第6回:VTuberが踊るとき ──代理する肉の流通 | かみのたね
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2021.12.17

第6回:VTuberが踊るとき
──代理する肉の流通

踊るのは新しい体 / 太田充胤

ポルノグラフィの成立要件

 ただしすでに引用したように、斎藤が以上の議論を通じてやろうとしていたことは「CGの可能性に新たなものを付け加える」ための思考であった。考えるべきことはCGの欠落を補完する方法だけではない。仮想空間の人形たちには、欠落による問題を回避する選択肢も残されている。
 斎藤は章の結びで、かつてアニメーションが発展し、ポルノとしても成立してきた歴史を挙げながら、アニメーションは「それ固有の運動性を獲得することで、初めてフェティッシュたりえたのではなかったか」と指摘をする。アニメーション、すなわち仮想平面における人形たちは、現実空間の身体運用や物理環境を規範とするのではなく、個別の仮想平面ごとに新しく発明された規範を用いている。同様に、CGもまた「実写に追いつく」という方針を変更することによって、現実空間の人間を模倣することをやめ、仮想空間特有の方法で魂を獲得するという選択肢が残されている。ここでその具体的な方法まで示されているわけではないが、この予想もまた今振り返るには非常に興味深い。
 原初のVTuberキズナアイが2016年に登場し、その後雨後の筍のように無数のフォロワーが登場し、やがて熱狂的なブームが一段落した2020年のこと。TwitterのタイムラインにこんなWeb記事が流れてきた。

アダルトチャットで活躍するVTuberが海外で爆誕、人間のポルノ配信者が嫉妬に怒り狂うほどの人気ぶり

CGで作られた二次元キャラクターのアバターであるMelodyさんは、インターネットを介して性的な映像をリアルタイムで配信するバーチャルカムガールであり、バーチャルYouTuber(VTuber)です。「Projekt Melody」の名前で活躍するMelodyさんは活動を開始してわずか3日で1万人以上のフォロワーを集め、同業である現実のカムガールが激怒するほどの人気を得ています。[7]

 紹介されているのは、英語圏のアダルトチャットサービスで高い業績を誇るVTuberの話である。アダルトチャットでは生身の人間が画面越しに性的なパフォーマンスを行うが、いまや同じサービスをリアルタイムのモーションキャプチャーで動く3DCGが担っているという話だ。どうやら件の「Melodyさん」はYouTubeとアダルトチャットのプラットフォーム、それぞれにアカウントを持っているらしい。いうまでもなく性的なパフォーマンスが行われる場所はYouTubeではないが、こうしたCGのキャラクターを他にどう呼べばよいのかわからないので、ひとまずは「VTuber」という呼称が採用されているのだろう。ともあれ、ここでは20年前にまったく予想しえなかったことがすでに起きている。
 「Melodyさん」は3DのCGモデルであり、その容姿や挙動は現実空間の人間とはかけ離れている。「それが実写ではありえない」のは、彼女が動きだすのを待たずとも明らかだ。YouTubeで見たかぎりの印象ではあるが、簡単な物理演算で髪の束やアクセサリが揺れ動くさまも決してリアルとはいいがたい。にもかかわらずポルノグラフィとして広く消費されているらしいこの人形は、その成立条件であるところの主体=内面=魂の強度をいかにして担保しているのだろうか。
 すぐさま思いつくのは、それは視覚的にはCGだが、それを動かしているのは生身の人間であるはずだという前提、約束事が鑑賞者の側で共有されているという説明である。モデルの運動はあらかじめ作られたデータセット=確定記述の流し込みではなく、リアルタイムのモーションキャプチャーで生成されている(と信じることができる)。モデルの挙動が現実空間ではありえないものであったとしても、いや、むしろその挙動がノイズやラグや破綻を含んでいればこそ、我々はモデルをバックグラウンドで動かしている現実空間の肉体を意識することができる。これは視覚的には3DCGだが、ユーザーが消費しているのは本質的に現実の人間なのだ。

 このような解釈は、一見もっともらしく見える。しかし、私はそれとほとんど同時に、やはり10年前に経験したMMDのことを思い出してしまうのである。
 MMDが公開され普及したころ、ほどなくして頻繁に目にするようになったのは、初音ミクをはじめとした女性型モデルがほとんどポルノまがいの動画で踊っているさまだった。ニコニコ動画では利用規約でポルノが禁じられているから、それらは直ちにはポルノとは断じがたいような規定スレスレのものではあったが、性的表現を好ましく思わないユーザーを怒らせるのには十分だった。モデル製作者を含めた反対派のユーザーと、積極的にポルノ化を試みるユーザーとの間で諍いが生じているのを何度か目にした。ポルノ利用に怒った製作者が人気のモデルデータの公開を停止し、その不利益を被ったユーザーがまた怒り、性的表現は一時影をひそめるがほどなくしてまた別の形で噴出する……。
 私自身、その後の顛末をつぶさに追ってはいないが、こうしたいたちごっこの末に今どうなっているのかはすぐに確認することができた。
 驚くべきことに、いまではYouTubeにさえ──そこでもやはりポルノが禁じられているにもかかわらず──MMDによる直接的なポルノグラフィが無数に存在する。もちろんここでも、モデルたちはリアルではないし、挙動や物理演算は現実空間とかけ離れている。にもかかわらず、そこにはそう簡単に廃れない根強い需要があるらしい。
 それらの動画がいったい誰のどのような欲望に答えているのかという問いは、本稿で扱うことのできる範囲を超えている。しかしひとまず重要なのは、3DCGのモデルたちがまさしく斎藤の予想した通りのかたちでフェティッシュたりえているという事実、そして、その成立が決してモーションアクターの実在に依存するものではないという事実である。どうやら彼女たちはいつのまにか、「それ固有の運動性」を手に入れていたらしい。

 さて、それではその運動性とはいったいなんだろう、と考えながら最近アップロードされたMMDの動画を次々と眺めてみるも、答えはなかなか浮かばない。しかし、モデルの挙動そのものからいったん目を離し、検索結果に無数の動画が並ぶのを呆然と眺めていたとき、あまりに当たり前すぎて見過ごしていたある共通点に気がついた。
 そう、彼女たちはみな一様に「踊っている・・・・・」のである。
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