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ドレスデン旅行|シャーロッテンブルクに戻る
2018.10.16-10.31

ベルリン狩猟日記 / 千木良悠子

ドレスデン旅行

10/16(火)
ルリンの真ん中に博物館島という場所がある。島というか、シュプレー川の中州なのだが、そこにベルリンの有名な博物館・美術館が並んで建っている。歴史博物館は博物館島の一画にあって、何度も前を通っていたし、地下に良い名画座があると人から聞いてはいたが、まだ中に入ったことがなかった。

フランクフルト旅行で俄然、ドイツの歴史に興味を持ったために、この日初めて足を踏み入れてみたが、展示物のボリュームといったら大変なもので、早足で見て回っただけで、三時間かかった。その資料の充実ぶりと展示場の巨大さは、とても日本の美術館の比ではない。三時間かけて分かったのは……ヨーロッパの歴史は、兎にも角にも、戦争の連続だということだ。無数の領主の名が歴史上に現れては消える……そこで起こったであろう、領土争いと虐殺。権力者の肖像画の横に物々しい甲冑や剣。ペストや魔女狩りの記録。血に塗れたキリストのイコンが恐ろしげに見えてくる。庶民の窮乏を描く小さな版画の異様な求心力にふらふらと近づいて行くと、ゴヤの作品だった。また名画の大盤振る舞いか。

だんだん絵ではなく、写真の展示が増えてきてようやく20世紀に入ったと思ったら、ナチス時代に突入である。無数の国威高揚のポスターとアウシュビッツの写真に頭がぐるぐるしてくる。ヒトラーの死亡を伝える新聞でそれも終わりかと思ったら、壁が建設され、東西が分断。1989年に壁が崩壊したのを最後に、展示場から出られたときには、はっきり言ってホッとした。今日のベルリンは、壁もなく戦争もなく、一応平和なようだ。

中にはアートの歴史のコーナーもあり、ファスビンダーやアレキサンダー・クルーゲのポスターなども飾られていたが、この博物館ではアートは扱いが小さい。歴史の授業で名を覚える王や権力者は、政治的手腕の優劣は様々あれど、基本的には、単純に戦争の勝者なのだと考えると、そんな乱暴な男たち(王はほぼ男ばかり)の名前を記憶に残す必要が果たしてあるのか、分からなくなってきた。

10/17(水)
の光が眩しすぎて目を開けていられないぐらい。この翌日、Zytaがポーランドに帰ってしまうことになっていたので、ハッケシャ・マルクトで待ち合わせて散歩をした。ベルリン大聖堂を眺めてから、シュプレー河畔の広場でカリー・ブルストを食べる。カリー・ブルストは、ベルリン名物のジャンクフードで、ソーセージの上にケチャップではなくトマトソースと、カレー粉がかかっているのだ。なんでこんな不思議な食べ物が名物なのか知らないが、観光客はみんなこれを食べる。京都の八つ橋、大阪のたこ焼きみたいなものだろうか。

夜はフォルクスビューネ劇場で«Three Billion Sisters(Drei Milliarden Schwestern)»というミュージカルを見た。チェホフの「三人姉妹」をもじったタイトルと、ウェブサイトに掲載されていた、奇天烈な宇宙人の扮装をした女優たちの写真が面白そうだったので予約した。劇場に入るなり、またフルオーケストラが劇判すると分かって衝撃を受ける。ベルリンはこれが羨ましい。どうやら学生も含む、若い世代の音楽家たちによるオーケストラらしい。

幕が開いて演奏が始まった瞬間から、何度も泣かされた。宇宙のどこかに、30億人の宇宙人姉妹だけが住む星がある。彼女らはお茶を飲んだり踊ったりしてホニャララほんわかと暮らしているのだが、じつは彼女らの星には、流星の衝突が間近に迫っていた。流星は、若い女優が空中をワイヤーで浮遊しながら演じるのだが、彼女は流星だけに言葉は喋れず、いつも一人ぼっちで歌っている。

素晴らしいオーケストラの演奏に合わせて、宇宙人の女の子たちは「私たちは若い、そして楽しい、だから一晩中踊り続ける。宇宙が爆発するまで」とヘタウマな歌を一生懸命歌う。人を食ったような変てこな英語の歌詞、ちょっと間の抜けたユーモアのテイストが、自分の演出するSWANNYの芝居と似ている気がして、泣かされながら嫉妬すら覚えた。

