第6回目:恵文社一乗寺店 鎌田裕樹さん | かみのたね
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2018.09.18

第6回目:恵文社一乗寺店 鎌田裕樹さん

書店員さんがオススメするフィルムアート社の本 / 鎌田裕樹

フィルムアート社は会社創立の1968年に雑誌『季刊フィルム』を刊行して以降、この50年間で540点を超える書籍(や雑誌)を世に送り出してきました。フィルムアート社の本と読者をつないでくださっている全国の目利きの書店員さんに、オススメのフィルムアート社の本を紹介していただく本連載。今回は恵文社一乗寺店の鎌田裕樹さんにオススメ本を紹介していただきました。

 

祖父と古典文学の話をし、遠いフランスの友人とクンデラについて片言の英語で語り合う。普遍的なものであるはずの言葉/文学というものが、〈翻訳〉という行為を介すことによって、時代や言語を超えて共有されていく。あるコピーライターの表現を借りれば、私たちは翻訳家の眼鏡を通じて他言語の文学に触れていて、その眼鏡をかければ、たとえ挨拶の言葉さえ知らない国の小説も読むことができます。言語を変換するだけが翻訳の妙ではなく、その国の文化や社会、時代背景を理解し、読者に作品の魅力を伝えることも良訳に欠かせません。なんにせよ、すでにリズムの合う翻訳家と出会っているあなたはきっと運が良いと思います。

メキシコ系、ペルー系、韓国系、旧ユーゴスラヴィア系…、ここ数年でアメリカ以外の国にルーツを持つ作家の作品が続々と邦訳されていることをご存じでしょうか。(日本では〇〇系アメリカ人と書かれることが多い)それら新「移民系(immigration)」とでも言うべき作家たちを紹介している代表的な翻訳家に藤井光という人がいます。グローバリズムの作用は文学においても例外ではなく、かつての典型的な米文学の要素は薄くなりました。そこで必然のように台頭してきたのが、多様なルーツに彩られた、無国籍な空気を纏う作家たちです。藤井さんは私たちに翻訳を通じて、現代アメリカの文学、社会像を見せようと試みています。社会学的センスを持ち合わせた稀有な翻訳家であり、我々日本人にとって、現行の世界文学を理解する上で欠かせない人物です。

文芸翻訳入門 言葉を紡ぎ直す人たち、世界を紡ぎ直す言葉たち

藤井光=編
四六判・並製|272頁|定価:1,800円+税|ISBN 978-4-8459-1618-4

「わたしの好きなフィルムアート社の本」は、その藤井光さんを編者に据えた『文芸翻訳入門 言葉を紡ぎ直す人たち、世界を紡ぎ直す言葉たち』です。普段、文芸書を扱う出版社ではないフィルムアート社から藤井さんの本が刊行されると知った時は、一読者として素直に喜びながら、その目利きに感心しました。現在の日本翻訳事情を扱わせるにはこの上ない人選です。各国の文学論ではなく、〈翻訳〉という行いそのものへフォーカスされた本書は、旬の翻訳家10人以上の寄稿から構成された、さながら「文芸翻訳」を特集した雑誌のような性格を持っています。英語圏に限らず、ロシア、チェコ、スラブ、韓国など、多国籍な言語を相手取る旬な翻訳家たちが語るそれぞれの流儀。海外文芸翻訳の良い入門書です。

単に海外の小説を読むためのツールとしてではなく、翻訳そのものを楽しむためのヒントと提案。さて、翻訳家の眼鏡から見える景色はどんなものでしょうか。

 

プロフィール
鎌田裕樹かまた・ゆうき

1991年生まれ。千葉県出身。大学進学を機に京都に移住。学生時代からフリーペーパーに書評を執筆するなど精力的に活動。恵文社一乗寺店のマネージャーとして、海外文学などを中心に選書を担いながら、イベントの企画にも挑戦中 。

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