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2022.02.01

第8回:ちょっとずつ

本屋な生活、その周辺 / 高橋和也

2013年、東京・学芸大学の賑やかな商店街を通りすぎた先、住宅街にぽつんと、SUNNY BOY BOOKSは誕生しました。店主の高橋和也さんとフィルムアート社のおつきあいが始まったのはとても最近なのですが、ちょうど『ヒロインズ』を売りまくっていたり(250冊以上!)、企画展「想像からはじめる――Solidarity-連帯-연대――」が全国の書店を巻き込んだ大きなうねりとなって巡回されたり、すごいことを淡々と当たり前のようにやっていらっしゃる時期で、個人書店の底力というか、小さいゆえの機動力とか社会的な意義というか、改めて実感したのを覚えています。

以前のインタビューで「東京だからやっていける」とおっしゃっていた高橋さんですが、世の中の状況も変わり、決して楽観的ではないけれど、東京はもちろん地方でも本屋を始められる方がとても増えました。背景には、どこで買っても同じはずの本なのに、「大好きなお店を応援したいからここで買おう」と思う読者がすごく増えたことが大きいと感じます。SUNNYも特にコロナ禍初期に休業された際、心が折れそうなとき、お客さまからたくさんの激励を受け取って気持ちを保てたとのこと。だからこそ2021年2月に家族で沖縄に移住されることになっても、続ける意志が繋がれたのだと思います。

沖縄移住をすっぱり決断されたことといい、子供さんが生まれてからはより「生活」を大事にされる気持ちが強まったようにも感じます。ブレない軸を持ちつつも自然な流れに身を任せてきた高橋さんが、現実をどう受け入れ、これからどうなっていくんだろう、見守りたい方はたくさんいらっしゃると思います。高橋さんの考えややりたいことが少しずつ整理できるような連載になればいいなと思います。

年明けから新型コロナとトンガ沖の海底火山が大爆発で心ざわつき、個人的にはお金やカード類が入ったケースと車の鍵を次々無くすというマヌケが爆発して連れに呆れられ、新しいミニバッグを買い与えられたりしていましたがみなさんお元気でしょうか。

コロナは同じ市内の米軍基地内でクラスターが起きたこともあって第6波を身近に感じたのは本当に早く、年明け2回保育園に通ったところで同じクラスの保護者をはじめ他のクラスやスタッフにも陽性者が次々出て閉鎖。さらに全部コロナのせいにはできないけれど、東京の感染拡大と比例してお店の売上も急下降、今回はECサイトの動きもぱたりと止まったのでどうしたものかと、スタッフの大川さんと相談を繰り返したりして新年早々目の前のことに手一杯な状況になっています。ひとまず出来ていなかったことの強化としてお店の棚とオンライン在庫の整理をすることにしたり、展示に合わせての刊行が差し迫った本の準備を退屈そうな子の相手をしながら行っていたのであっという間に時間だけは過ぎています。