世界で、誰が今の若者のことを本気で考えているだろう。踊りや歌やアートが好きな、普通の孤独な若者のことを。大人はいつも金儲けで頭がいっぱいか、右だの左だの、争い事で忙しい。争い合う大人たちの背中に阻まれて、若者たちは元気が有り余っているのになすすべがない。

後で調べたら、演出家のBonn Parkは韓国にルーツを持つまだ大変に若い男性で、ベルリンの大学で学び、私も好きな映画監督のヴェルナー・シュレーターなどのアシスタントを経て、舞台演出家に。フォルクスビューネの若手俳優やスタッフチームと組んで作ったこのミュージカルは人気を呼んで、何度も再演されているらしい。ああ……私もベルリンに生まれて、こちらで大学に行っていたら、フォルクスビューネで修行して……今頃はフル・オーケストラの超かわいいミュージカルを作っていたかも……と、家のPCの前で夜中にこっそり歯噛みする。若い才能に対する醜い嫉妬である。

(メインテーマのPVがYouTubeに上がっていた。この「KAWAII」感じ……間違いなく日本でウケそう。)


 

10/18(木)
Zytaがポーランドに帰る日。荷物が巨大になってしまったので、運ぶのを手伝ってほしいと頼まれ、ヴァンゼーまで迎えに行く。ベルリン中央駅まで一緒に電車に乗って行き、ホームでワルシャワ行きの急行に乗り込む彼女を見送った。

帰宅してぼんやりしていたら、Zytaからのメールを受け取った。「Be strong、Yuko!」と書いてある。「そしてひたすらに書くのだ、書くことはあなたを強くする」とも。Zytaって何なのだろう、ほんの短い間しか一緒にいられなかったのに、強い結びつきを感じた。

体を動かしたかったので、夜、近所にあるHotel Oderberger Berlinのプールに行ってみた。ガイドブックで見たのだが、ここは20世紀初めに建てられた公衆浴場をリノベーションしたホテルだそうで、日によっては、ビジターも6ユーロでプールを利用できるのだった。プールのある部屋は天井が高く、壁や天井に装飾がほどこされ、まるで舞踏会の会場のようである。実際、水を抜いてパーティーに利用することもあるらしい。スイムキャップかぶって、気合い入れて泳ぐのには場違いな気もする、おしゃれすぎるプールだったが、体がなまっていたので、ぐいぐいと一時間近く泳いだ。

10/19(金)
クリストフとマヤの家に遊びに行く。クリストフのパートナーのマヤは、もともとポーランド生まれで、子どもの頃にベルリンにやってきた人だ。初めのうちは、学校に行ってもドイツ語がさっぱり分からなくて、大変だったらしい。この日は彼女がポーランドの料理「ピエロギ」を作ってくれた。薄く伸ばした小麦粉の皮の中にジャガイモや玉ねぎのペーストを入れて包む、餃子のような食べ物である。

食事の後は、クリストフが、プロジェクターで壁に映像を投影して、ベルリンが舞台のドラマや映画を観せてくれた。

まずはドラマ「4ブロックス/4BLOCKS」、これは今放送中のクライムサスペンスで、クリストフの住むノイケルンの街で実際にロケをしている。彼の家の近所の、よく知っている店や公園を舞台に、毎週「ヤク」の取引や銃の撃ち合いが行われているというわけだ。

『ヴィクトリア』は、ベルリンを舞台に撮られた最近の映画で、なんと全編ワンカット長回し。中にはカーアクションのシーンもあり、ワンカットはさすがに無謀だったのか、ちょっとだけカメラが映りこんでいるとか、いないとか。

それから、現在放映中のドラマ「バビロン・ベルリン (Babylon Berlin)」。1920年代、ナチ時代以前のベルリンを描いたサスペンスで、当時の町並みや衣装を再現して撮影されている。(このドラマにしては異様に退廃的な主題歌がドイツ国民に超人気、というのが面白い。バックダンサーの衣装がすごいから見て!)

