第6回:VTuberが踊るとき ──代理する肉の流通 | かみのたね
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2021.12.17

第6回:VTuberが踊るとき
──代理する肉の流通

踊るのは新しい体 / 太田充胤

肉体の再配布

 VTuberとMMDの関係については、もうひとつ見落としてはならない点がある。
先に見てきたように、ときのそらが踊っている動画はときのそら本人のアカウントにアップされているものだけではない。というか、それ以外のもののほうがはるかに多い。どういうことかというと、事務所が公式にモデルデータを配布しているのである。

モデルはホロライブ所属タレントときのそら(@tokino_sora)の公式MMDモデルです!
SNSサービスにおける「アバター」としての使用は許可しておりません。

みなさまへ
ホロライブの二次創作コンテンツを制作いただくことで、
活動を支えてくださったこと、改めて御礼申し上げます。

ライセンス規約をご理解賜り、遵守いただくことで、
当社はみなさまの二次創作活動に対して寛容な姿勢を取ることができます。

二次創作であるからこそ、ルールやマナーを守ることが大切です。
タレントが嫌がることや不快に感じるコンテンツは認めることはできません…
それぞれのタレントが公表している意向などがあれば、ぜひ参考にしてください。

関わる全ての方々が笑顔で楽しめる二次創作活動をわたしたちは応援します。[8]

 実際のところ多くのVTuberが、自らが仮想空間で受肉した体をこうして複製し、配布している。しかしまあ、「二次創作」とはいうが、いまだかつて本人の肉体そのものを使った二次創作などあっただろうか。
 ときのそらの魂=「中の人」が一度は受肉したCGモデルは、再び魂から切り離されて複製され、流通し、もはや本人のあずかり知らぬところで未知の魂が流し込まれつづけている。公式の動画においてさえ同様の流し込み作業が行われているのだとしたら(先の『彗星ハネムーン』のことだ)、出来上がった動画を見るだけの鑑賞者にとって、オリジナルと複製の区別はもはやないに等しい。それが一次的なのか二次的なのかという区別がありうるとしたら、それをアップロードしたアカウントが本人か否かという、あまり本質的とはいえない点においてだけである。配布されたモデルを使った作業自体はたしかに二次創作だが、その成果物としてネット上に現れる身体は、結果として一次的な存在を代理するのではなかったか。
 「ルールやマナー」という文言で暗に示されているのは、先のようなポルノグラフィでの利用のことだろう。率直に言って、ここで起こっていると想像されることは私の感覚だと尋常でないほど恐ろしい事態だが、その一方で非常に興味深くもある。肉体はひとたび高精度の魂を得ることによって、その魂から離れてどれだけ複製されようと、どのように流通しようと、優れた魂の器でありつづけられる。魂が流通し、これとは別に肉体が流通し、およそオリジナルの知らないところで受肉しオリジナルを代理する。「ときのそら」は彼女自身──そのようなものがあるとすればの話だが──の知らない場所で、彼女自身が知らないダンスを踊り続ける。そして、魂の鮮度と濃度が保たれているかぎりにおいて、そのようにして成立する身体は常にフェティッシュの対象でありうるのだ。
 かくも危ういところに肉体をさらしている彼女たちも、どうやら最低限の予防線は張っている。「『アバター』としての使用は許可しておりません」という文言すらなければ、ネット上には彼女の代理──それもテンポラリーな魂ではなく、生身の人間による減衰しない魂を持った──があふれかえっていたことだろう。
(→〈8〉へ)