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2019.01.28

フィルムアート社は会社創立の1968年に雑誌『季刊フィルム』を刊行して以降、この50年間で540点を超える書籍(や雑誌)を世に送り出してきました。フィルムアート社の本と読者をつないでくださっている全国の目利きの書店員さんに、オススメのフィルムアート社の本を紹介していただく本連載。今回はとほんの砂川昌広さんにオススメ本を紹介していただきました。

 

『めくるめく現代アート』

筧菜奈子=著
A5判・並製|160頁|予価:1,500円+税|ISBN 978-4-8459-1579-8

奈良で「奈良町家の芸術祭はならぁと」というイベントがあり、縁があってお手伝いさせていただいている。使われていない町家に現代アート作品を展示するもので、アートイベントと町家の利活用が一体となった全国的にも珍しいもの。私が本屋をしている大和郡山にはじめて訪れたのも「はならぁと」がきっかけだった。

その時のメイン会場は大正時代に作られた元遊郭の3階建て木造建築。各部屋には様々な現代アート作品が展示されていた。窓から身を乗り出して見ると、軒下にカラフルな色水が入った小瓶がずらりと並んたものや、小さく開いた穴から部屋を覗いて見るものあり、町家ならではの構造を生かした作品はとても印象的だった。

恥ずかしながら、それまで現代アート作品に触れる機会もなく、アートといえば絵画や彫刻、そして現代アート素人には理解し難い謎の造形物くらいの印象しかなく、こうしてその場所の特性を使って生み出される作品を「サイト・スペシフィック」と呼ぶことを後日知り、それ以来、毎年開催されるはならぁとをより深く楽しんでいる。

2016年に『めくるめく現代アート』が発売されてから、はならぁとの開催期間に合わせて本書を仕入れ販売している。「サイト・スぺシフィック」など現代アートの用語はもちろん、今活躍する主要な現代アート作家が網羅されており、現代アートの入門書として好評だ。本書の大きな特徴として、著者の筧菜奈子さんが文章だけでなくイラストも描いていること。作家や作品の特徴をイラストとキーワードで紹介することで、長文を読まなくともそれぞれの肝を把握することができる。

どんなジャンルの入門書でもそうだが、分かりやすく説明するために、本来持っている魅力まで削ってしまうことが多い。けれど本書は、専門的な現代アートの世界を一般の人に向けて一般の人の言葉で説明するのではなく、イラストやアーティストの言葉を使うことで、現代アートの持つ魅力をそのまま伝えることに成功している。

はならぁとのようなローカルアートイベントには現代アートファンだけでなく、一般の来場も多く、アート作品がよく分からなかったという声をよく聞く。アート観賞には感性だけが問われているイメージがあるが、知識があることで作品への理解は確実に広がる。本書を1冊でも多くの人に届けることで、現代アートを楽しむ人が増えると思うと、この本を売ることは書店員としての喜びである。

 

プロフィール
砂川昌広すながわ・まさひろ

1975年兵庫県尼崎生まれ。とほん店主。書店ライター。大阪の新刊書店にて14年間勤務。「週刊現代」「本の雑誌WEB」「図書新聞」にて書評の連載を持つ。
勤務先である書店の閉店をきっかけに、2014年2月に奈良県大和郡山にて本と雑貨を販売する4坪の本屋「とほん」をオープン。
店名の「とほん」は「雑貨とほん」「大和郡山とほん」「人とほん」「町とほん」など、いろいろなものごとに「と、ほん」と繋がっていけたらという思いから。

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