最後に90年代のベルリンの映画として大変有名な『ラン・ローラ・ラン』。壁が崩壊した後の、どこもかしこも工事中のベルリンの姿が見られる。クライマックスの、電話ボックスとスーパーがある場所に見覚えがあると思ったら、つい最近何泊かした、友紀子さんの家のすぐそばのスーパーがロケ地だった。

10/20(土)
10月末から、またドイツ語学校の授業が始まる。時間があるうちに、もう一回ぐらい旅行がしたくて、ドレスデン行きのバスとホテルの予約をした。調べたら、ベルリンからドレスデンまでのバスのチケットはなんと往復15ユーロ弱。お手頃価格すぎる。なんで日本の国内旅行ってあんなに高いんだろうか。

夜、Theaterhaus Mitteへ、ますだいっこうさんの出演する演劇を見に行く。ここは、かつての学校をスタジオや劇場にリノベーションした施設で、インディペンデント系の劇団を中心に活用されているらしい。俳優のますだいっこうさんは、2011年に私の主宰するSWANNYの第一回公演に出演してくださったのだが、何年か前にベルリンに移住し、現在はこちらの舞台や映像作品で活躍されている。この日はかなり大量のドイツ語の台詞を、全身を使いながら喋っていた。私が慣れないスタジオにおどおどしながら入ってきたのを認めて、部屋の隅で目を細めたときの、彼の表情が不思議に妖艶で、強く印象に残った。一緒に芝居を作ってから早8年、きっと演劇漬けのベルリン生活で、どんな風景を見てきたのだろうか。

10/21(日)
前中、アレキサンダープラッツから、ドレスデン行きの長距離バスに乗った。バスの中で、ドレスデンの観光名所や歴史をググって、一応頭の中に入れる。

昼過ぎにドレスデン中央駅に到着。トラムに乗ってホテルまで行き、チェックインする。ホテルのすぐ目の前はドレスデン城で、その辺一帯、タイムスリップしたみたいに古い街並が広がっている。

でも、フランクフルトと同じく、城も教会もほとんどは第二次大戦後に建て直されたものであるはずだ。1945年2月13日から15日のドレスデン爆撃を、私はカート・ヴォネガットの小説『スローターハウス5』で知った。小鳥が「プー・ティー・ウィッ?」と鳴いているだけの焼け野原になってしまったのだと。

聖母教会の近くのレストランで昼食を食べた後、ツヴィンガー宮殿へ。宮殿の中のアルテ・マイスター絵画館を見学する。クラナッハ、ボッティチェリ、フェルメール、レンブラントとまたもや名画の連続。頬杖をついて不貞腐れている天使の絵で有名な、ラファエロの「システィーナの聖母」を見ることができた。

美術館を出て歩いていたら、広場のほうが騒がしい。ものすごい数の人が集まって、その周りを警察が囲んでいる。「メルケルは左翼ファシストだ」と書いてある看板を掲げて道端に座っている人がいた。ちょっと怖くなったので、そっとその場を離れてカフェに入り、インターネットで調べたら、反イスラム団体「PEGIDA」の集会だという。反イスラムの人々が、怪しいアジア人の女(私)を歓迎してくれるとは考え難い。怯えながら、ドレスデン名物のアイアシェッケというケーキを食べた。卵(アイア)のたっぷり入ったチーズケーキで、これはとても気に入った。

まだ時間があったので、ザクセン王が収集したお宝が展示された「新・緑の丸天井」というドレスデン城内の宝物館を見学する。ドレスデン城、ものすごく広い。最後に展望台に登りたかったが、閉館時間を過ぎてしまった。立派なドレスデン城だが、1945年の爆撃で甚大な被害を受けて、今なお修復中だという。

今回のホテルにはサウナがついているというので、楽しみにしていた。日本だとしょっちゅう健康ランドに行くのだが、ドイツでは勝手が分からないので、全然行けていなかった。ネットで調べたら、ドイツのサウナは男女混浴で、基本的には全裸で入るのがルールだと。全裸はハードルが高かったけど、とにかくサウナに入りたかった。恐る恐る地下のサウナルームに行くと本当に男の人が全裸でサウナに入っている。迷ったが、とりあえずは「ルールを知らない無礼なアジアの女」という設定で、バスローブを着たままサウナに入った。バスローブの前をきっちり閉めて座っていたら、向かいのサウナ室の中の男性と目が合った瞬間、股間を隠された。私が裸じゃないせいで、不必要な羞恥を感じさせたかもしれず、申し訳なく思った。