東京もまん延防止等重点措置となりましたが、入店制限などの感染症対策を取りながら引き続きお店は開けています。というのもお店を閉めていた1回目の宣言下でも『とるにたらないおとこの話』、『SMALL STORY』と2冊の絵本を刊行、新・再入荷をECサイトで可能な限り更新して止まらず動いた結果が売上にも出ていたので状況を見つつ今回も止まらずにいこうと思ってのことです。それに昨年からじっくり時間をかけてつくってきた絵描き・清水美紅さんとの本もいよいよ完成で、1月下旬から刊行記念展もサニーで始まりました。コロナで作家の在店はなしとなりましたがオンラインイベントなどできる範囲で盛り上げていこうと話しています。元々制作のほとんどを作家とデザイナー<東京>と店主<沖縄>によるリモートミーティングで取り組んできたのでこの感染拡大による不便さはあまり感じませんでした。その点関わるみんなの信頼関係という土台があるからこそできることであって、少なくとも自分は、としか言えないですがまったくもって初めましての人たちとリモートのみで本の制作をするのは難しいだろうなと感じてもいます。そもそも展示という繋がりの上で本を作ることが多いですし、フリーのデザイナーの平本祐子さんとSUNNY BOY THINGSというチームで制作をしています。全てをひとりで行えない分ひとにどこかを手放すというか任せる気持ちになれないと話が進まない場面が必ずあって、そんな時にこの関わりの土台があるかないかは本当に大きいとリモートメインになった1年で感じました。そういう意味で東京から離れてお店で出会うはずの物理的なひととの接点が無くなった今、何かを生み出す幅みたいなことを思うと不安になったりもします。それも東京を離れる選択をした時点で分かっていたことですが、1月に家族以外でまともに会って話をしたひとは思い出しても健康診断の問診をしてくれたおじいちゃん先生だけという状況に、出会いの減り方が劇的すぎてそりゃ不安にもなるわと自分でも納得してしまいます。でもコロナもあるし人見知りだし面白い話もできなしの3拍子が揃って、どこかに出向くのも誰かを誘うのも憚られて立ち止まるという感じに沖縄での場所作りが停滞気味なの(とマヌケ爆発)も加わって、心が少しへこみがちだったりします。

また本連載のタイトルにもある「生活」というところでも、この一ヶ月は保育園閉鎖からの自粛喚起でリモートとなった連れと家族3人での引きこもりの日々が続いています。自粛生活にも色々なパターンがあるけれど僕らの場合まだ手分けして子が見れるのでマシな方だし(とはいえ一杯一杯ですが…)、子が2回PCR検査を、連れが1回抗原検査を受けて陰性だったのでひと安心な気持ちです。東京での1回目の宣言下は電車に乗るのもこわい、公園は人でいっぱい、児童館は閉鎖で行くところがなくて時間を潰すためにひたすら近所をベビーカーで徘徊散歩していました。その点こっちでは車もあってドライブに行けるし、歩いて海にも行ける環境に心のざわつきが抑えられています。ここにきて早一年、子の成長を考えればすごいもので、ついこの前までちょっと歩いては転んでいたかと思えば今はそこらじゅうを走りまわっているし、お箸とトイレも少しずつ自分でできるようになってきています。それにYouTubeばかりみていて心配していましたが、『アンパンマンおしゃべりのりものずかん』(フレーベル館)や『きかんしゃトーマス大図鑑』(ポプラ社)などキャラクターの絵が並んでいる絵本に始まり、最近は谷川俊太郎、長新太『きもち』(福音館書店)、長新太『にらめっこしましょ』(福音館書店)、五味太郎『みんなうんち』(福音館書店)などをみて「ママえんえんしたー、こんなしてアップップー」とお話の展開にも興味を示す様子が見受けられてきました。これらの絵本を何度も持ってきて読むのでこっちは少し飽きていたりするのですが、よくみていると気にする所や読む視点が変わってきたりするので時折り「おー」となったりします。この自粛生活でなんとなく定例となった寝る前の本の時間はこの子にとってはどんな時間になるのだろう。本人は覚えていないかもしれないけれど「ぜんぶブックする~」と言って両脇にどっしり本を持ってベッドに来る姿を忘れないようにしようと眺めています。多分これを愛おしさというのかなと思ったりして。

できていたことができなくなったり、そもそもできないと諦めてしまったりとついネガティブになりがちな自分の前で、子は特に気を張るわけでもなくちょとずつできることを増やしています。何もしていない、出来ていないと塞ぎ込みがちなときでも少なからず何かはやっているはずで、そういうときだからこそそれくらい視点を低くしてもいいのかもしれない。そう思うと最近の鬱蒼とした気持ちが少し晴れてくるようです。別に勘違いでもそれで少し前を向ければ良くて、そこからまた歩くっきゃないのです。そして2月が始まります。

 

 次回2022年2月22日(火)掲載予定です
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