般的なシングルガラスの場合は、透過光は90%。その一方で、ダブルガラスの場合は82%。トリプルでは74%まで落ちる。さらに、Low-Eの場合は、ものによっては60%ほどに落ち込む製品もあるようだ。ただお店がやっているか分からないのでは、お店側も商売上がったりだ。

そこで多くの商店が取り付けているのが、「オープン(フランス語圏なのでOUVERT)」と書かれた光るネオンサインである。確かに海外に行くと、この手のネオンをつけていることも多いとは思う。だが日本ではあまり見ない。つけているとしても、それはオシャレのためだったりすることが多いように思う。ただ、モントリオールでは本当によくこのネオンが目につく。窓にピッタリとつけられた「オープン」のカラフルな照明は昼間から当然ついており、この店がやっていることの証になっている。日本とは違い、商売上がったり!を防ぐための、喫緊の課題のためにつけられている。


連なるOUVERTのサイン。

また、お店の内容を示すものもある。あるいは地域差もあって面白い。たとえば、基本的には、OUVERTとフランス語で書かれるところ、この地域に住む住民にはスペイン語系の住民が多いからか、スペイン語で「ABIERTO」と書かれているものもある。それに、タバコを扱うお店では、内部を見せないためにわざと窓にシールを貼っているわけだが、それでも「オープン」を示すために、わざわざサインの形で、そのシールがを切り抜かれているではないか……。


スペイン語、「ABIERTO」の看板。


くり抜かれた「OUVERT」看板、ちょっと怪しげ。

「OUVERT! OUVERT!!(オープン!オープン‼︎)」と、こちらに訴えかけてくる光るLEDサイン。そんなダウンタウンの街並みにも、モントリオールの寒い冬と、地球環境を守る現代の建築事情を見た気がする。


冬のモントリオールに、ネオンサインはよく映える。

(第4回・了)


[1]
本文とはほぼ関係ないが、いかに日本のコンビニが明るいかは、この記事をみれば一目瞭然であろう。素敵な記事なので、参考に付しておく。
平坂寛「コンビニで昆虫採集」デイリーポータルZ、2011年7月23日
https://dailyportalz.jp/kiji/110722146101

[2]札幌版次世代住宅基準については以下のサイトに詳しい。
https://www.city.sapporo.jp/toshi/jutaku/10shien/zisedai/zisedai.html

[3]「U字の間仕切りが、上空をつなぐ」TOTO通信、2016年春号
https://jp.toto.com/tsushin/2016_spring/case03.htm

[4]ケベック州による省エネルギー住宅の取り組みは以下のサイトに詳しい。
https://transitionenergetique.gouv.qc.ca/en/residential

*写真はすべて筆者撮影
*次回は2024年1月中旬に更新予定です