ホテルを出て、近くの居酒屋風のレストランで、ドレスデンの名物料理だという「ザウアーブラウテン」を食べる。甘酸っぱいソースで煮込んだ牛肉の料理で、美味しかったが、付け合わせのクヌーデルが、直径十センチ近くあって、やはり食べきれない。サウナ欲が再び湧いてきたので、寝る前にもう一度サウナに行ってから、久しぶりに大きなベッドでゆっくり眠る。今借りているミッテの小さな居室はベッドが大変小さかったので、しみじみ幸せを感じる。

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10/22(月)
テルでバイキングの朝食をとった後、聖母教会の中に入ってみる。この教会もドレスデン爆撃で破壊されたが、21世紀に入ってようやく復元が完了した。地下の一室に廃墟となった教会の写真や再建計画の際に制作された模型などが展示されていた。古い史跡が数多く残る街が、丸々一つ破壊されてから再建されるって、どれだけの労力が必要だっただろう。気が遠くなる。

昨日は行けなかった「ノイ・シュタット(新市街)」のほうへ。目的は、作家エーリッヒ・ケストナーのミュージアム。ケストナーは『飛ぶ教室』や『点子ちゃんとアントン』『エーミールと探偵たち』『ふたりのロッテ』といった児童文学で有名な作家だ。高橋健二氏の翻訳も良くて、私は『飛ぶ教室』のプロローグを読むと必ず泣いてしまう。力強い、子どもに向けたメッセージに胸が熱くなる。彼はファシズムを批判し、ナチスドイツに執筆を禁じられた。『ケストナーの終戦日記』という日記の本が私は好きで、以前自分のエッセイにも引用した(http://politas.jp/features/3/article/299)。

ケストナーはドレスデン出身。ミュージアムは、もとはケストナーの叔父さんの家だったらしい。展示室にはカラフルな棚が並んでいる。来訪者は赤や緑や黄色など、テーマ別に色分けされた引き出しを好きに開けて、中に収納されている本や写真や小物、記事を閲覧できる、という仕組みになっている。日本語の翻訳本や、ケストナーの愛用したタイプライターや帽子も展示されていた。

博物館を出て、ノイ・シュタットを少し歩く。ノイ(新しい)といっても、ドレスデンのそれは旧市街以上に古い歴史があるらしい。途中、ネットで見た牛乳屋「Dresdner Molkerei Gebrüder Pfund」に立ち寄り、二階のレストランでミルクライス(甘い牛乳の粥)を食べた。ここはギネス公認の「世界一美しい牛乳屋」だそうで、牛乳やチーズを普通に売っているのだが、店内が見事な模様の描かれた華麗なタイルで装飾されている。牛乳石鹸をお土産に買った。

トラムでホテルの近くまで戻ってきたが、まだ時間が余っているので、「クロイツカム」というバウムクーヘン発祥のカフェへ。チョコレートがけとプレーンと、二種類のバームクーヘンを食べる。

ドレスデン城にもう一度行き、「歴史的な緑の丸天井」という、昨日とは別の宝物館を見学する。こちらのほうが貴重なお宝がある模様。無料のオーディオガイドを聞きながら9つの部屋を巡る。どの部屋も見応えがあったが、途中、引くほど大きい宝石がずらりと並んでいる部屋があって、「アウグスト強王」の富と権力に時代をまたいで圧倒された。

夕方ごろ、行きと同じ場所からバスに乗って、ベルリンに戻った。ドレスデン旅行はお菓子も名物料理も食べたし、一人きりで混じりっけなしの「観光」ができた気がして楽しかった。

10/23(火)
きて家の掃除をする。

雨が降っていて寒かったけれど、どこかへ出かけたくなって「チェックポイント・チャーリー」の見学に行く。ここは東西ドイツ分断時代の検問所で、博物館になっている。東から西へ亡命した人々の写真と証言、所縁の品々、新聞記事などが展示されている。最後に映画室があって、上映されていた映画『気球の8人』をじっくり見てしまった。東独から西独へ気球で亡命した家族の物語で、ドイツ語吹き替えになっていたので最初気づかなかったが、主演俳優は、少し前に亡くなったジョン・ハートだった。ファスビンダー映画の常連(ときどき主演)俳優であるクラウス・レーヴィッチが、ジョン・ハートを監視する東独の警察役で登場していて、まさかの共演が楽しめた。ディズニーが製作会社で、まだ壁のあった1982年の映画だから、だいぶ西側からの目線で描かれているのだろう。西独に東独のセットを作って撮影したのだろうか。時代背景に思いを馳せられたことも含めて、面白い鑑賞体験だった。

