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2022.01.11

第7回:流れのなかで

本屋な生活、その周辺 / 高橋和也

2013年、東京・学芸大学の賑やかな商店街を通りすぎた先、住宅街にぽつんと、SUNNY BOY BOOKSは誕生しました。店主の高橋和也さんとフィルムアート社のおつきあいが始まったのはとても最近なのですが、ちょうど『ヒロインズ』を売りまくっていたり(250冊以上!)、企画展「想像からはじめる――Solidarity-連帯-연대――」が全国の書店を巻き込んだ大きなうねりとなって巡回されたり、すごいことを淡々と当たり前のようにやっていらっしゃる時期で、個人書店の底力というか、小さいゆえの機動力とか社会的な意義というか、改めて実感したのを覚えています。

以前のインタビューで「東京だからやっていける」とおっしゃっていた高橋さんですが、世の中の状況も変わり、決して楽観的ではないけれど、東京はもちろん地方でも本屋を始められる方がとても増えました。背景には、どこで買っても同じはずの本なのに、「大好きなお店を応援したいからここで買おう」と思う読者がすごく増えたことが大きいと感じます。SUNNYも特にコロナ禍初期に休業された際、心が折れそうなとき、お客さまからたくさんの激励を受け取って気持ちを保てたとのこと。だからこそ2021年2月に家族で沖縄に移住されることになっても、続ける意志が繋がれたのだと思います。

沖縄移住をすっぱり決断されたことといい、子供さんが生まれてからはより「生活」を大事にされる気持ちが強まったようにも感じます。ブレない軸を持ちつつも自然な流れに身を任せてきた高橋さんが、現実をどう受け入れ、これからどうなっていくんだろう、見守りたい方はたくさんいらっしゃると思います。高橋さんの考えややりたいことが少しずつ整理できるような連載になればいいなと思います。

12月の東京は、ふと入ったコンビニやスーパーのBGMがクリスマスソングになったかと思えば通り過ぎるお店に年末年始の休業、時短営業のお知らせやおせちの広告が貼られたり、帰りの電車に酔っ払いが増えたり、やたら道路工事をしていたりと、いつになくせわしない時間が流れていたと記憶しています。加えて雨があまり降らなくなってカラッとした冬らしい冬が来る、そんな些細な要素が重なってふとした時に年末年始がきたなーと思うのですが、初めて沖縄で年越しをした今回は気がついたら年が明けて三が日が終わっていました。

サンタさんを迎えたり(正月への助走)、干支を祀る神社に参拝に行ったり、おばーが作ってくれた中身汁やクーブイリチー(昆布の炒め物)、チーイリチャー(豚やヤギの肉や内蔵と血の炒め煮)など沖縄らしい正月料理を食べたりしましたが、どうも頭がお正月なんだということを認識していません。まだ食べ慣れていない沖縄料理で正月を感じられないというのもありますが、なんでこんなに年末年始感がないのだろうと思うと気候の違いが一番大きいような気がしています。元日もロンT一枚で外に出歩けるくらい、なんなら日差しの元ではTシャツでも過ごせるほどで、さらには蚊が飛んでいるのも確認しました(さすがに機敏さはなく、ふらふらと飛んでいました)。こうも暖かいなかで迎える正月に体は素直に戸惑っているようですが、寒いより暑い方が好きなのでそのうち気がついたら沖縄らしい体感を持って年末年始を迎えているのだろうなと思っています。

というわけで年が変わり、サニーも2021年をなんとか終えることができました。この連載が始まった昨年の前半は赤字を叩いていたのでひやひやしたことを書いていましたが、おかげさまで最終的にはプラス収支となりました。理由としては起爆剤になる展示が続いたこと、今まで明確に決めてこなかった月の仕入れ値を設けて調整したこと、オンラインサイトの定期的な更新とメンテナンスに加えてSNSで紹介した本とお店のニュースを紙でまとめたフリーペーパー「サニー通信」を始めたりと、自分一人の時には手が回らなかったあれこれに着手できたことがゆっくり形になってきているのかなと思っています。これもお店番スタッフ大川さんや展示スタッフ鷹取さんの頑張りと協力があってこそなので感謝しつつ、前述したいろんなことが回り回って昨年後半は展示に限らず平時でも本の動きが良くなっていました。オンラインも更新すると、見たので買いにきたわ、という方が結構いらっしゃったようで定期的な更新は店舗にも良い循環を生んでいます。とはいえ、このプラスも自分の国保や年金を払ったらおしまいくらいなものなので(それでもめちゃありがたいですが!)結局生活できるレベルとはいきませんでしたが、この体制を始めようと思った時はマイナス覚悟だったので一年目としては手応えありの結果だと思っています。たくさんの皆さんに感謝です。

そして沖縄の方の進展は? といえば年末に那覇の泊にあるNERD GALLERYで開催された沖縄発のアートブックイベント「NERD ART BOOK SHOP 2021」に参加して、動いている本の傾向を見たりスタッフの方々や作家さん、お客さんとお話しできたことでより具体的なイメージを手にすることができました。企画運営されている三河史尭さんからは、グラフィカルな作品を多く展示する沖縄では珍しいギャラリーとしてオープン2年目で感じたこと、そして初開催となった本イベントについてなど貴重な経験談を聞けました。伸びきって絡まった雑草を掻き分けながら未開の地を歩いていく冒険家さながらの険しさとそれを楽しんでいるような清々しさが混じる表情で「これだ! という手応えがまだない。ゆっくりと負けずにやっていくしかないですね」と語られている三河さんの姿が印象的でした。おっしゃる通り自分が1日滞在した日の来場者数は首都圏でのブックイベントに比べたら圧倒的に少ない数だったと思います。でも入れ替わり立ち替わりでどの時間帯も数人のお客さんがいて、ゆっくりと本を眺める穏やかな時間が流れていました。結果的に出品したサニーで扱っているZINEや独立出版の本たちは8割近くが完売していました。ジャンルレスに本を扱う本屋がほぼない沖縄でも反応があるかもしれない、そう思えたのは希望です。それもこれも実際に場所を作って前を走ってくださる方がいるおかげだなと改めて感じました。自分がやってきたことややりたいことはパッと思いつきで出てきたものではなくて、誰かがやってきたことやこれから誰かがやっていくだろう大きな流れのなかで繋がっている。そんなことを思って静かに励まされました。と同時に「所有するとは与えること」という言葉を思い出します。これは昨年読んだ松村圭一郎『くらしのアナキズム』(ミシマ社)で貨幣に換算し得ない人間関係を手放さないために大事なこととして語られていましたが、今回のことでひとつの場所を持つことでできる役割でもあるような気がしたのです。こうして受け取った目に見えない”想い”とも言うべきものを自分の場所に引き継いでいければと思います。場所を持つとは与えること、今までの自分はできていたかなと今日もまた省みる日が続きます。

 

<NERD ART BOOK SHOP 2021に出品していたもの>

*は会期中に完売しましたマーク(いずれも3~5部持っていきました)

(第7回・了)

 次回2022年2月1日(火)掲載予定です
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