10/24(水)
ンサーの南加絵さんが、バーで即興パフォーマンスをするというので見に行く。小さなバーだったが、予想以上にたくさんの、10人近いダンサーが出演していて、ギターの弾き語りに合わせて思い思いに踊っていた。Teo Vladというダンサーを中心に集まった「AMALGAM」というコレクティブらしい。終演後に会話したダンサーは、日本の「舞踏」、土方巽や大野一雄の表現に憧れているそうで、他のメンバーもそのあたりに興味関心がある模様だった。その夜は、加絵さんが私の部屋に泊まって行くことになり、途中のトルコ料理屋で一緒にケバブを食べてから、バスで帰った。

10/25(木)
絵さんとコルヴィッツ広場のマーケットに散歩に行った。雨が降っていて人通りは少なかったが、クレープやタルトを食べながら、フェーダーヴァイサーを飲んだ。これはワインを作る途中でできる、発酵中のぶどうを原料としたお酒で、秋にしか飲めない。美味しいのだが、ものすごく甘い。日本の甘酒みたいなものか。

部屋に帰ってから、加絵さんにヨガを習って、マッサージもしてもらった。

10/26(金)
所の、ポーランド風のカフェで日記を書く。南加絵さんが、友人が出演するダンスに誘ってくれたので見に行こうと思ったが、Googleマップを頼りに電車に乗ったら、通りの名前は同じなのだけど、全然違う場所に行ってしまった。名前が同じの別の通りが、ベルリンの中に幾つか存在することに衝撃を受ける。

10/27(土)
ーティストの田中奈緒子さんからお誘いを受け、WeddingのUferstudiosで、Christina Ciupke、Anke Strauß、Ditteke Waidelichによる«(UN)FOLDING»というタイトルのパフォーマンスを見る。

ちょっと見ただけでは良いとも悪いとも言えない、難解な作品だった。広いスタジオに白い紙で作られたオブジェが点在している。奥の高い舞台の上で、レオタードを着たダンサーが、自分の体よりも大きな紙を折り紙している。手前でインテリ風のドラマトゥルクの女性が、パソコンに向かって詩のような言葉をタイプしている。打った言葉がそのまま壁に投影される。壁際には白い紙をシュレッダーにかけている人と、「じょうろ」か何かの生活用品に白い紙を貼っている人がいる。それが一時間ぐらい続くだけ。最後に、ケータリングの係が登場して、甘くて辛いパイナップルのフルーツカクテル(唐辛子が入っていた!)を観客に振る舞い、それでパフォーマンスは、終わり。

聞けば、これはUferstudiosに関係する芸術大学のプログラムの一環で、アートと社会に関するシンポジウムが前日までに一通りあり、その結果を踏まえてのパフォーマンスだったらしい。つまりそれまでの会議の内容を知らないと、きちんと意図を汲むことができない。奈緒子さんは「このアーティスト、ダンスはすごいのだけど、今回はなんだか微妙だった」と申し訳なさそうに言い、「ベルリンのアートには、こういった初めに理論ありきの作品が以前から多い」と教えてくれた。助成金の申請の際に理論構築は重要になるらしい。「頭でっかち」と言ってしまえばそれまでだが、日本だと商業演劇だけでなく、文芸やアートの分野の演劇でも、人気の芸能タレントが出演して、チケットが売れないと赤字になったりする。どっちが良いかは簡単には言えないが、頭は使わないよりは使った方が良い気もする。

ミッテのタイ料理で、チャーハンを食べながら奈緒子さんと話す。高校生のとき好きだったバンドがかぶりまくっていて、異様に盛り上がった。タイ料理屋で大声で何曲も歌ってしまった。

10/28(日)
レナと久しぶりに会って、ポツダム広場のダンキン・ドーナツでお茶をした。夜、プレンツラウアーベルクのなんだかお洒落な、フュージョン料理のレストランで、音楽ライターの浅沼優子さんと食事をする。

浅沼さんは大学の先輩として知り合ったのだが、最近はイベントオーガナイザーとして活躍されており、この時期は12月に京都で行われるMAZEUM 2018(http://mazeum.jp)という音楽フェスの準備にかかりきりだとのこと。海外フェスの輸入版ではなく、外国人がそれに参加するために日本を訪れたくなるような、独自のフェスティバルを創りたい、と長期的な展望も含めて情熱的に語られており、胸を打たれた。その後、近くのバーで友人の誕生日会だというDJイベントに連れて行ってもらった。

10/29(月)
の日からまたドイツ語学校。朝早く、ミッテの家からトラムとSバーンを乗り継いで、シャーロッテンブルクまで行かねばならない。先生のドイツ語の話が何一つ分からず焦る。帰って宿題をしてから、荷造り。31日にはまたシャーロッテンブルクの家に戻るのだ。

10/30(火)
前中は学校。一度ミッテに戻って、荷物の段ボールをタクシーに乗せ、シャーロッテンブルクに運ぶ。また田中奈緒子さんが手伝ってくれて、頭が上がらない。翌日から日本に一時帰国する明石さんに、アパートに関する注意事項を聞いた後、ミッテの家に戻って、最後の一泊をした。

10/31(水)
りの荷物をすべてバックパックに詰めて背負い、アパートを出る。語学学校の授業を受けている間、なんだか気分が優れなかった。隣のパキスタン人の少年にプリントを早く回せと言われ、苛々して睨みつけたりしてしまう。

シャーロッテンブルクの家で荷解きして、私物を一つ一つ、片付けて行く。今日から広いベッドで悠々と寝られるのが嬉しいが、なんだか部屋が寒い。朝起きたらひどい風邪をひいていた。

 

<編集Tの気になる狩場>

【映画】
*特集上映
見逃した映画特集 Five Years
2018年12月14日(金)~2019月1月25日(金)
https://joji.uplink.co.jp/tag/minogashita
会場:アップリンク吉祥寺

*封切作品
12/21公開
『アリー スター誕生』ブラッドリー・クーパー監督 http://wwws.warnerbros.co.jp/starisborn/
12/29公開
『アタラント号』(4Kレストア版)ジャン・ヴィゴ監督 http://www.ivc-tokyo.co.jp/vigo/

公開中
『ディア・ハンター 4K』マイケル・チミノ監督 http://cinemakadokawa.jp/deerhunter/
『来る』中島哲也監督 http://kuru-movie.jp/
『山中傳奇 4Kデジタル修復・完全全長版』キン・フー監督 http://sanchudenki.com/
『台北暮色』ホアン・シー監督 http://apeople.world/taipeiboshoku/
『斬、』塚本晋也監督 http://zan-movie.com/
『ヘレディタリー 継承』アリ・アスター監督 http://hereditary-movie.jp/

【美術等展示】
上野アーティストプロジェクト2018 見る、知る、感じる―現代の書
2018年11月18日(日)~2019年1月6日(日)
会場:東京都美術館
https://www.tobikan.jp/exhibition/2018_uenoartistproject.html

民藝 MINGEI -Another Kind of Art展
2018年11月2日(金)~2019年2月24日(日)
会場:21_21 DESIGN SIGHT
http://www.2121designsight.jp/program/mingei/index.html

ブルーノ・ムナーリ 役に立たない機械をつくった男
2018年11月17日(土)~2019年1月27日(日)
会場:世田谷美術館
https://www.setagayaartmuseum.or.jp/exhibition/special/detail.php?id=sp00191

【書籍】
ウィリアム・ギャディス゠著『JR』(木原善彦訳、国書刊行会) http://www.kokusho.co.jp/np/isbn/9784336063199/
G.W.F.ヘーゲル゠著『精神現象学 上・下』(熊野純彦訳、筑摩書房) http://www.chikumashobo.co.jp/product/9784480098870/
トーマス・ベルンハルト゠著『凍』(池田信雄訳、河出書房新社) http://www.kawade.co.jp/np/isbn/9784309207636/
千葉雅也・二村ヒトシ・柴田英里゠著『欲望会議 「超」ポリコレ宣言』(KADOKAWA) https://www.kadokawa.co.jp/product/321608000168/